第4話 見せつけられた現実

「あんた、仕事はどう?」

 叶愛が、意地悪そうな顔で聞いてくる。


「あーうん。以外と話が通じない人が居て大変。下っ端だから決まったことしかできないのに、結構怒鳴られたりして」

「ああ年寄りとかなぁ、昔からこうだとか言うもんなぁ」

 翔太が話に乗ってくる。


 そうそう、翔太は昔からこう言う子。

 その割には、人の話を聞いていなくて暴走をする。

「多いわね」

 一応声を控える。

 地元だから、誰かに聞かれると、また告げ口が来る。


 姿は少しくらい変わっても、基本的なものはみんな変わって無くって安心をした。


「おし、飲み直すか」


「そうね、どこへ行く?」

「もう九時だ、どこも閉店だよ」

 そう田舎は、閉店が早い。


「あーそうだ……」

「買い物をして、宅飲みね。何かつまみでも作って飲みましょ」

「叶愛の料理??」

 みんなの驚き。

 家庭課実習で、炭か生かしか作れなかった子が……


「変われば変わるんだな」

「失礼な」

 軽口と笑顔。

 昔と一緒。

 陸の家が近いので、途中のコンビニで物を買い込み移動する。


 陸の部屋は、農器具が置かれている納屋の二階。

 いくつか部屋もあり、ふすまを取っ払うと宴会もできる。

 

 ところが、そこから見たくもない光景が、ちらほらと見え始める。

 叶愛が料理をしながら、湊大を呼ぶ。

 二人が並んで、ああだこうだと言い合う姿。

 味見のために、叶愛が湊大の口に料理を放り込み、その指を舐める。


 何これ?


 そして、叶愛は湊大の横へ、また当然のように座り込む。

 会話も、わいわいとはずむが、私がついて行けない学校の話し、単位がどうとか。

 

 そして、ひよりが寝始める。

 陸の膝で。


「もう寝るか」

 当然のように雑魚寝が始まる。

 座布団を布団代わりにして寝始める。


 私も、酔っていたためか、ふっと意識が落ちる。


 どの位経ったのか、水が欲しくて起き出し、水を飲んだ後トイレへと向かう。


 部屋に戻るとき、奥側の部屋から、常夜灯の淡い光が漏れていた。

 さっき、座布団を出したときに、消し忘れ?

 私は、ふすまに手伸ばし、それを止める。


 灯りの下、むつみ合う二人。

 自分で口を押さえていても、漏れる声。


「声を出すな」

「だって、ふすまの向こうに皆がいるんだもん。いつもより感じる」

「変態」

「そうね。うんっ。あんぅ」

 叶愛と湊大。


 二人が絡み合う姿は、うす灯りの中でハッキリと浮かび上がる。


 そんな中で、叶愛の目が幾度か私とあう。

 それは、私がここに居るのが判っていて、どう? と問いかけるように。

 見たくないのに、目が離せず。私はそれを見続ける。


 それは、高校時代から、私が欲した光景。

 そう、幾度か試そうとしたけれど、二人とも一歩が踏み出せなかった。


 彼に抱かれ、目を細め嬉しそうな笑顔がこぼれる。

 やがて、ゆっくりだった動きは激しくなり止まる。


 痙攣をしながら、彼にもたれかかり、首筋にキスをする叶愛。

 ソレは同性から見ても、色っぽく幸せそう。

 見せつけるように、彼が引き抜かれる。

「ああっ、垂れる」

「トイレに行けよ」

 その声で、はっと我に返る。


 だけど、間に合わず。

 叶愛は、廊下にいた私を見ても驚かずに、ぼそっと言う。

「どうだった? 毎日愛して貰っているの。私、幸せよ」

 そう言って、彼女はトイレへと入る。


 ふすまの向こうには、湊大が裸で寝転がっている。

 高校時代の光景と重なる。

 少し考え、一歩踏み出そうとする私。


「何をする気なの?」

 背後から、叶愛の声がする。

 その声で正気に戻る。


 そう高校時代、最後まではしていない。

 だけどその手前までは幾度もした。


 最後まですれば、どんなにステキで気持ちが良いんだろう。

 ずっと思い描いていた。

 高島さんとの行為は、思い描いていた感じとは違い、痛みの方が大きかった。


 さっき見た、叶愛の表情はきっとそれとは違う。そんな気がする。

 嬉しそうでとろけ、惚けきった淫らな顔。

 それを私も体験をしたい。


 だけどそれを許さない、冷たい声。


 彼女は中へ入り、私は留まる。

 そして彼女は、見せつけるように湊大を、口に含む。


 やがて、再び大きくなり、彼女はそれにまたがると……

 静かに腰を落とす。


 高島さんでは無理。

 彼はそんなにすぐ復活をしない、それに大きさも形もちがう。


 翌朝、皆と別れた後、泣きながら家へと帰る。

 最悪なことに、下着がなぜか濡れ、昨夜見た夢のような光景が頭の中で繰り返される。


 そう、すっかり忘れていた高校生の時の望み。

 湊大と繋がりたい。

 私はずっと思っていた。


 だけど、事情が……

 いえ、お父さんは大丈夫と言っていた。


 大学へ行く意味を見いだせず、拒否をした私。

 高校時代、しようと言った湊大。でも、妊娠をする恐怖から逃げたのは私。


 出ていく前に、お母さんが見せた女の顔が、ずっと頭から離れなかった。


 部屋に籠もり、狂ったように自身の体をもてあそぶ。

 あの記憶、二人の行為を思い出しながら……


 涙をこぼしながら……

 彼としたときに、与えられるだろう快感を、想像しながら……


 私の失った物を、確認するために……


「あんた、既読スルーしたでしょう。その後よ。あんたが高島と付き合ってることを教えたの。かれに言ってなかったんだね」

 数日後、叶愛に電話をして、いつからなのかを聞いた。


 そう、先に裏切ったのは私。自身の弱さ。


「かれ? 優しいわ。とっても。いま、私しあわせよ」

「そう…… 知っているわ」

 そうでしょうね。彼を独り占め。

 

 そして、また私は、泣き始める。

 我慢できなかった自分と、優柔不断な自分を呪いながら……


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 お読みくださり、ありがとうございます。

 遠恋で、よくある話の一幕でございます。

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