第3話 大学生活

 みんな学部がバラバラ、そんな中でもコミュニケーションアプリのグループで、やり取りをする。

 苦労している柚乃に、飲み会とかの案内はかわいそうだからと除外。


 たまにみんなで集まる。

 早瀬 ひよりはやせ ひより白川 陸しらかわ りくがくっ付いたようで、長谷川 翔太はせがわ しょうたが叫ぶ。


「おまえらなあ、おい叶愛。お前フリーだろ。俺と付き合え。もういいだろ」

 私のことを知っている翔太は、ちらっとだけ湊大の方を見る。

「だめ。湊大とラブラブなの」

 それを聞いて、翔太だけではなくみんなが驚く。


「柚乃はどうすんのよ」

 ひよりが食いつく。

 そうコイツも、湊大が好きだった。

 そう、湊大はバランスが良い。


 顔だけなら、翔太の方が良いが、性格が軽すぎる。

 陸は、いい人だけど、容姿で少し劣る。

 だから、ひよりは陸を選んだようだ。


「柚乃は、高島と付き合っているみたいよ」

「高島?」

「うちのクラスにいたでしょ。ぼーっとした感じで、背はそこそこあって…… 文化祭か何かで委員になってた」

「ああアイツか。まあ、普通だな」

「そうね、普通ね」

 そんな話をしていると、珍しく湊大がビールをお代わりする。


 その晩の彼は、すごかった。

 私は、ベッドの上で、神の世界を見たわ。

 湊大はやっぱり、柚乃を好きだったのね。

 

 それを確認しながら彼に抱かれるのは、背徳感? 私の何かを刺激する。

 だけどもう、彼女には渡さない。


 それから、彼の家に入り浸り、料理も習う。

 それはステキな日々だった。

 苦痛だった学校生活。

 勉強が全く手に付かず、危なく落第するところだったわ。


「大丈夫か? おまえ、単位がぁ。落ちていくって寝言を言ってたぞ」

「大丈夫、何とかするから」

 だけど病気かもしれない、教科書の文字がゲシュタルト崩壊でもするように崩れていく。

 オボエナイトイケナイノニ……


「湊大。私が逃げないように抑えていて」

「なんで泣いてるの?」

「単位がやばいの」

 そうして私は、背中から抱っこして貰い、机に向かう。


「おら、おぼえろ」

「うっうん」

 ええと、『為替取引を行うこと』とは,顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引き受けること、又は……


「こら寝るな」

「むり」

「目覚まし注射」

「ひゃう。これ、いいけど集中ができにゃい」

「覚えたら動いてやる」

「ひどい。でもこれはこれで、良いかっもっ……」

 パブロフの犬的に、暗記する。

 そう体で覚える。


 目覚まし用に、バッチリと目が覚めるからと、変なおもちゃが導入された。

 リモコンで操作する奴。


 これ以降、私は銀行取引法で、濡れる体になった……

 


「おかげさまで、なんとか『良』でごじゃいまふた」

 成績表を見せながら、私は奉仕をする。

「おう苦しゅうない。尽くせ、しもべよ」

「ふぁい」



 まあ、そんな感じで日々は過ぎ、夏休み。

 みんなで、実家に帰る。

 みんな兼業農家、当然、夏は雑草と戦う季節。

「ヒエ取り、もういやぁ」

「集まって飲もうぜ」

「そうだな」

 コミュニケーションアプリのグループでそんな文字が飛び交い、あっという間に、いつもの飲み会が決まる。


「柚乃も呼ぶ?」

「そういえば、アイツは呼んだことないな。呼ぶか」

 私の意地悪な気持ちが持ち上がる。

 電話をして、彼女を誘う。



「おひさ」

「みんなも変わっていないわね」

 柚乃は、のほほんとした顔で現れる。

 だけど、左手の薬指に残る跡。


 普段は指輪をしているんだ。

 ふふっ。

 外して来たのはなぜ?



 ―― 大学組。叶愛から珍しく電話があった。

「飲み会するわよ。おいで」


 色々あったし、湊大の姿は田んぼや、部屋の灯りを見て時々いるのは確認をした。

 でも、お互いに好きとか口に出して、付き合っていたわけじゃないけれど、裏切ったという気持ちが私の中であって、どうしても足が遠のいた。

 メッセージもそう。

 お父さんが倒れたとき、既読スルーしてから文字を入れては消してそれからは、返せていない。


 高島くんとそう言う関係になった時、私は、そう、実は数週間落ち込んでいた。

 心の寂しさと、疲れ。彼の優しさに頼ってしまった。

 市内にいる湊大には、弱さを見せたくなかった。


 好きなのに、いえ、好きだから彼には……


 途切れた連絡。

 それがどこか、私の心を安心もさせてくれた。


 三年ぶりに見る皆、高校の時とは違い、すこし変わった?

 

 翔太の横、空いていたのがそこだけだった。

 湊大と離れているのは、淋しいようなほっとするような。


 色々なことを知ってしまった、子どもの時とは違う体。

 湊大に触れられたら、求めてしまう気がする。


 優しい、高島くん。

 でも、好きなのは今でも湊大だと判っている。

 付き合い出すときも宣言をせず、今もハッキリと別れていない。


 ずるい私。

 お酒の力を借りて、誘われれば彼とまた……

 いいえ、一度だけでもいい。

 来るときに、指輪を外してしまった。


 みんなは昼間、雑草取りをしていたらしく、死にそうだとぼやく。

 年々夏が暑くなり、田の中で草引きをするのは辛い。

 最近私はしていない。

 彼が、率先して、してくれるから。


「大変よねぇ」

「そうなの? 柚乃あんた、日にも焼けていないじゃ無い」

「それはきっちりと、日焼け止めをしているし」

「そうなの?」

 そう言って、叶愛は薄笑いを浮かべる。

 湊大との距離が近い。

 ノースリーブの肌が、触れ合っている。


 私はそれを見て、つい飲み過ぎる。

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