諦めと、悲しみと

第1話 遠恋と諦め

 私は、彼が大学へ行ったとき、付いては行かなかった。


 家は兼業農家で、地元の役場へ入り、家業を継いだ。


 そして、一年二年と時が流れ、私は別の人の手を取ってしまった。

 そんなよくある話。



「湊大、まってよぉ」

「おせえぞ、柚乃」

 男の子である湊大は、河原の岩場を軽やかに飛んで行く。

 

 小学校に入るとき、両親は田舎へ越してきた。

 元々は、海辺のほうにいたけれど、船が壊れてしまったからとか?


 私はそう聞いていた。

 でも実際は、大きな理由は少し違ったようだ。


 知っている人のいない学校。

 だけど、湊大が助けてくれた。


「コイツ最近、近所に来た奴だ。仲良くしようぜ」

 近所と言っても、湊大は集落の方に住んでいて、うちは外れの方。


 空き家の斡旋とかがあって、田んぼ付きで町から買ったらしい。

 湊大は、春先の田んぼで使う用水路の掃除の時、集まりに来ていて知りあった。

 

 学校の帰り、集落を抜けて私の家が最後。

 湊大はついでだと言って、毎日送ってくれる。


 そうして、私はなんとか馴染んで、楽しく暮らすようになった。


 彼は、高瀬 湊大たかせ そうた

 私は、沼田 柚乃ぬまた ゆずの

 そう、二人はいわゆる幼馴染み。


 仲の良い子は、大淵 叶愛おおぶち かなめちゃんや、早瀬 ひよりはやせ ひよりちゃん。

白川 陸しらかわ りくくんと長谷川 翔太はせがわ しょうた達が、グループで色々悪さもした。


 川で泳いだり、魚をとったり。

 白ハヤは獲っても良いけれど、アマゴや鮎は獲ってはいけないらしい。


 大きな川は危険で駄目だけど、支流の川では、夏によくキャンプをした。

 小さな頃は大人が一緒だけど、小学校の高学年になると子ども達だけで来ていた。


 集落から一キロも入ると、上流には昔の集落の跡地しかなく、川もものすごく冷たくなる。

 一〇分も泳げば、全員唇が紫になってしまう。


 でも着替えて、服を着ると…… そう数分もすると、暖かさが帰ってくる。

 この瞬間が結構好き。

 

 むろん、子どもと言っても、成長して変わってくる。

 小学校五年生くらいになると、誰が好きなんて言う話題も出てくる。


「柚乃はずるいわよね。後から来て湊大と仲良くなって」

 いつも、叶愛ちゃんは、そんなことを言い出す。

 そう私以外は、保育園とかからの知り合い。

 昔は、収穫時期になると近所が集まって一緒に稲刈りとかをして、一緒に寝ていたらしい。

「兄妹みたいに育ったのよ」

 そんな事を言っていた。


 最近は、コンバインで一気に刈って、ライスセンターへ持ち込む。

 そのため、ハゼかけをしなくなり、人手があまり要らないらしい。

 お父さんが来た時期、他にも来た人が居た。

 その人達が何か、もめたみたい。


 ほとんどが兼業で、収穫時期に仕事を沢山休むのが、自分ちのためならまだしも、近所のためにはできないとか、誰かが言ったとか。


 私たちには関係が無いけれど、打ち上げがなくなったので、お泊まり会もなくなった。


 だけど私たちは、子ども達で集まり楽しかった。

 それも、何時しか終わる。

 昔から、キャンプ二日目には、濡れた水着を着るのがいやで裸で泳いでいた。学校では恥ずかしかったが、このメンバーなら平気だった。不思議。


 でも誰かに見られて、親に知られて叱られた。

「小さな子どもじゃないんだから」

「「「えええっ」」」

 とまあ、反対したが、中学になると流石に理由も分かり始める。


 その頃、柚乃やひよりと話していて驚愕の事実を知る。

「あんたくらいじゃないの?」

「そうそう、小三くらいから、さすがに恥ずかしかったわよ」

 みんなも一緒に裸で泳いでいたが、みんな嫌だったらしい。

 私は少し、ズレているのか??

 確かに、男子もいたけど、明るい外で裸になるのって気持ちよかったのに……


 中学になると、みんな部活などもあり、会う回数は減った。

 だけど、湊大とは毎日会っていた。

 この頃から私は、漠然と湊大と結婚をするんだと思っていた。


 キスだってしたし、胸だって…… あれは、第二次成長期で徐々に私の体、形が変わって、それがおもしろいらしく、触りあいこをしただけだけど。

「いつの間にか乳首がでかくなっている」

 それが、湊大の興味を引いたらしい。


 私の方は、私の方で、胸は当然ないけれど、湊大の筋肉質な体にドキドキした。


 そうして高校。

 体も変わり、意識も変わる。

 だけど、リスクも知っているから、その先を望むことはなかった。


 そんな頃、我が家でちょっとした騒動があった。

 そう海の方から、引っ越した原因。

 お父さんが、海に出た後、お母さんが浮気をしていた。


 海に出たお父さんが、帰って来なかったらどうしようと毎日家で不安に思い、その心配をこじらして、誰かを頼ったらしい。

 よく分からない。


 だけど、その人と、また連絡を取っていたみたい。

 結果、お母さんはいなくなった。


 おかげで、家の家事や手伝いが私の仕事になった。


 湊大達が大学の話をするときに、私は行かないことを宣言する。

「どうして」

「お父さん一人だと不安だし」

 そうは言ったが、料理だってできるし、その辺りは不安じゃない。

 でも、急に痩せ、あんなに大きかった背中が、急に小さくなったように感じて不安だった。


「まあ、お母さんがあれだし、不安だよね」

「おい。そんなこと言うなよ」

 叶愛がぼそっと言ったことを、湊大が非難してくれる。


「仕方が無いか……」

「うん……」

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