第2話 図書館の彼女

 流石に、諒太もあそこまでされて、毒物と遊ぶ気は起きないので、図書館へ通っていた。


 部屋にいると、あの時の声や音が、フラッシュバックをするからだ。

 図書館は意外と、小説や雑誌が読め、お財布に優しい。


「ほうほう。これは良いところを知った」

 そんな、どこぞのご隠居な感じで、毎日通う。


 そして、夕方に来ると、少し年上のお姉さんがカウンターに座っている。

 近くの大学。

 そこにある、人文学部の生徒さんらしい。


 なぜ知っているのか?

 教えてくれたから……


 彼女は、少しロングの髪を後ろで束ね。馬の尻尾のように、周りを叩いて歩く。

 そう。

 出逢いはまさに、諒太はしばかれ、癖になった……


「痛っ」

「あっ。ごめんなさい」

 手に持っていた本が、床に落ちる。


 すかさず、二人がしゃがみ込み。頭突きをする事になる。

 ゴンという音が周囲に響く。

「「いてっ」」

 頭を抑えて、二人は見事に床へと転がる。


 結構な勢いで頭がぶつかり、口の中で歯がぶつかり折れたかと思った。

 なんとか起き上がると、お姉さんのスカートがめくれ上がり、淫靡な黒いメッシュおパンツが見えていた。

 諒太はこんなのを穿いて、意味があるのかと思ったが、大事な所はきちんと布があるとのことだ。


 何も言わずに、スカートを引っ張ったが、叫ばれることがなく、意図した事は理解をしてくれた様だ。

「ありがとう。頭は大丈夫?」

「大丈夫です。お姉さんは?」

「何とか。初めて、火花を見たわ」

 小声でお互いに話をした後、お姉さんの手を取り、立ち上がらせる。


「ありがとう。手慣れているのね」

「ああいや、幼馴染みが手がかかるので」

 そう言うと、彼女はにまっと笑う。


「良いわね」

「フラれましたけどね」

「あら。ごめんなさい」

 そんなやり取りがあった。


 彼女は、大学二年生。

 友垣 水季ともがき みずきさん。二十歳。

 髪が長いのも、スケスケおパンツもおことをしていて、そのためらしい。

 和装用の下着は、跡が出ないように薄いとの事。


 それから以後、ちょくちょくと会うようになった。

 無論俺は、これ幸いと勉強を教えて貰う。

 彼女は一人暮らし。


 そのおかげで、期末はバッチリだった。

「ありがとう。何か御礼をしなきゃ」

「高校生なのに良いわよ。その点数で嬉しいわ」


 本人はそれで良いが、親はそうも行かないらしい。

「連れておいで」

 母さんが、妙な圧を出しながら、笑顔でそう言った。


 母さん達の中では、凜とのことが確定だったが、最近姿を見せず。

 俺が友垣さんがと言いだしたものだから、ザワついていたようだ。

 そんなモノ、知らんがな。


 その頃、凜の方は先輩の既読スルーが、普通になっていたらしい。


 先輩は、そこそこモテた。

 だからバイト先で、適当に喰ったらしい。

 若い二人に、遠恋は難しいようだ。


 この頃、凜はクラスでも噂が広がり、少しだけ友達が減っていた。

 モノ好きなことに、諒太君かわいそうグループがいるようだ。


 そして、先輩のことが気になり、勉強どころではなかった凜と、教えて貰い張り切って頑張った俺。

 結果で、明暗は分かれた。


 そして、友垣先生への御礼という、親からの面接? が始まる。

「お招きいただきまして、ありがとうございます」

 当然、ガーデンパーティではない。


 個室のあるレストラン。

 だが、コースではない。

 色々な配慮の結果だそうな。

「まああ。あそこの人文」

 悪く言えるわけなどない。母さんの母校だ。


「まあ。お箏を…… まあ…… まあ……」

 まあが沢山。


 彼女は和やかに受け答えをしているが、ぼそっと聞いてくる。

「今日って、私のこと。ご両親に婚約者とでも紹介をしたの?」

「いんや。そんなわけ無い。勉強を習っている人としか……」

 そう答えると、眉間に少し皺が寄る。


「そう。そうよね。高校生だもの」

 そう言って、複雑そうな顔をする。

 この時彼女は、ちっと思っていたようだ。

 付き合う気になり、両親に紹介。

 未成年だから、必須よねとか……


 そうして、デザートを食っているとき、母さんがぶっ込んでくる。

「水季さん。この子と結婚をする気があります?」

「はえ?」

 彼女も、そう聞かれて、つい素が出た。


「いいえ。今すぐどうこうはないのよ」

 そう言って、母さんもあたふたする。


「今俺、勉強習っているだけで、そんな関係じゃないし」

 俺はそう言うが、母さんは突っ込む。

「そうなの? 水季さん。諒太はそう言っているけれど」


 そう聞かれて、彼女はスプーンを咥えたまま少し固まる。


「あのー。私が三つも上ですし、今実際、ご両親が考えている関係でもありません」

 その反応を見て、母さんの目が光る。


「じゃあ、まんざらでもないわね」

 そう聞かれて、彼女は困惑?

 俺も困惑。


「ええっ??」

「そうですね。諒太君かわいいし」

「やっぱり。よければ付き合っていいわよ」

 そう言って母さんは、サムズアップ。


「ええ??」

 俺だけがついて行けない。


「何がどうなって?」

 そう聞くと、母さん達は語り始める。


「知っておいて欲しいし」

 そんな前振りをして、凜のことを言い始める。


 態度がおかしくて、気にしていたこと。

 凜ママに聞くと、確かめるとなったらしい。

 お互いの老後に関わる事態。

 その動きは速く、凜の現状まであっという間に調べが付き、今彼女は泣いているらしい。


 体まで差し出したのに、捨てられたと……

「そんな事に……」

 俺がぼそっと言うと、母さんが反応をした。


「諒太。凜ちゃんを許しちゃ駄目よ。水季さんになさい」

「えええぇ」

「嫌なの?」

「嫌じゃ無いです」

 こうして、正式ではないが、付き合ってもいなかったのに、婚約者みたいな関係になってしまった。

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