第10話 そして彼女は……

 そして、彼は……

 私が初めてではなかった事を見破り、不機嫌な姿を見せた。


 そう彼の心。

 その怒りを見た私は、なぜか、心から彼を愛する事が出来たの。


 本心からの彼が見せた怒り、それは私の心に刺さり、色々な理屈をつけていた気持ちをまっさらにして、その日から、この人を夫として受け入れたの。


 そう色々な、積み重なった借りも含めて、どうやってでも、私はこの人に尽くして生きていく。


 お母さんも死んじゃったけれど、新しい家族ができた。

 なぜか、変態なおねえさんもできてしまったけれど、私は幸せよ。


 お墓で、そんな報告をした翌日。

「お盆のお祭りがあるだろう。その時に、町へと帰る。その…… 会えないか?」


 すでに、頭から。

 いえ流石に、忘れてはいないけれど、私は過去の事として決別ができていた。


 今になって、颯太からの電話。

 夫婦ですもの、私はあの人大成に相談をする。


 私の初めての人。

 きっとあの人は、機嫌が悪くなるだろう。

 それを知って、何をされるのか、私はぞくぞくとしていた。

 だけど……


「んんー? 会っておいで」

 彼は、あっさりとそう言った。


「えっ」

「幼馴染み。友人なんだろう。それに彼は町の顔役。そこの息子さんだ。繋がりはあった方が良い。その内、何かを始めたいときに、君を通して話もしやすいだろう。きちんと繋がりが残せるようにお話ができれば、きっと俺の役に立つだろう。田舎は、権力者の鶴の一声が効くからね」

 そう言って彼が、私を抱きしめて頭をなでてくれた。


 始めて、私が彼の役に立てる。

 私は、舞い上がった。


 広海が向こうで、睨んでいる。

 ふっふっふ。気持ちが良い。

「そうだな、準備がいるな」

「えっ」

 彼は何かを考え、計画を練り始める。

 そんな顔をしている。


 すると、姉さんが呼ばれる。

「どうすれば、効率的かな?」

「うーん、そうねえ。祭りの晩。彼女の実家。ねえ、窓からあそこだと送り火が見える?」

 テーブルで、何か構成を書き始めたので、わたしはお茶を入れに行っていた。


「はい。見れます」

「うん。じゃあ、決まりね」

「カメラをつけよう」

「でも、彼が状態を知るなら、電気も来ていない現状が良いでしょう」

 何か不穏な言葉が聞こえる。


「えーと、ナニをするつもりかな?」

「当然なにをするのかを見るんだよ。相手は男だ。心変わりをして君に危害を加えようとするかもしれない。それに、こう言うのは初めてだから、ひょっとすると、俺にNTR属性でもあれば新しい指向の鍵になるかもしれない」

 そう言って、彼は笑顔を浮かべる。


「えー。そう言うのを試すのは、姉さんがいるじゃない」

 私がそう言うと、なぜか姉さんは彼に引っ付く。


「私は、大成が初めての人で、他の男としようとは思わないの。残念ね」

 そう言って私を見る目に、なにか負けた気がした。

 だってあの時は、彼の事が……

 ―― ええい。


「どうせ今更だ。した事があるんだろ。それこそ何回も」

 彼の言葉が、グサグサと胸に刺さる。


 そうして、うやむやのうちに撮影がデフォルトになって、私の意見は無言で却下された。


 月の月齢や、差し込む光。

 それにより、なんとかノイズ無しで撮影が出来る機材を詰め込み、スマホをネットワークの接続ポイントとして設置をした様だ。

 気にしたら興ざめだからと、何処にどう設置をしたかなど教えてくれない。

「気にして、探すような事をしたら、見た分だけエッチをお預けにする」

 そんな事が決められ、姉さんの意見で、見た回数掛ける十日が決まった。


「そんなあ」

「見なけりゃ良いだけ。中に入ったらカーテンは必ず開ける事。良いわね」

「当日は、近くにいてくれるんでしょ」

「だけどなあ。車は必須だし、あの辺り。車がいると目立つんだよ。だから、まあ、別荘にいるから、到着まで殺されないように逃げろ」

 そんな、無責任な計画が実行された。


 そう、祭りの日。

 私は無事に事を済ませ、颯太を笑顔で見送った後。急いで車を飛ばし、別荘に戻る。

 別荘には、あの二人がいる。

 頑張ったから、ひょっとして、見ていてNTR属性とかがあって燃えたなら、やっているかもしれない。

 私の分を残しておいて。

 彼の体力を心配する私。


 私は、颯太のおかげで、中途半端に疼く体をなだめつつ、別荘へと急いだ。

 そう私の体は、あんなのじゃ全然駄目。

「もう、なんで昔はあんなので、幸せだったのよぉ」


 到着をして、リビングへ入る。

 予想に反して、二人はお茶をしていた。


「お疲れ。名演技だな」

「そう良かった。ねえ、中途半端すぎて疼くの」

 私は、花言葉の中に『危険な快楽』と言う言葉を持つ、月下美人をあしらった浴衣の裾を持ち上げる。


「おいおい、床に落ちている。残念ながら、俺にはNTR属性などはなかった様だ。おい広海。沙羅を綺麗に洗ってやれ。全身消毒をしとけ」

「はーい」

 お姉さんに、背中を押されて浴室に連れて行かれる。

 全身消毒? それは焼き餅なのね。


 最初の頃は、意識を飛ばしたまま、よく失禁をしてお姉さんに洗われた。

 大成さんよりも、私の体に詳しいかもしれない。


「ふん。まあ、お坊ちゃんなら、あの位の方が良い思い出になるだろう」

 途中で見ていられなかった、初々しい彼の行動。


 上手く行けば良いが、こじれれば面倒な関係。

 家族じゃないだけ、ましかも知れんが、面倒なことだ。

 彼はきっと良い思い出として、この出来事を覚えているだろう。

 俺への罪悪感を感じながら……


 こじれた自分の気持ち。

 それは、本人でもどうにも出来ない。

 結局追い込み、殺してしまったねえさん。


 忘れ形見は、同じ変態だし、妙に懐いている。


「今日はお盆か」

 沙羅は母親の、麗子の本性を知ったとき、正気を保てるかなぁ。


 大成は、モニターに映る、沙羅の部屋を眺める。

 それは、隠された赤外線ライトが照らしているが、色を失ったモノクロの部屋。

 それを見ていて、色々と思い出した。


 あの時、中学生の時に彼女を襲った。

 その時俺はもう、心の中で終わらせていた。

 ただ、その時見せられた、狂気のような冷めた彼女の笑顔。

 あれに引きずられた人生。

 そう彼女は死んで、すべて終わったんだ。

 随分長い事掛かった様だが、彼の心は、少しだけまともを取り戻したようだ。


 彼女は、その後も、母親の乱れた姿を見ることはなかった。

 

 長い幸せの後。

 それを知るのは、彼を見送った後……

「姉さんこれ」

「ああ。あんたのお母さん。私と同じで、ずっとあの人の愛人をしていたの。私は無償だけど、お母さんは有償で……」

「そんな、いつから?」

「さあ、知らないわ。ずっとじゃないの? それをするために、彼、こっちへ帰って来たみたいだから。多分ね。私が会う前だもの。膨大な量だから、多分最初からだと思うけど、ライブラリーなら在るわよ見る?」


 そう、それが入院をしていたときに、お金がなくなった原因。

 あの人は、契約を切ったのね。


 馬鹿なお母さん。あっちもこっちも裏切って。

 でもそのおかげで、私は幸せだった。


「おねえさん。分与いる?」

「はっ。そういえば、あんたが正妻」

 思い出したとばかりに、こちらを振り向く。

 だけど彼女は、きっといるとは言わないだろう。


「分けてあげないから、彼はいなくなったけれど、一緒に暮らそう」

「仕方ないわね。生き残った人間が総取りよ」

 そう言って、彼女はにやっと笑う。


「いいわ。遺言を書くね」

「あたしも書くわ」



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 さて、色々とかき混ぜ短編? が長くなりました。

 色々とあった割に、そこそこまとまったと思います。


 では、次回作公開は、少し開きます。

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