第6話 彼女は望む

 彼女が二本目を開けるころ、別荘の中へ誘う。

 そこで彼女は、なぜか俺の別荘にある、彼女専用の部屋と自身の本性を知る事になる。

 

 まあ、誘われたときから、ある程度覚悟はしていただろう。

 いい大人だ。

 完全防備の服装も、きっとそれを思ったからこその牽制。

 それでも諦めなければ、エッチ。もう一度くらい良いわ。

 きっとそんな感じで。


 だが、誘われ見せられたのは、見慣れない部屋。

 そして機材。

 当然、彼女は嫌がる。


 だが、怪我をさせない程度に、抱え込みながら押さえつけると、すぐに力が抜け、顔には笑みが浮かぶ。

「どういうつもりだ? ああっ。担保として動画を撮り。払わなければ旦那に見せるだけだ。おとなしくしろや」

 一世一代の、気合いを入れたベタな脅し。


 それだけで、力が抜けた。

 行為が進むに従って、彼女は変わっていく。

 本人は気がついているのかいないのか、俺が指示することに従い、彼女は自らの体を揺すり、快感をむさぼる。

 設置をしている大きなモニターに映る彼女は、嫌がっているその言動を嘘だと教える。

「ほら、麗子。もう振りなんかしなくて良い。感情の入っていない拒絶。体は俺を求めているし、甘酸っぱい痛みと貶される声で、お前は反応をしている。受け入れろ……」

 そこで彼女には、自身のことをじっくりと見て判らせた。


 だが帰り、彼女は口をきかない姿を見せる。

 黙って別れ、ふらふらと家へと彼女は帰っていった。


 行為の最中、「絶対もう会わない。今回だけでもう会わない」そんな事を繰り返し言っていた彼女。

 まあ旦那への、罪悪感もあったのだろう。

 多分ね。


 だが…… そんなわけも無く。

「美味しいお肉が食べたいの…… 駄目?」

 そんな電話が掛かって来始める。

 まあでも、誘いの電話が掛かって来ても、在学中は年に数度しか無理。

 俺は卒業後、町へと帰ることになる。

 ただそれは、彼女への恋心などではけして無く、憐憫すら浮かばない。


 そう、彼女の本性。それを確認して、完全に心は終わり、残ったのは研究者としての性。

 思いついたら、試す。

 その被検体の彼女。

 まあ、おもちゃだ。


 中学生だったあの時、キャパを超えるショックで俺の恋心などと言う物は、砕け散ったのかもしれない。



 そして今回、旦那が入院したとき、麗子姉ちゃんは知らないが、予後が悪い事を聞いていた。

 パパ活? いや金はやっていない。愛人、セフレ? の契約をしている看護師から聞いて……


 旦那。健司さんとは、こっちへ帰ってきてから幾度も顔を合わせ、娘の沙羅ちゃんとも仲良しになったつもりだ。

 母親に似て、かわいい子だ。

 小学校になってから、近所の颯太というガキと仲が良いらしい。

 そういえば、エアコンとお菓子に釣られて、母親も家に来ていたな。

 エアコンくらい買ってやれよ。


 そう思いながら、奴の部屋をノックする。

「ああ、本開さん。すまないね。また世話を掛けちまった」

 彼はベッドから起きようとする。


「ああ、ほらほら、センサーが外れてアラートが鳴るから」

 無理に動くなよ。全く。

 人が来たら困るんだよ。


「金のことなら心配要らないからね」

 とりあえず、言っておく。

 それを聞いても、彼は不安そうだから証拠を見せる。

「あんた達を見捨てやしないさ。証拠を見せよう。安心をして……」

 わざわざ持って来たんだ。


 だがまあ……

「てめえっ。この野郎」

 人に、食ってかかろうとする。

 恩人に対して、ひどい奴だ。


 躱しながら、一言言っておく。

「知らずに逝くのは、悲しいだろう」

 あーあ…… 肺炎で息ができないのに、マスクを外すから……


 そう、彼女。

 麗子姉ちゃんとの逢瀬を見せてあげた。

 だがそれは、残念な事に彼が元気になる力には、いたらなかったようだ……

「意外とひ弱だな」



「健司が逝っちゃった…… ねえ、大成。私と結婚しない?」

 旦那が死んで、一月くらいだろうか?

 いつもの逢瀬。

 そのベッドの上。


 せがまれるまま、少しきつめにしたから、まだロープの跡が消えていない。


 疲れた感じだが、彼女の顔には、うれしさ。幸せそうな顔が浮かぶ。

 その顔を見ながら、俺は答える。

「…… うん? 何で? やだよ」


 その瞬間。

 彼女が浮かべた、愕然とした顔……

 意外と笑えた。

「なっ、なんで。もう旦那は死んだし、これから毎日だって私で遊べるのよ。ほら、一日中。こんなのも入れていいから……」

 必死だな。

 ちなみに持っているのは、リモコンでコントロールが出来る、ブルブルするおもちゃ。


 ちらっと見て答える。

「家の中でそんな物。沙羅ちゃんが泣くぞ」

 そう言うと、ビクッとなった。


「そう。そうよね……」

 少し落ち着いたようだ。


 ぼそっと言ってみる。

「沙羅ちゃんなら良いかな」

「何が?」

「結婚……」

 葬儀の時に見た彼女。立派な大人になっていた。

 母娘だ、若い頃のお姉ちゃんに似た感じ。

 凜とした佇まい。

 気丈そうな美人系。


「あの子はまだ十八だし、付き合っている彼氏がいるの」

 なぜか、あわてて彼女は言い訳を始める。


「そういえば、あのガキか。十八だからって、姉ちゃんが沙羅を産んだの十八だろう」

「それはそうだけど……」

 ふっと思いついただけだが、良いかもしれない。


「まあ、考えておいて」

 それを聞いて、ぎょっとした顔で聞いてくる。

「本気なの?」

 一応、少し考えてから答える。


「本気…… そうだね。大丈夫だよ。今まで通り抱いてあげるから」

 一応、笑顔でそう言ったのに、彼女は何も言わなかった。


 そうして、それから約束の日にも別荘へ来なくなった。

 仕方が無いから、変態看護師さんと遊ぶ。


 変態看護師さん。彼女は、道ばたで拾った。

 風所 広海ふところ ひろみ。確か、二十七歳。

 仕事柄もあり、ショートヘア。

 控えめで、上品な胸。

 少し、日焼けをしても拘らない活発少女的なイメージ。

 麗子達親子とは、見た目のイメージが真逆。


 意外と、子供のように、何でも興味を持つ。

 だが、意外とさみしがり屋。

 でも、出しゃばることはなく、必ず一歩引く。

 状態を理解をして、支えるタイプ?

 意外と駄目だと思えば、スパッと切るタイプなのかもしれないが。

 そう彼女は、イメージと違い賢い。ひとだ。

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