第4話 思いはあふれる

「俺の憧れた麗子姉ちゃんは、真性のMだ」

 いや、厳密にはMという枠では無く、純粋に物の様に扱われる事が好き?

 あの時部屋で、俺にのししられ、ごめんねと泣きながら…… でも、彼女は喜んでいた。


 そういえば、小さな頃のお姉ちゃんを知らない。

 幼少期に虐待でもあったのか、家系的に特殊な性質があったのか。

 彼女自身は、その事に気が付いているのか、いないのか。


「彼の、男らしいところが好き」

 彼女が友人に言った言葉。

 違うだろ。


 男らしいんじゃない、暴力的なんだ。野蛮なんだ。

 なんで、彼女はその事を理解をしないんだ……

 やりたいときに、喜んで従う便利な女。

 それが彼女。


 やめれば良いのに、彼女を追いかけては、現場を目撃をする。

 その時、時折見せる恍惚とする表情が、記憶の中にある彼女を壊していく。

 そして、彼女は結婚をした。

 子供が出来たらしい。


 俺は考え、田舎を後にした。

 そして、やめれば良いのに、経済系の大学に通いながら、俺はそっち方面も勉強をする。

 文理そして、心理学。

 人と社会性。その中で発生をする人の役割と真理。

 宗教関係。


 まあ、好きだった彼女。その精神的な構築に、関係しそうなところを色々。

 大学の先生は、以外と研究に興味を持った質問をすると、学部が違っても、ただで色々と教えてくれる。

 犯罪心理学なども、結構おもしろかった。

 犯人と、被害者。

 有名どころだと、ストックホルム症候群や、リマ症候群。

 関係は真逆。

 犯人に寄せるか、犯人が情を抱くか。


 そして、日本でも過去、片田舎にあった風習。

 戦国時代とか、未亡人となり村に食わせて貰い、その代わりに男達の相手をする家。


 長く一緒にいたが、彼女のバックグラウンドを、考えればあまり知らない。

 ただ身近にいて、好きになった人。

 小学校の時、甘やかされて勉強を余りしなかった俺。

 親が、家庭教師代わりに連れてきたのが姉ちゃんだ。

 きっと彼女の家へと、幾ばくか払っていたはず。


 人間とは、実におもしろい……


 俺だけが悶々として、追いかけて彼女を知ろうとする。そんな一方的な関係だったが、あれは大学三年の時。

 うちの親から、電話が掛かる。

「なんだか知らないけれど、沼田の娘。麗子だったわね。あの子があんたに連絡を取りたいらしいわ。あんた達、まだ関係があったの?」

 電話の向こうで、機嫌の悪そうな母さんの声。

 とげとげの声が耳に刺さる。


「いや無いよ」

 そう言った後、母さんのため息が受話器越しに聞こえる。


「知っているだろうけど、他の男と子供まで作ったんだから、関わるんじゃ無いよ……」

「―― わかったから、それでなんだって?」

 言葉を、かぶせ気味に問いただす。


「ああ。電話番号。良い、言うわよ……」

 そうして用件を伝えた後、まだしつこく念押しに言ってくる。

「良い、同情なんかで、あんな子に絡むと、後で絶対……」

 鬱陶しい、言葉の途中で言葉をかぶせる。


「判っているから。俺も、もう子供じゃない」

 大体、大学へ入ってから一度も帰らないと、帰ってこいとやかましいのは母さん達の方だ。

 狭い町。子どもを連れた彼女なんかと、ばったり会うかもしれない。

 それは辛いから、一度も帰っていないのに……

 親なんて、勝手なものだ。



「もうぅ。だいちゃんたら、それじゃあね。大金を儲けたからって、きちんと置いておかないと税金がくるわよ。もう二十歳を超えたんだから」

 どうにかこうにか説教をして、マウントを取ろうとしてくるのは親の習性なのか?


「じゃあ、その時には、送ったお金を返してもらおう」

「えっ。あー、そうそう。もう無いわ。お父さんも喜んでいたわ。助かったわ、ありがとうね」

 ノンタイムで、無いと言い切りやがった。

 学費とか色々考慮をして、三百万は渡したのに。


「それは何より。じゃぁ」

 切れた電話に向かってしゃべる。

 家じゃあ、何時まで経っても、俺はガキ扱い。


 だが、株で勝ち、少し見直して貰ったようだが、相変わらずサラリーマンになれとやかましい。


 確かに今回は、タイミングが良かった。

 買いを出したとき、底を打ったタイミングで買った銘柄が、行ってこい状態で、それを予測したプログラムで儲けを積み上げた。

 まあ友人達と、工学部の奴を引っ張り込んで、グループワークでプログラムを作った。


 監修は、教授。

 俺達は、経済的視点から、条件分岐を設定をしてもらい、その指定値に前の状態を読んで幅を持たせる。

 暴落の予想が立てば、段階的に空売りを仕込み、底を待つ。

 まあ実際は、底から上がらずに、まだ下がるとか色々あるが、その辺りは売り買いを同時に行う、両建てなどでリスクを躱したり。その辺りのパーセントは、そこそこ設定を出来る。


 とにかく、その時期。

 他学部との連携は、流行だったので、色々がうまく行った。

 無論株価も、その頃はどんどん上がった。

 その後に来た、米サブプライムローン問題の時も空売りがハマった。

 結果を見ると、意外と良いシステムを組んでくれていたようだ。


 だがそれは、プロトタイプの話し。

 その後、最終的に出した、リスクコントロール版は、もっと細かに売買を繰り返すスキャルピングタイプで、安全だが、大きくは稼げなくなった様だ。


 だが俺は、プロト君と命名したシステムを消さずに稼いでいる。ソースはあるから、OSのバージョンが変わっても、コンパイルし直せば動く。

 彼は、意思でもあるように、広大なネットの中から必要な情報を拾ってくるようだ。

 今で言うAIは組んでいないはずだが、愛があれば魂を持つのかもしれない。稼いでくれる間は、愛してあげよう……


 彼のことは良い。

 そうそう、姉ちゃんだ。

 今更なんだ? そう思いながら電話をしてみる。

 だが呼び出し音が鳴り始めると、俺の心臓が…… 心臓が鼓動が、突飛高とっぴだかの様に、心拍数が跳ね上がる。


 そう、俺もガキの時とは違う。

 男だし、下心はある。

 姉ちゃん、あんな感じだけど、見目は良いし……

 話によれば、子供が出来てささやかだった胸も、立派になったとか……

 思えば未練だらけ……

 駄目だなぁ。


 そんな、期待を裏切らない彼女。

 自分から、付け込まれる種を、俺に向かって盛大にばら撒く。


 彼女の旦那。基本は土建屋で、実入りは良いが、材料費やその他、他の職人さんへの払いもあるし、手が足りないと応援を頼み、支払いをするとなぜか、経済状態はカツカツらしい。


「そんな状態で、子育てをして。―― あのね。結構、生活だけで精一杯なの」

 あーまあ。聞きたくもない、愛のある生活状況の説明を延々と受ける。

 子供がかわいくなったけれど、お洋服とか子供のモノは高いとか。


「―― それで? すっかり縁の切れた俺に…… そうだね。あれから五年か?」

 そう言うと、言葉が止まる。

 だが、さすが姉ちゃん。足掻きというか、攻撃がくる。


「しっ…… 知っているんだからね。あの後も、ストーカーみたいに…… ずっと私のことを見てたでしょ」

 やはり気が付いていたか。まあ隠れる気も無く、何処ででもいちゃつく二人。抑止力になるかと思ったが、気にせずいちゃつきやがった二人。

 おかげで、大量のいやな記憶が蓄積された。

 おれは、記憶力が結構良いんだよ。

 今でも、色がついた映像付きで思い出せる。


「ああ、そりゃね。あんな男と一緒になって、知っていた姉ちゃんが、すっかり変態になっていく姿。俺も高校生だったし、それなりに興味もあったさ」

 先ずは牽制。


「変態? なにそれ? 突然に電話をして、その…… 機嫌が悪いことは判るけど、変なことを言わないで」

 おっと、以外と食いつきがいい。

 なら一歩進めよう。

 ひょっとすれば、ひょっとする。


「理解をしていないのかぁ……」

「怒るわよ」

 怒るらしい。だが続ける。


「河原でしていたときも、嬉しそうに……」

 ブチッ。ツー……


「切れた。姉ちゃんも、流石に虐めると、ご機嫌が斜めになり切れたようだ」


 さて、だが…… 怒って、切ったところで、状況はよくならない。

 きっと俺が株で勝ち、母さん達に渡したのを、自慢げに吹聴をしたんだろうなあ。

 あの母親は……

 税務署が聞いたらどうするつもりだよ…… 全く。

 贈与税の基礎控除額は六十万円なんだぞ。

 あの頃はそうだった。今は、平成十三年から百十万円に引き上げられた。


 そんな事を思いながら、俺はにやけ顔が止まらない。

 今更姉ちゃんと、結婚をしようとか、そんな馬鹿なことは考えてはいない。

 他の男と散々やり散らかして子どもまで作ったんだ。

 気持ち悪い。

 愛せはしない。


 だけど、幼く純情な、俺の心はざっくりと傷ついたんだよ。

 あんな、中途半端なエッチ一回じゃ、チャラになどなるわけが無い。


 まあこの電話。

 姉ちゃんが怒って切った。

 このやり取りは、姉ちゃんに頭を下げさせる理由になる。

 先ずは、その上で立場を理解させ、従わさせなければ……

 まあ彼女なら、きっと生粋の変態さんだから。


 きっと…… 無理矢理押さえつけ、目を見ながら恫喝をすれば、彼女の本能がうずき始めて止まらなくなる。

 何せ彼女は、本物の変態だからな。


 ―― 多分俺なら、訴えられないよなぁ……



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 加筆はしてますが、エッチ無しなので向こうも一緒です。

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