第2話 幼馴染み

 お父さんが亡くなり、彼女のお母さんが入院して、家の中から消えてしまった会話。


 時間な自由が取れる代わりに、収入は多くないパート。

 当然のように、切り詰める生活。

 そんな中で、彼女が何を思い、どう生活くらしをしていたか。

 そんな所まで、俺には、思いが及ばなかった。


 ただ自分の事ばかり。

 彼女が言わなくなった代わりに、俺がぼやく。

 ―― 淋しいなあ。

 ―― 会いたいよ。

 そんな言葉を、どう思って彼女が聞いていたのか……



 ―― 私は、なけなしのお金を握りしめ、ATMから入金をする。

 それは、私に対して、幾度も投げかけられた、冷たい言葉。

「すみません。おかあさんは今、入院をしていまして」

「それは大変でしょう。ですが、期日に振り替え不能だったと回答が来ていますので、振込用紙を送付させていただきました。ですが、そちらでも、まだ入金が確認されていません」

「…… ですから」

「入金が確認をされるまで、確認のため、繰り返しお電話させていただきますので。なんとしてでもお願いします」


 そんな、業者がまだ数件。

 手持ちはもう無い……

 私は、我慢が出来なくなって、知り合いの本開 大成ほんかい たいせいさんを頼ってしまう。


 彼は、お父さん達と仲がよかった。

 お父さんと言うよりは、お母さんの幼馴染み。


 身長も百七十センチちょっとあり、顔も頭も悪くないけれど、お母さんはお父さんを選び、十八のときに私を産んだ。

 だから、私が十九になった今でも、三十七歳で、結構モテるらしい。

 ああそうね。

 本開さんは、お母さんの一つ下だけど、あの人も多分その一人。

 おかあさんを見るときの目が、他の人とは違う。

 きっとお父さんは、その事に気がついていなかったと思う。


 お母さんが私を産んだ頃。

 彼、本開さんは大学へ進学。

 でも、卒業後に戻ってきて、パソコンでお仕事をしているらしい。

「大成は、ナニをしているのか知らないけれど、まあ知り合いの中では賢くて…… お金持ちでね。お父さんが仕事で困った時とか、幾度かお金の件で助けてくれたのよ。本当に助かったの」

 お母さんは、そう語っていた。

 きっとお母さんは、本開さんと結婚をすればお金に関しては苦労をしなかったと思う。でも、苦労をしても、お父さんが好きなのよね……


 お父さんとお母さんは、四つも違う。

 お母さんが中学生の時に、すでにお父さんは仕事をしていた。お母さんには、バイクに乗っているお父さんが、かっこよく見えたらしい。

「生活を考えれば、バカだったけど、お父さんと結婚をして、後悔…… そんなにはしていないわ」

 そう言って…… 笑っていた。



「麗子姉ちゃん。まだそんなに借金があったのか? どれ? 全部だしな」

 督促状をすべて渡す。


 顧客番号が面倒とかぼやきながら、あっと言う間に、ネットバンクとか言うので、入金をしてくれた。

「入金はすんだ。これで、今月は電話は来ないだろうけれど、また来月は同じだなぁ。姉ちゃん。まだ具合が悪いの?」

「ええ。ストレス的な物なのかもって、先生が」

 そう言うと、本開さんの顔が曇る。


「ストレス? まあ健司さんが亡くなって、パート。それと…… そうかよ。まあいい。ええと、沙羅ちゃんだったな。お母さんときちんと話をした方が良いよ」

 そんな話だけをして、借用書も書かずに、私は家へと帰る。


 本開さん、独身だって言うし、食事とかどうしているんだろう?


 私は、病院へ行って、お母さんと話をする。

「催促? 何で? お金は、あっ……」

 思い当たったのか、お母さんの表情が曇る。


「まあ何とか、パートの時間を増やすか、他の仕事を増やしてみるよ」

 私がそう言うと、お母さんの顔が、悲しそうになる。


「ごめんなさいね。それで、督促分は?」

 ふと、思い出したように聞いてくるお母さん。

 隠していても仕方ないので、きちんと答える。


「ええと、本開さんにお願いしちゃった」

 一瞬ピクッとして、眉間に皺が寄る。

 けれど、何だろう、複雑そうな顔をする。

 いやだけど、喜んでいる? そんな変な顔。


「大成に借りたの? 何も言われなかった?」

 やはりよくなかったのか、少し焦った感じで聞かれた。


「あーうん。スマホを使って、あっという間に払ってくれて…… でも、その後。お母さんと話し合わないと、来月も同じだよって。忠告された」

 そう言うと、表情が曇る。


「話し合わないと…… 大成がそう言ったの?……」

 そう言って、すこし…… なんだろう。この変な感じ。

 悲しそうな感じなのに、口元が笑っている……


「やっぱり勝手に、お願いしたのは駄目だった? でもごめんなさい。家には誰も居ないかから、掛かって来たとき私の電話を連絡先として教えたら、仕事中にも電話が鳴って……」

「あーうん。ごめんね」

 お母さんが、謝ってくる。


 そして、お母さんから、ついでの暴露。

「お父さんの保険。駄目だと思いながら、入院の時に耐えきれずに解約しちゃってねぇ。数十万が欲しくて…… あれさえ残っていれば、こんな借金消えたのに。あんなに早くお父さんが死ぬなんて……」

 ストレスで入院をしているお母さんに、私はストレスを掛けてしまった。


「あーうん。何とかするから。大丈夫よ」

 落ち込んでいるお母さんにそう言って、私は誰も居ない家に帰る。


 そして、ベッドへ寝転がり、待ち受け画面の颯太を見つめる。

 通じていないスマホに向かって、愚痴を上げ連ねる。

 実際に颯太。宮杜 颯太みやもり そうたからの電話には、そんなことは言えない。

 私が頼れば、きっと…… 彼は何とかしてしまう。


 彼は、この地域で、顔役と呼ばれる家の息子。

 私が遊びに行ったとき、お手伝いさん達や彼のおかあさまから、いやそうな顔をされた。


 元々、彼の家は名前の通り宮司を務め、昔の庄屋で村長。

 地域のお祭りも仕切っている。

 今でも、色々なことを手広くやり、お金持ちらしい。


 高校の時には、周りから散々言われた。

 体を使って、颯太をたらし込んだ。

 皆に陰でもきっと、随分言われていたと思う。


 でも、そんな陰口も気にならなかった。

 彼が部屋にいて…… そう。

 ぎゅっと抱き合いながら繋がっているとき、彼が果てるとき。

 彼らのそんな表情が、目が、気にならないくらい幸せだった。


 ううん。そんな彼らのことを思うと、少し優越感。

 ぞくぞくしちゃった。

 私は、性格が悪いのかもしれない。


 だから、勉強も頑張って皆を追い越し、彼と同じ大学に合格をしたときには喜んだ。

 そう…… きっとそこが、私の……

 多分、人生としてピークだった。


 その後すぐに、お父さんが倒れた。

 持病があり、重篤化をしたけれども、順調に回復をしていたのに急に…… 

 病院の先生も、驚いていた。


 お母さんは、お父さんに代わりに施主さんや、他の関係業者さんに謝りながらも、お父さんを看病をして頑張ったのに…… その日はあっさりとやって来た。



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 二話目は、加筆がありません。

 向こうと同じです。

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