高校二年生。夏休みの出来事

第1話 中途半端な関係

 俺達は、小学校時からのご近所さん。

 何か用事があれば、お互いがお互いの家に預けられる様な関係。


 無論小さな頃は香澄かすみと一緒に寝たし、風呂も入ったことがある。

 だけど、中学校になっても、関係は変わらず仲の良い友人……


 ネックとなるのは、近すぎる距離なのか。

「誰ももらい手が無ければ、結婚するか?」

「えー。恭二きょうじと…… まあ良いけどね」

 そう言ってにししと笑う彼女。そんな感じ。


 俺には、香澄の気持ちが分からない。だが、俺自身は、誰か特定の相手と本気で付き合う気も無く。日々が過ぎる。


 そう、気力が湧かないのは、友人達から聞かされる、付き合うときの苦労話。

 それが、異性と付き合う意欲の足を引っ張る。


「女は面倒。かわいいのは最初だけ。あーだこーだと文句ばかり」

 そう語るのは、平山 瑠偉ひらやま るい。女の子みたいな名前だが男。


「男って、時間があれば、やることばっかり…… おまけに、すぐすねるし、甘えんぼだし。まったく」

 磐司 奏ばんじ かなで男っぽい名前だが、女の子。

 彼女は、その、やることの内容も香澄かすみ達には赤裸々に暴露をするらしい。

 このちぐはぐな二人が付き合っていて、愚痴を俺らに垂れ流す。


 そんな話が、耳に入るおかげで、俺らは皆、異性と付き合うのを、面倒だと感じて尻込みをしている状況。

 手近な所で手を打って付き合うから、両方が知り合い。

 だから、双方からの話が聞こえてくる。


 そんな仲間達と共に、夏休みだからとプールへ行く事になった。

 そう、奴らは先日。もう別れると宣言をして、互いに怪しい雰囲気が漂う。


 喧嘩別れをしたと言っていたが、俺らを介して友達同士。

 行動がかぶるのは、仕方ないよなぁ。

 すぐ近くに居るのに、お互いが完全無視。


 そうして、一部が険悪な雰囲気で、道路の右側を歩いていると、前から自転車が。

 別れたと言いながらも、スマートに彼女をかばう平山。

 だが、俺らの後ろから逆走のチャリが来ていたらしく、前から来ていたチャリを避けて、そのはずみか突っ込んできた。


 最悪なことに、そう…… 俺達を巻き添えにして……

「痛えなぁ。あのチャリ。ふざけやがって……」

 チャリに乗っていたオッサンは、俺達の様子も怪我も気にせず。通り過ぎた相手に向かって、そんな文句を言っていた。

 だが、ここは歩道じゃない。路側帯を逆走していたのはあんただ。


 幾人か、押されて転がり怪我をした。

「警察に電話だな」

 そう言って電話を始めると、逃げ始めるオッサン。

「こら。待てやオッサン」

 平山と山川が追いかけるが、チャリは速い。


 周りのどこかに、監視カメラがあることを期待しながら、電話はした。

 一応、人身事故の当て逃げ。

 おまわりさんは嫌がったが、その扱いでお願いをした。


「人身なら、診断書を提出してください」

「はい」


 そして、擦り傷や打ち身ができた俺達は、プールに行くのを急遽取りやめ。


 膝をすりむいた磐司 奏ばんじ かなで伊吹 香澄いぶき かすみを連れて、各自家へと帰る。

「未成年だけだと、病院が嫌がるぞ」

 山川くんの情報により、一旦帰って、親に送って貰うことにする。


「奏。大丈夫か?」

「膝が痛い。おんぶ」

「おまえなぁ」

 二人は、別れたと聞いたが、どうなっているのか?


「重っ。暑っ」

 それを聞いた奏は、瑠偉の背中に乗った状態で、頭をぺしぺしと叩いている。


「俺達も帰ろうか」

「うん。残念だけどね」

 そう言った香澄だが、夏バテっぽく。今朝から調子がよくない様子だったし。丁度よかったかもしれない。


 そう毎日毎日、茹だるような暑さ。体調だって狂う。


 山川 幾哉やまかわ いくや賀成 静夏かなり しずかは、怪我もないし、一緒にお茶をして帰るそうだ。

 二人は付き合ってはいない。多分……


 そう思っていたのは、恭二だけ。

 幾哉と静夏は、去年の夏から付き合っていた。


 瑠偉と奏が付き合い始めた頃。

 嬉しそうな二人が、話しを垂れ流していたとき。

 そののろけ段階で、皆が行動に走ったようだ。


 すぐ後からお互いの文句合戦が始まったが、その時付き合いって面倒。いやだなあと思ったのは、どうも俺だけだったようだ。皆に騙された。


 暑い中帰っていると、プールに行けなかった落胆もあったのか、香澄の顔色も悪くなっていた。


「コンビニで、アイスでも買うか?」

「うん。頭痛にはアイスだよね」

 香澄はいつもの調子だ。だが、頭痛?


「良いのかそれ?」

「よくお父さんも、迎え酒とか言っているし。頭痛の時にはアイスでキーンとした方が良いのよ」

「そうなんだ……」

 一応、不安なので、スポーツ飲料や、お茶。

 サンドイッチとか、そうめんとかを買っていく。


 暑いからと、あまり糖分が多い物をがぶ飲みすると、ペットボトル症候群と言って、糖尿病になったりするらしい。

 特に、スポーツなどでスポーツ飲料をがぶ飲みを続けると、やばいそうだ。

 


「ふう。ついた。恭二は帰るの?」

「いや。お前調子が悪そうだから、少し一緒にいるよ」

 そう言うと、えへっと笑顔になる。


 勝手知ったる家。

 上がり込んで、冷やす物を冷蔵庫に入れる。

 ついでに、体温計を一緒に渡す。


「測れ。顔色が悪いぞ。きちんと飯は食えているのか?」

 すでに、アイスを食べている香澄に聞く。


「うーん。ダイエットがてら。少しだけ」

「駄目だよ。食わないと」

 そう言うと、うーんと言う感じで、考え込み始める。


「でもさあ。最近脇腹が、ポニョなの」

「アイスを食うからだろ」

「えー。アイスを食べられないと死んじゃうよぉ」

 そう言いながら、キーンときたのかジタバタしている。


「飯を食え」

「暑いし…… ねっ。食欲がなくて、今、頼みの綱はアイスなの……」

 そう言って、スプーンを咥えている。


「ご飯に、アイスをかけるか?」

「良いかも。シチューかけご飯? みたいな感じ?」

 そう言われて、想像してしまった。


「やめろ。食欲が落ちる」

 そして体温を測らせると、三十八度ちょっとあった。


「痛み止めを飲んで寝ろ。膝を見せろ」

 転んだ膝は、すりむいて、血が滲んでいる。


「おまえなあ。アイスの前に怪我の治療だろ。血が出てるぞ」

「えー。見ると痛いじゃない」

「まあいい。傷口を洗ってこい。ついでに汗をかいているなら、ぬるめで良いから、シャワー浴びろ」

 むーとしていたが、素直に入るようだ。


 だが途中で、くるっとこっちを向く。

「ねえ。プールに行けなかったし…… 一緒に浴びる?」

「ばか……」

 我慢ができなくなるだろ。

 そんな言葉を、おれは飲み込む。

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