第3話 各人の思惑

 思っていたより良いかもしれない。

 高校生なのが痛いわね。

 手を出せば犯罪になってしまう。

 深井 真理ふかい まりは、数年ぶりのデートに喜んでいた。


 目の端に、従姉妹がちょろちょろ入り込むが、気にしなければ気にならない。


 うん? お姉ちゃんの様子がおかしい?

 枝幸君を見る目が、妙に熱っぽい。

 まさかねぇ。

 さっきあったばかりだし、五個も年下。

 でも…… 少し気を付けよう。



「もう何あれ? あのばばあの方、距離近っ。私のお兄ちゃんに…… うん? まんざらでもない感じ…… えっ」


 璃子は覗きながら、その一挙手一投足にやきもきする。

 飛び出したい気持ちが、心から湧いてくるが、それを抑える。

 出て行けば、きっとストーカーとしてお兄ちゃんに見られてしまう。

 きっと彼女達は単なる知り合い…… ああ肩が触れた…… あのっ、ばばあー。


 真理は、体が触れる度、蓄積した知識と想像力。それが、スーパーコンピューター並みに仕事をして、色々なシチュエーションが脳裏に映像となって浮かび、空想される刺激が甘く体を駆け巡る。


 ああ触れた。

 それが、そっと移動し、胸へ……

 敏感な所を刺激しつつ、ぎゅっと……

『痛いだろう。だが、それがいずれ甘美な刺激となる。感じてみろ。考えなくて良いんだ…… ほらっ』


「あっう」

「うん、どうしたの?」

 心配そうに見つめる彼の目。

「大丈夫だから。もっと、責め…… おほっおほほほ。少し暑くて。普段あまり歩かないから」

 やばい完全にあっち側に行っていたわ。あぶない。

 こんな町中で、いっちゃう所だったわ。


 そんな言い訳をする彼女だが、もうすでに下腹部は、心臓がある様に脈打ち、少しまずい感じになっていた。

 シートじゃ駄目ね。座布団に変えよう。


 久しぶりのなま異性。

 それが五感と本能を刺激する。

 十八の時に比べて、体も熟れきってしまったようだ。


「どこかで休憩しようか? 飲み物くらいなら今日の御礼におごるし」

「そうね」

 そう言って、笑みをこぼし、見たことがない表情と少し赤くなった頬。

 そう休憩という単語が……


 流石に、広見も気が付く。

 歳上のくせに、会ったばかりなのに、枝幸君に舞い上がってやがる。


 そしてそれは、狭い所で確信となる。

 注文を決め、受け取り、席に座る。

 流石に、広見の隣に座った真理。

 だが、すぐにお手洗いへと向かう。その所作の時にふわりと匂う女の匂い。

 やっぱり、お姉ちゃんは危険だわ。

 完全に発情している。


 すでに美容院と、服の買い物は済んだ。

 小物とか、アクセサリーも考えたが、主戦場が学校では無意味。

 休日に会ってくれるなら…… その時には考えよう。

 真理のことを言っているが、広見本人も、初めて意識をした異性。

 脳内で日々恋愛シミレーションを行っている恋愛脳は、とっくに標的だと認識をしていた。

 そう、従姉妹同士、どっちもポンコツだった。


 『モテるようになるには、どうすればいいか?』

 その言葉が、自分と話す切っ掛けだと考えた時点から、脳内では喜んでいた。

 美容院はあれだけど、服を見てあわせて『似合うかな?』なんて、デートシチュエーションとしては完璧じゃない。


 その時、奇妙な行動をする変なものを、諒威は見ていた。

 飲み物を持っているのは別に良い。

 だが視線は定まらず、百面相が始まる。

 そして、いきなり赤くなり、鼻の穴が広がる。

 次は足踏み。


 なんだこれ? 璃子もたまに赤くなるけど、こんなに変じゃないし、気持ち悪くもない……

 璃子はどうしているかな?



 本人は数メートル後ろで、伊達眼鏡にマスクという出で立ちで覗いていた。

 あの女、きも。お兄ちゃんが引いてる。

 よーしよしよし。


 そこに帰って来た、真理。

 我慢が出来ず、トイレで妄想を垂れ流し、五回ほど上り詰めてきたようだ。


「なんだか疲れているようだし、今日はありがとうな」

 これ幸いと、諒威は立ち上がる。


「へっ。あっ」

 真理は立ち上がろうとしてふらつく。

「あっ。大丈夫か?」

 差し出された腕の上にもたれかかる。

 諒威の上腕を両手で掴み、もたれ掛かると、諒威の掌は胸の敏感な所をかすめて、お腹の方へ届いてしまう。

 そう、おへそのちょっと下。

 もどかしい。もう少し下が……


「大丈夫?」

 もう一度聞かれる。


「ええ」

 だが足に力が入らず、椅子にへたり込む。

「それじゃあ」

 そう言って、帰って行く諒威を見送る。


 そう、二人が二人とも、ぼーっとした目でそれを見送る。


 年頃の女の子が二人。座ってジュースを飲んでいる。

 だが、それに声をかけるものは誰も居なかった。


「あれって、そこそこかわいいけどさ」

「バカやめとけ。あの目を見ろよ。ぜってえ、やばい薬やってんぞ。声をかけてみろ。やばそうな事務所に連れて行かれて、終わりだ」


 そんな判断をされる始末。遠巻きに見られる。

 二人が現実に戻ったのは、それから一時間後だったらしい。


 諒威が店を出た後、すぐに璃子は後を追う。

 璃子は、諒威の進路を予測をして回り込む。


「あれ、お兄ちゃん何処へ行っていたの?」

「璃子。何処へ行くんだ?」

 諒威は普通に答える。


「ちょっと見たいものがあって…… 今日なんだか格好いいね。でも少し、服屋さんに行くから一緒に行こう」

 そう。女としてのプライド。

 幾ら良くても、余所の女が選んだもの。


 それから、再び着せかえ人形になり服が決まる。

 あっさり系の顔のため、シンプルでカジュアルの方へ振ったようだ。

 着ていたシャツやジャケットは、無造作に袋へぶち込まれる。


 だが、諒威の手前。廃棄してくださいは言えなかった。

「お兄ちゃんは普段のイメージがあるから、カジュアル系だよ」

「そうか?」

「うん。間違いない。帰ろ」

「ああ良いけど、代金とか。お前どこかに行く予定じゃ」

「私は、良いの」

 そう言って手を引かれて、家路につく。


 コーヒースタンドにいる悪魔達が、真実を知るまであと二日……

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