第2話 従姉妹のお姉ちゃんと、二人がかり

「そうねえ。元はそんなに悪くないから、とりあえず彼をモテる感じで仕上げて、あっでも、等しく才にたけた者が居ないと。そうよ二人揃ってはじめて、神の作りたもうた光景が見られるというもの……」


 お姉ちゃんに聞こう。

 そうして、彼女は連絡をしてしまう。


 軽く相談をしただけなのに。

 その瞬間、彼は片足が罠に落ちてしまったことに気が付いていない。

 蟻地獄の待ち受ける巣に…… 

 そしてその巣には、二匹のやばいものが待っていた。


 だがまあ、美しい男を見ようという執念は、彼女にはかなりのものがあり、欲望に忠実な新界 広見しんかい ひろみは、自薔薇まで切りながら彼を育てる事を決める。

 そこに現れた、大学生の女。

 深井 真理ふかい まり二十二歳。


 彼女は、十八の頃に付き合っている彼がいた。

 ふとした喧嘩の時に言われた言葉。

『かまととぶって、つまらん奴』

 そんな事を言われて、あげくに捨てられる事になった。


 別にぶっているわけではなく、彼女は単なる無知だった。

 ベッドの中でも、寝転がり体を硬くしたまま。

 ただ、されることに従っていれば、まだましだったかも知れないが、くすぐったいから嫌、そんな事は嫌と口にしていた。そう彼女はある面、素直だった。


 二人で盛り上げるとか、そんな事は、思いもよらないこと。

 そう、繋がって相手が果てるだけの行為。それで、相手が満足をするなら。彼がしたがるから仕方なく相手をしていた。

 そうその先を、考えてもいなかった。

 愛し合うと言う意味。

 自分も感じて、いけるという事など知らなかった。


 振った男の方は、逆にアダルトなビデオを見過ぎていた。

 妙に後ろの穴に執着があり、指を入れられたこともある。

 まあ良くある、何穴責め系? その影響だろうが、同時にすれば、それで喜ぶと本気で思っていた。

 女の子と付き合ったのも、彼女が初めてだった。

 だが彼は、見栄を張る。

「幾人もの関係があったが、その中でも最悪な女だ」

 こんな暴言を吐き、それから関係はギクシャクして、結局別れることになる。


 悲しみに暮れた彼女は、付き合いをすっ飛ばして、行為について真面目に勉強を始める。そして…… 体験ではなく、頭で理解をする。

 その深さと、特殊性。

 性癖という闇……

 そう、気になっていた事。

 彼が拘っていた後ろの穴への執着。それは何だろうと……


 まず、SMがヒットする。

 ネット上で記事を読みあさり、次に某サイトの会員のとなり、あふれるビデオを見まくる。

 吊るされたり、垂れ流したり……


 そして、調教ものから、複数の人数ものへと移り変わり、男同士へ……

 そんな怪しい情報収集。


 そして彼女は、怪しい同人誌を入手する。

 カリスマ性のある上司と、頼りない部下。

 相談に乗りつつ、乗ってしまうベタな展開。

 だがその絵は美しく、彼女は衝撃を受ける。

 二十歳を越えた頃には、や○い系にどっぷりとハマる。


 無論リアルは、全然。

 没頭するあまり化粧っ気のない、ラフと言うよりだらしない方へと変わっていた。

 だがまあ、気になる修行はしていた。

 勉強を始めてすぐから、相手を喜ばすテクを見つけて喉の奥までとか、栓とか……

 基本を飛ばして、少し行きすぎた訓練。だが、ピアスは怖くて、踏みとどまったようだ。


 そんな中途半端に壊れた、彼女。

 従姉妹からのメッセンジャーアプリでのお誘いを見て目が光る。

「実はこんな事をたのまれて、先ずは、○○○推しのキャラ名くんのようにしたいの。手伝って」

 リアルで…… 育成……


ふふふ腐腐腐…… 任せて』

 バイトはしていたが、彼女が回るサイトは、定額制やサブスクリプション。

 化粧品代も、服代も使っていない。

 たまに興味を持った、大人用のおもちゃを買うくらいのものである。

 彼女は、実弾現ナマを持って参上してくる。


 何なら、その費用分を盾に、体で払って貰おうとも考えていた。

 妄想だけで、二年くらい彼氏もいない。

 縛って…… これをねじり混んだら、どんな声で啼くかしら……

ふふふ腐腐腐……」



 かくして、彼らは邂逅をした。

 枝幸 諒威しこう あさいは軽く考えていたが、これが人生を変える事になるとは思っていなかった。


「新界さんと、深井さん。よろしくお願いします」

「先ずは美容院ね。ツーブロックの黒髪なんて……」

「でも、上司役なら……」

「彼なら、『タチ』じゃなく『ネコ』に寄せた方が良いと思わない?」

「うーん。そうかそうね。じゃあ。ショートでふわっと言う感じ?」

「あっでも、校則があるから脱色とかパーマは使えない」

「むううっ。校則拘束めぇ。我慢するのがいいとは言うけれど……」


 結局、妥協に妥協をして、気弱キャラに寄せる。前髪は目にかかる程度にカットをして、普段は持ち上げてごまかすという妥協点を見いだす。

 パーマではなく、ムースで揉みボリュームを出す。


 服装も、無地系でチノとシャツ。それにジャケット。

 だが、当然主戦場は学校。


 着ていくことは出来ない。

「あーまあ、そうだよね。高校生かぁ。早く卒業しなさい」

 あげくそんな言葉まで……


 だがそんな彼らの行動を、見つめる目。

 当然、新城 璃子しんじょう りこ

 諒威が、『明日は用事があるから会えない』などというメッセージを送ってきた。


 当然、今までの長い歴史の中で、家のことなどで、そっちを優先されることはあった。

 だが、今日のことについては、おばさまにも聞いていない。

 彼の友人達にも事情聴取済みだ。


「怪しいと思ったら、何あの女達? パトロン? でも…… あの子は、知っている。同じクラスの…… えー、あー…… 委員長ね」

 そうして、距離を置きながら、背後を付いていく。


 その後は、コーヒースタンドなどで楽しそうに談笑。

 だが、さっき着替えた服装で、諒威の見た目が変化をして、通り過ぎる女達の目線が気になる。確かに変わった。


「ちっ。あの女も見たわ。こう見るとお兄ちゃん、モテる部類かしら?」

 普段の適当な格好と違う。

 いつも、デニムに、おばさまが買ったポロシャツかチェックのシャツ。


 高校生になり、身長も百七十センチを越えて、男らしくなってきている。

「むうぅ」

 幼馴染みで、いつでもそばにいてくれると思っていたけれど、これは考えないとまずいかしら……


 思ったこととは違うが、概ね諒威が考えた方向に向かい始めた璃子。

 だが、かといって、簡単には素直になれない。


 告白をされるなら、お兄ちゃんの方からの方が良い。

 そんな思いを持っている彼女。


 きつい性格も、何もかも隠して尽くす気持ちはある。

 ―― でも、やっぱり、お兄ちゃんから告白はして欲しい……


 こうして悩む事になる。

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