人は快楽を求める

第1話 快楽原則と成長

 フロイトによると、教育された自我は『理性的』になるそうだ。

 

 それは快楽原則では無く。快楽を優先せず、現実生活を優先してその中でバランスを取る。つまり現実原則に従うようになる。


 などという、訳が分からない言葉を残した。


 だが、流れに逆らい高校生の俺らは、快楽原則に従い行動をする。

「やべえ。休み時間が、終わるぞ」

「もう。早くぅ」

 彼女が一年の時には、そんな感じだった。


 昼休みにちょっと抜け出して、近所のコンビニへ、スイーツを買いに行っていた。

 こいつは、新城 璃子しんじょう りこ

 保育園からの腐れ縁。

 おれが、年長さんの時。

 一個下の璃子が、園の砂場で、男達にたかられていたのを助けた。

 こいつは、子供の頃から、モテていた。


 その時から俺、枝幸 諒威しこう あさいを兄と慕い。後ろを付回ってきている。

 小学校二年で、新入生として入ってきたときも、周りで馬鹿な男がうろうろしないようにきっちり守った。


 かわいくて、勉強が出来て、そんな子が慕ってくれる。


 そして、それは中学でも。

 中学の時には、学校の七不思議の中に、俺達の付き合いが入っていた。

 失礼な話だ。



 だがその時になっても、諒威は璃子の本性を知らなかった。


 保育園の時。

 璃子は年長さんの頃には、本性が顔を出していた。


 諒威が卒園後……

「お兄ちゃんが卒園をしちゃった……」

 そう言って泣いていた、一月後。

「おら、鼻水垂らしたガキが、近寄るんじゃねえよ」

 幾人かの女子を従え、男の子を泣かして回る。


 そして卒園。

「姉さん。お勤めご苦労様でした」

「おう。皆も頑張れよ」

 そう言って見送られた。


 そして、小学校入学。

「あっ。お兄ちゃんだぁ」

 そう言って、諒威に甘える。


 そして再び、六年になった時には、周りの女の子や男の子は、鬱陶しい先輩がいなくなり、興味を引こうと、たかって来始める。

 そして、『ずっと上級生に守られていたようだけど、もう居なくなったわ』というグループも。女子の中で、目立つものは、はじくか取り込むかのどちらからしく……


「ちょっとアンタ、生意気よ」

「ああっ? 誰がなんだって?」

 今までとは全く違う表情。そして雰囲気を纏っている。

 彼女の背景が、花から、阿修羅像へと変わっている。

「すみませんでした」


「璃子はねぇ。束縛をされるのが嫌いなの? あんた達みたいなガキには、束縛なんて判らないかなぁ……」

「すみませんでしたぁ」



 そして、中学。

「あっ。お兄ちゃんだあ」

 そう言った後ろで、声がする。


「姉御、校門前で別の中学の奴らが、声をかけまくって鬱陶しいです」

「誰が姉御よ、自分たちで何とかしな」

 小声でそう脅し、諒威に駆け寄っていく。


「お兄ちゃん。一緒に帰ろう」

 二オクターブは、高い声で甘える。


「おう良いぞ。璃子は甘えん坊だなぁ」

「だってぇ」

 そう言って、腕を組み、帰って行く……



「―― どこから声を出して…… 誰だあれ?」

「さあぁ??」


 そして、うふうふの生活は終わる。

 そしてついでに受験。

 お兄ちゃんに見せるため、成績は常に上位をキープしているが、面倒なものは面倒。


 だが、頑張る。

「新城さんなら、もう少し上の学校でも大丈夫よ」

「いえ、大丈夫です」


 そうしてお兄ちゃんと、同じ学校へ。

 なぜここまで拘るのか。


 それは、璃子にとって初めて認めた異性。

 保育園の一歳差は大きく。困っていた自分を助けてくれた諒威は、本当にかっこよく見えて、そうヒーローだった。


 小学校や中学校で、結構あらが出たが、そこは恋する乙女のひいき目というか、色眼鏡というか、たいした減点にはならなかった。


 そして高校生ともなれば。

 普段家に遊びに来る璃子を見ていて、ホルモンのいたずらが始まり始める。

 薄着で無防備に寛ぐ姿。

「おい、気を付けないとパンツが見えるぞ」

「お兄ちゃんなら気にしないよ。それとも…… 興味があるの?」

「いや……」

 そう言って目をそらす。


 クラスの女の子達よりも、今、目の前で一生懸命アイスを食べている妹のような存在。

 そう。だがしかし。恋愛への移行という側面において、妹のような存在という立場が、鎖のように絡みつき。行動を起こすための足を引っ張る。


 単純に好きと告れば良かったはずなのに、カッコを付けようとか、色気を出した。

 そう、璃子に好きと言ってほしい。


『おにいちゃん。実は私…… お兄ちゃんのことが好きなの』

 そんな姿を妄想する。


 そしてクラスのモテない野郎どもに、相談をする。

 そう、してしまった。

「あの例の一年生に告ってほしい…… だと?」

「ああ」

「馬鹿だな。男としては、こっちから告れば良いじゃ無いか」

「そうなんだが、拒否されると、俺は死ねる」

 皆は、イメージをする。

 あの子と、諒威。


 思い浮かべると、幼馴染みってずるいとしか言いようが無かった。


「俺らに聞いても駄目だろ。誰か女子に聞いて、アドバイスを貰って、その通りで進めるとか、かな?」

 答えは当然彼らには出せない。

 全く縁の無い世界。そして女子へと振ってしまう。


「そうか、ありがとう」

 誰かめぼしい女の子を探す。だが、璃子以外とは全く付き合いがなく、そんな相談も出来る相手など存在しない。


 教室を見回し、悩んだ末に、メガネっ娘の委員長。彼女が目に留まる。

 物静かで真面目だし、信用が出来そうだ。

 そうして、彼は最悪を引き当てる。


 よせばいいのに、彼女にこそっと声をかける。

 休み時間だから、周りに人は多い。

「モテるようになるには、どうすればいいか? ですって?」

「そうなんだよ。他に知り合いも、頼れる人もいないし、たのむよ」

 少し悩んだようだが、彼女はくいっとめがねを押し上げると、ニコッと笑う。


「いいでしょう。私に任せなさい。ふふふ腐腐腐っと怪しく笑った」

 この時彼女は、ふと遠回しな私への告白? とも考えた。


 彼女は、新界 広見しんかい ひろみ。中学生時代、親戚のお姉さんが持っていた本棚で、未知の世界へ…… コアな暗黒面への興味を開いてしまった。

 元々勉強熱心で、色々なことに興味がある子供だった。


 丁度保健の授業とかで、自分達の体が変化することを習い、興味もあった頃。

 だが指導者となった、親戚のお姉さんは、少し腐っていた。


 少し、手ひどくフラれて、自分が悪いと思い込んだ。

 そう元のお姉さんは奥手だった。


 そして勉強し、デフォルトの、男と女から始まるが、ノーマルを突き抜け、ハードな調教系を網羅し、その穴繋がりで、男と男へ、そのジャンルを広げた。

 魅惑的なやおい系……


 そんな所へ、遊びに行って、やばい情報を浴びてしまった。それはある種の人間にはひどく強い感染性を持つ。親族であるが為、因子は濃い。


 そう中学生だった広見は、無垢な状態で極限まで醸された情報を摂取する。

 その瞬間に脳は蕩けて感染してしまった……


 そして、そんなやばい人間に、諒威は相談をしてしまったのだ……


ふふふ腐腐腐。枝幸くん。見せてくれないかなぁ」

 彼の鳴き声が聞きたい。

 彼女は、なぜか持っている、男のあれそっくりなおもちゃを握りしめる。

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