第3話 葉月も言っていたし、まあ良いか……

 人世 麻美ひとせ あさみ唐多 弥子からだ やすこが颯人の手を取り、引っ張っていく。


「あーあれは。今日も駄目かなあ」

 私の前に座り込んだ、皐月がぼやく。

 すぐ後ろで、席を取られた波野君が、泣きそうな顔で立っている。

 放課後で、彼は早く帰りたがっているようだ。


 その頃颯人は、手を引かれたまま、学校の外へ連れて来られていた。

「ちょっと、何か買って家へ来ない?」

「ああ、良いけれど、手土産とかは?」

 高校生らしからぬ反応だが、葉月の家へ行くときに、母親から習ったこと。

 『人様のお家にお邪魔するときには、何か手土産を持って行くもの』

「良いわよ。そんなの」

 そう言って手を引かれ、半ば小走りで付いていく。


 唐多家は、大きかった。

 どこかのデザイナーが設計したような、鉄筋コンクリートの三階建て。

 庭にプールまであった。

「すごいな」

「家はすごくても、誰もいないから……」

「そうなのか?」

「そんな事は良いから、こっち」

 手を引かれて、二階へ上がっていく。


「三階は、パパ達の部屋だから」

 話を聞くと、三階は立ち入り禁止なのだそうだ。


 二階は、弥子の部屋とゲストルームが何室かがあり、それぞれにシャワールームやトイレなども完備。

 ちょっとしたホテルのような造り。


「すごいな」

「うんまあ。うちのホテルをデザインをしている人が、お試しで設計をして造ったみたい」

「へえ。ホテルを経営しているのか」

「そうそう。だから部屋もこんな感じで、落ち着かないのよ」

 彼女はそう言うが、中は木をふんだんに使ったモダンなデザイン。

 簡易キッチンや、応接間。その奥にある扉が、ベッドルームで手前のドアはウォークインクローゼットだそうだ。

 それを聞いていて、人世 麻美が口を挟む。


「家なんか、弟もいるのに、狭いからプライベートなんてないわよ。夏場だと、父さん達上半身裸でうろうろするし」

 そう言って、むーっとしている。

 裸でうろつく、そんな季節が、近付いてきているからだろう。


「さてと、バーガーでもかじりながら、教材を見ましょう」

「教材?」

「うん。昨日言っていた奴」

 そう言って、弥子は怪しく嬉しそうな顔をする。


 応接セットのソファーで、なぜか彼女達は俺の両側に座っている。

 ふかふかのソファー。

 そして巨大なモニターには、怪しい男女の営みが映し出されているが、修正が入っていない……

「ふーん。あんな事をするのか……」

「そうそう。大体、みんな作りは同じだから」

「へー」

 一体、どこから入手をしたのか。


 映像にダメ出しをしながら、説明をしてくれる。

「そうそう、ほら男の人向けのビデオは、此処が駄目よね。こんなのを見るから、ただ強く揉むとかさぁ。あんなに腰を振って、早くすれば良いと勘違いするのよ」

「そうそう。ある程度までは、ゆっくりじっとりが好き」

「私も」

「けれどあんまり長いと、乾いてきて、痛くなるしね」

「そうねぇ。私はお年寄りじゃないから、乾かないけど」


 よく分からない会話がされる。

 そしてまあ、俺も男だし視覚からの刺激を受けると反応をする。

 女の人は、触覚らしいが……


「ふーん。男だねぇ」

 弥子に気が付かれてしまった。

「うん。まあ、刺激による反射かな」

「じゃあ、せっかくだし練習しよう」

 彼女が怪しく笑う。


「練習?」

「そう」

 弥子がそう言って、怪しく微笑むと、背後から麻美に引っ張られてソファーに倒れ込んでしまう。

 すると、顔の上に麻美の胸が乗ってくる。


 どこかで、声が聞こえる。

「頂きまーす」


 そう言って、ズボンが脱がされる。

 暴れて怪我をさせてもあれなので、もうされるがまま。


 結局、おとなの階段を上がるついでに、テクを習った。

 まあ二人がこうした方が気持ちいいと言って、それに従っただけだけれど、なんとなく理解をした。


 それは、幾度となく続けられて、二人が、「もうだめ」と言いだしてやっと解散をした。男はそんなに連射できないが、強引に技で元気にさせられる。

 同じようだけど、見た目も中身も、二人とも色々と違うことも理解できたし、勉強にはなった。


 葉月も初めて同士だと、痛いとか言っていたから、これでうまくできるだろうし良いか……

 少しの罪悪感……

 でも、彼女達も善意だし、あれで拒否はどうだ?


 少し悩みながら、帰る事にする。

 麻美は泊まっていくそうだ。



「颯人君、帰ったの?」

「うん。さっき帰るって言っていたし……」

「―― ねえ。弥子。恥ずかしいけどさぁ、彼賢くて、真面目だし…… 美形じゃない」

「うん」

「触れられるだけで、もうさ。ぐしょぐしょで、敏感な所を触られるだけでいっちゃうし、見られるだけで感じちゃうし、あの優しさ。なんか、なんというかあたし達。化け物を造った気がする……」

 ぐったりと、ソファーの上で麻美は倒れ込み、未だに、色々な物をさらけ出している。


「うん思う。あれってずるいよね。ちょっと入れられただけで、いっちゃった……」

「深身さん良いなあ…… 幼馴染みってずるいよね」

 弥子も、膝は床で、上半身はソファーの上。

 丁度、麻美の大事な所を眺めている体勢。

 今話をしながらも、麻美の体から、透明な液体が流れるのを見ている。


「そうねえぇ。いいけど、腰が立たない。これで、親が帰ってきたら誤解される。女同士は不毛だわ……」

「あー私も、あんたとは嫌だわ」

「さっき、盛り上がってキスしたよね……」

「したわね……」



 むろんその日は、葉月の部屋には寄らず、まっすぐ帰る。


 だが翌朝には、迎えに行く。

「葉月ぃ」

 玄関を開けると、葉月のお母さん。真深まさみさんが顔を出す。


「あら、おはよう。毎朝悪いわね。まだ起きてこないの。起こしてくれる?」

「はーい」

 玄関を勝手知ったる感じで、上がり、階段を上っていく。

 ドアをノックし、返事を待たずに中へ入る。


 ベッドの上で、幸せそうな顔をして、寝こけている葉月。

「起きろ、葉月」

 そう言って薄いタオルケットを捲り、じっと見た後、そっ閉じする。


 葉月の左手は胸に。右手は股間。

 なぜか、裸で寝ていた……


「うん、まあそこそこ育っているな」

 葉月の額にデコピンをする。

「んがっ。 ふえっ」

 そう言って、ガバッと起き上がる。


「風邪引くぞ……」

「へっ。あっ。いやあああっ」

 なぜか、頭にタオルケットをかぶり、潜っていく。

 そう。何も穿いていないお尻が、こっちを向く。


 さわさわとお尻をなでる。

 ビクビクとしていたのだが、気が付いたようだ。

 手が出てきて、ぺちぺちと状態を確認をする。


 布団の中で、くぐもった、声にならない声が聞こえる。

「あー見るものを見たし、外にいるから…… 早く用意しないと、遅刻するぞ」


 バタンと閉まる、ドアの音……


「見っ、見られたぁ……」

 見られるのはこれが初めてではないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 部屋の中から、重い物が落ちたような音が響く。

 五分後、ゾンビが現れることになる。

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