第4話 おかしな雰囲気

 その日教室では、おかしな雰囲気が漂っていた。


 葉月は当然。

 だが、麻美と弥子も顔を見ると、もじもじして、あわてて教室を出て行ってしまう。


「なんだあいつら、連れションか?」

「さあ?」

 陽介達と一緒に、首をひねる。



「葉月。あんたどうしたの? 顔が『エドヴァルド・ムンク』の『叫び』になっているわよ。颯人君に振られた?」

 朝からずっと、机に突っ伏している葉月だが、顔を上げた瞬間。皐月にそんな事を言われる。


「…… てない」

「へっ?」

「フラれてない」

 土気だった顔が、今度は真っ赤になっていく……


「熱でもあるの?」

 ぶんぶんと首が振られる。


 だが、午前中で早退をしてしまう。


 そうなると当然、颯人は家にやって来る。

 当然だが、合鍵を持っている。


 お土産に、スポーツ飲料と、熱冷まし用のシート。

 ついでに、痛み止めを持って参上。


「おーい生きてるかぁ」

 言った瞬間には、ドアを開ける。


 ベッドの上で、葉月は丸くなっている。

 ただ部屋に入ったとき、もぞもぞしていたから、起きている。

「おおい」

 ベッドに腰を掛け、頭を触ると、またビクッとする。

「返事くらいしろよ」

「えっち……」

「なんだよ、何度も見たじゃないか」

「昔とは違うのよ。それに、お尻の方も……」

「あれは、葉月が見せた……」

 その言葉を遮り、手が出てきて、パシパシと叩き始める。


「ああ。はいはい」

 暴れん坊になっている手を掴む。

 ついでに、くにくにとマッサージをする。


「恥ずかしかったの……」

「そうか。だけど一度見せたら、後は一緒だよなぁ」

 そう言うと、手がビクッとする。


「ふっふっふ。朝とは違い、おばさんもいない……」

 またビクッとする。


 ベッドから床に移動して、手を突っ込むと、拒否される。

「うーん? 嫌なのか?」

「嫌…… 帰って」

「分かった。じゃあまあ、お大事に」



 葉月は、なぜか怖かった。

 自分に興味を持ってくれていることには、すごく嬉しかった。

 でも体の関係になってしまうと、歯止めがきかず、幼馴染みの関係が終わるという事も怖かった。


 そんな心は、素直な颯人には届かず、さらに、そうだったのかと悪い方に彼は思ってしまった。

 幼馴染みで、気心が知れ、お互いに好きだと思っていた。

 だけどそれは、自身の一方的な勘違い。

 それ以上では、なかったのだと……



 そして少し、軽はずみな行動を反省しながら、自分の部屋にいたが、最近追加されたグループに連絡を入れる。

「いい。決して個人ではやり取りをしないこと、グループを作ったから。ここなら私と麻美。両方に届くからね」

 弥子に念押しをされたが、二人から、個人宛にエッチなポーズの写真が送られてきている。


「まあ遊ぶなら、グループだよな」

『時間ができた。遊ぶかい?』

 そんなメッセージを入れた瞬間。

 『行く』に関連するスタンプが、連打されて来た。


「早っ。こわっ」

 流石にちょっと引く。


 そうして、約束をした駅前にふらふらと出かけていく。


「どうしたの?」

 約束時間の十五分前に、バッチリ化粧して、私服の二人が待っていた。

「ごめんね待たせた?」

「「待ってない!!」」

 なんか、犬がじゃれてきている感じがする。


「あまり遊ぶと言っても、場所とか知らないんだ。任せていいかな?」

「うん。でもエッチしたいのなら、家へ来る?」

「いや、そんな気は無いが」

「無いんだ……」

 そう言って、驚いた後、しょんぼりする、二人。


「どうして?」

「大体男の子って、一度すると、がっつくようにしたがるじゃん」

 ねーという感じで、二人でわかり合っているようだ。


「そうなんだ」

「そう。なんだけれどね。当然のように求められると、それが鬱陶しくて別れるのよね」

「そうそう。エッチできない日って言うと。いきなり帰れとかさ」

 嫌そうな顔をしながら、思い出したようだ。


「それは、別れて正解では?」

「うんまあ、そうなんだけどね。女の子も、したい時っていうのがあるのよ」

 そう言って、ほほほっと笑う二人。


 まあ、ひとまずゲームセンターへ行って、プリントシール機から始めるが、色々と過激ポーズを求められる。

「流石にまずいから、脱がないで……」

「えーだめぇ?」

「だめ」

「仕方ない。この両側からキスで颯人の手は、二人の胸で我慢しよう」

 そう。この写真を撮った後、服をまくり上げて、生でとか言い始めた。


 クレーンゲームで、言われるままに訳の分からない物を取らされる。

 最初は見ていたのだが、どう見ても狙うところがおかしい。

「挟むんじゃなくて、この位置なら、この角っこを押せば、ほら回った」

「すごーい」


 あそんだ後、結局、お持ち帰りの中華とかを買って、弥子の家へ行く。


 そこで週一でもいいから、一緒に勉強しようと懇願される。

「勉強だけ?」

 そう言うと、盛大に目が泳いでいたが……



「あれ、おかしいわね。もう七時なのに颯人君が来ないわね」

 まさか葉月。颯人君と喧嘩でもしたとか……

「いや、流石にそれはないわよね……」

 真深さんが危惧したとおり、翌朝から颯人がお迎えに来ることがなくなった。


 後日、事情を知った真深さんが怒り狂ったとか。

「お母さん。それおかしいから。逆でしょ」

「逆じゃない。使えるモノを…… 絶好の機会を無下にするなんて、あんたって、ばかぁ」

 そんな声が、ご近所に響いたとか……

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