第2話 世の流れ

 聞いたことがある。

 研ちゃんも男なんだ。

 少し戻り、わざと足音を立てながら部屋へ行く。


 いつも通り、ノックなどはしない。

 だけど、予想に反して、研ちゃんはおバカだったようだ。

 右手は、何かを握りしめていた。


「あっばか。ノックくらいしろよ」

 そう言いながら、手を離さない。


「そんなもの、したことないじゃん。何しているのそれ」

 指さすと、やっと手が離れた。


「別に。気にするな」

 そう言いながら、ティッシュをクンクンと匂うと、どこかへ走っていった。


 おかずにしていた、スマホをそのままに……


 音は消していたが、素人が投稿したような画面。

『かわいい妹に、フ○ラしてもらいました』

 そんなタイトル。


 へーこんなのが好きなんだ。ついじっと見てしまう。

 自分は自分でお股を触って、口は……


「美味しいのかしら?」

 定食屋とはいえ、料理屋の娘としては気になってしまう。


「だけど、味見は研ちゃんの方が正確なんだよね」

 子供の頃から、引いた出汁のテイスティングはやらされた。

 昆布でも時期や産地によって味が違う。


 むろん昆布だけではなく椎茸や煮干し、研ちゃんのお家で扱う物は全部やっている。

 その情報を、売るときにメモとして付けると好評らしい。

 ちょい薄めとか、削り節酸味強しとかまあまあ色々。

 当然相手はプロなので、必要ないところもある。


 そんな事を思っていると、手をクンクンとしながら戻ってきた。

「あっ、馬鹿見るな。お前にゃ早い」

 あわてて、スマホの画像を切る。


「さて、勉強をしよう」

 そう言って、何もなかったように勉強を始める。

「なんか匂う」

「そうか?」

 そう言って、窓を開けると外から出汁の匂いがする。


 この部屋の窓は、アーケードの屋根から外れている。南北に走るアーケード。

 そして、この部屋も南向き。

 まだ今は、外の方が涼しいから、気持ちいい風に乗って喧噪が聞こえる。

 時間的に、電車からの人たちが流れて来ているのか。


「ねえ。研ちゃん」

「うん?」

「さっきの、してあげようか?」

 さっきのビデオ、映っていた女の子は、あいての反応を見ながら楽しそうにしていた。


「さっきの?」

「お口で……」

「ばっおまえ。――まじ?」

「――わりと…… 研ちゃんが気持ちいいなら、良いかなって」


 すこし、試してみたが、まだ駄目だったようだ。

「続けては駄目みたいだね」

「おかしいなぁ」

 意外と、精神的な物が大きかったのだが、そこに気が付いていなかったようだ。

 歩美にそう言う事をしてもらう、研が感じた罪悪感。

 実は他に、嫌がる子に強引にさせるビデオも見た。

 だけどそう言うのは、何か違うと感じて、それこそ、嬉しそうにしている物を選んだ。


 まあ勉強をしないといけないし、すでに母親がご飯の用意を始めている音がする。


 まあまあ、仲良く生活をしていたが、色々と変わって来始めたのが、丁度高校に行き始めた頃。

 近くに郊外型のショッピングモールが出来たりして、そこに駅が出来た。

 この路線と、ショッピングモールを挟んで私鉄の駅まで出来た。


 そうこの商店街は、旧国鉄の駅と、私鉄の駅の間に出来た商店街。

 アーケードを作ったので、濡れずに移動できます。

 それが受けて、一時期は人であふれていた。


 だけど、校外に人が住み、車で移動して買い物に行く。

 徐々に人は減っていた。

 でも、何とか人は通っていた。


 だけど今回のショッピングモールは、打撃が大きかった。

 時間になっても人が通らない。


 向こうのお店は新しく、有名なお店が並んでいる。

 遊食街とか言う、うたい文句でコマーシャルも流れ、チラシも入りまくる。


 むろん、持ち帰りも出来る。

 家に来ていたのは、疲れたお父さん達。だけど向こうに来るのは、奥さんや子供がお買い物に来て、お父さんと合流をして、食事をして帰る。

 そんな流れを作れる。


 むろん商店街でも出来ないことはないが、一般店は五時を過ぎると徐々に閉まり始めてしまう。

 そして、商店街と交差する通りにある、飲み屋さん達の営業が始まる。

 時代の流れで出来た物だけど、夜間は学校でも通らないようにと指導されている。

 酔っ払いさんや客引きさんが居るから。


 最近は、夜九時まで開けていても、お客さんが来ないことが多いそうだ。

 割下家で集まり、お父さん達が飲んでいて、長くないとか言う話が出てくる。

 研ちゃんのお父さん達も、チェーン店が増えると、乾物が必要ないらしく売り上げが良くないらしい。

 増えてきた空き店舗に入ってきたのは、チェーン店のうどん屋さんやお弁当屋さん。そしてバーガー屋さん。

 朝夕の学生狙いのようだ。


「ほれ、きちんと勉強しな。ひたすら問題を解く」

「はーい。ずるいよね。去年あれだけ勉強サボっていたのに」

「バカ。子供の頃からDHAとEPAを食べていたんだ、お前も賢いはず。つまんないところでひっかるのが悪い」

 そう言って、スパルタ研ちゃんが人の頭を叩く。


「そうよね、去年から随分頂いたし」

「おまえは。もう……」

 下ネタを振ると、以外と研ちゃんは照れる。


 あの時とは別の後日。

「俺だけだとあれだから、こういうのしない?」

 お互いになめ合う物。

「まあ良いか。してみる?」

 あまり抵抗はなかった。


 お父さん達が、ソムリエの本だったか何かで覚えたらしく、色々な物を舐めたり、匂いを嗅いだりして知識を広げろって、子供の時鉄の棒とか舐めて味や匂いを書く訓練をしたことがある。

 お母さん達に体に悪いって言われて、お父さん達は叱られていたけれど。

 つい気になると舐めたり嗅いだりする癖が付いた。

 むろん二人とも。

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