第3話 お互い貧乏

 まあ楽しくお勉強をして、問題集で良い点が取れたら、研ちゃんに背後から抱えて貰い、いじって貰うのが私にとってのご褒美となっていた。


 そう、安心が出来るし。なんとなく嬉しい。

 お互いに言葉には出さないけれど、好きだったし……


 そうして受験が終わり、高校に合格出来なかった……

 ああいや、滑り止めには通ったんだけど、研ちゃんが通っているのは、一番の進学校。お家からも近いのよ。

 私が行く高校は、電車で三つ先。

 田舎だから、以外と遠い。

 まだ学校は新しいのだけど、駅からもさらに二キロほどある。


「まあ頑張れ、勉強はどうか知らんが、体力は付きそうだな」

 そう言って、研ちゃんが笑う。


 そんな時、お父さんが決めたようだ。

 そう、そこから最悪へと、話が転がっていくことになる。


 私が通う学校は、新しいバイパス沿い。

 その近くに、大手のチェーン店が新規出店を考えていた。

 知り合いから話が来ていたようで、考えていたらしい。


「通うにも楽だし良いだろう」

「えっ、このお家と店は?」

「今ならまだ売れる」

 聞くと今度は、オーナー型もあり、その方が支払いが少なく、儲けになるとのことだ。

 そうフランチャイズは、直営タイプとオーナー型があり、直営だと雇われ店長。

 だけど、オーナー型は、フランチャイズ料。つまり名前の使用権利や、仕入れの値段。経営コンサルタント代などを月々支払う。


 そうしてオープンをして、全然違う商売にあたふたしながら、一年程度はかなり儲けが出たようだ。


 私は、学校から帰ると、お手伝い。土日もお手伝い。休日無くてお手伝い。

 そんな地獄の日々を暮らす。

 なんど、研ちゃんたすけてぇと、連絡をしたかったか……

 でも、毎日気を失うように倒れて、連絡が出来ない。


 そして別店舗で問題が発覚。

 その対応に問題が出て、本社が火に油をまき散らす。

 その間にも、客が来ないからと仕入れ数を制限を掛けても、本社は送りつけてくる。

 最悪な状況。



 そうして、ふと見ると研ちゃんの名前が、メンバーからいなくなっていた。

「えっなんで?」

 バイトもないので、久しぶりにアーケードに行くと、店は開いていなかった。


「おじさん久しぶり」

 近くでまだ営業している、お店のおじさんを見つけて話を聞く。

「乾物。割下さんの所、どうしたんですか?」

 そう聞くと、悲しそうな目をする。


「うちも他人事じゃないが、近くの店で裏書きをしていてな。そこが飛んじまったから巻き添えだ」

 裏書きというのは、手形などの保証人。

 仕入れなどで、手形を振り出し、現金化を行う時点で振出人に残高がない場合に、手形の振出人に代わって支払うのが手形保証。

 その保証をする人を手形保証人という事で、手形の裏に住所氏名を書いて銀行印を押せば、効果を発揮する。


 なぜと言いたいだろうが、以外と手形の持ち合いは、昔の名残でやってしまったようだ。


 でまあ、以外と相手が面倒なところで、夜逃げをしたようだ。

「面倒なところが出張ってこなけりゃ、逃げなくて良かっただろうが、不良手形を売っちまったようだな。どこもかしこも余裕がないのさ」

 そう教えてくれた。


「夜逃げをしたなら、役所の住所変更もしていないだろう。何処行ったかはわからんさ」

 そう教えてくれた。


 そう、それを聞いて、とぼとぼとうちに帰る。


 だけど、それから一月もせず。

 うちも親会社と裁判をすることになった。


 注文の個数減少は、残されていないとかさ。

 ペラペラした紙を出してきた。

 専用端末で送るんだもの。すべては向こうがいじり放題。

 ただ、こちらで発注操作しているのが、防犯カメラに記録されていて残っていた。


 その防犯カメラも、システムが複数台設置用で、うちが台数をケチったため上書きで消される期間が長かった。

 ちなみにそれに気が付いたのは私。


 そして何とか契約は切ったが、速やかに看板は下ろさないといけない。


 幾らでもお金はかかる。

 お父さんは、お母さんと細々と弁当屋を始めた。

 土地と建物は自分の物だから。


 高校を卒業するとお店を手伝い、高校生向けにたこ焼きとかアイスとかをついでに売る。

 最初の頃は、後輩達をサクラに使い客を引っ張った。

 そして無駄に駐車場が広いため、寄り易いらしく、口コミでお弁当も売れ始めた。


 何とか、生活はできるし、夜逃げはしなくていいようだ。

 スマホに残された、研ちゃんの写真。

 そして、記憶に残る味が懐かしい。




「ああっ? 夜逃げ?」

「手形を裏に流しやがったらしい。急げ」

 ある日、学校から帰ってきたらこれだ。


「知り合いに連絡は、まずいよな」

「相手に迷惑になる」

 父さんは短く答える。

 蛍光灯は付けず、大事な物だけを適当にザックへ放り込んでいく。


「行くぞ」

 暗闇を、こそこそと目立たないように急ぐ。


 配達用の軽トラに、無理矢理三人乗り、走り始める。

 少し田舎に行くと、俺は後ろの荷台に寝転がる。

 荷台にかけた、穴の開いたシートから見える星が綺麗だ。


 スマホは、位置情報を垂れ流すから、点けるわけにはいけない。

 家を出るときにSIMは引っこ抜いたが、安全のためだ。


 そうして、母さんを船長さんの家に残し、俺達は父さんの付き合いがあった人の紹介で船長さんの船。つまり遠洋へ潜り込んだ。船員手帳? そんな物は知らん。

 作るには国交省へ行かないといけない。やばいし時間も無い。

 船長が言うには、似たような物はあるからそれを見せろ。やばそうなら海に放り込む。

 そういう事らしい。似たような物ってなんだよ。


 予定では半年から一年半。

 俺と親父は甲板仕事もするが、料理も作る予定だ。


 出港する最中、小さくなる町を見ながら潮風を浴びる。

 ふとそのしょっぱさで、歩美の味を思い出した。


「さあて、また会えることは出来るのか…… サメの餌はいやだなぁ……」



-------------------------------------------------------

 お読みくださり、ありがとうございます。

 今回は、また少し錬る時間が短くて、申し訳ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る