第2話 彼女の気持ち

 そう、彼らは放課後になると、どこかの家に集まりゲームをしたり、楽しくやっているようだ。

 俺はいつも、茉莉と帰るから相手にされていない。


 教室には、誰も居なくなった……


 しみじみと、外を眺める。

 強い風が、普段隠されている花を、一気に咲き誇らせる。

 白が多いが、黒も良いなあ…… ピンクやベージュ。

 距離があるから、色だけだが。


「何か見えるの?」

 いきなり声が聞こえ、驚く。


 教室の端で、昼の救世主が何かを書いていた。

 黒板を見ると、日直だったようだ。

 もう一人の、当番脱田ぬきたはとっくに帰ったよな。


「ああ、ちょっと花を見てた」

「花? ああ花壇に。スーパーベナとかスーパーチュニア。エボルブルス ブルーラグーンとか綺麗だよね」

 全く聞いたことの無いような名前ばかり。


「赤とか白とか」

「そうそう、それがスーパーチュニア。青いのがエボルブルス ブルーラグーン」

「でも、教室から見えるって、目が良いのね」

 書き終わったのかそう言って、こっちに来ようとする。

 見ていたのが、違う花だとバレるとやばい気がする。


 彼女の肩を掴む。

「なあ、と、と? つむぐ」

 彼女の苗字が出て来ず。名前を呼んでしまう。


 だが。

「つむぎ。それに苗字は遠野」

 バレていた。

「ショック。前の席になって一月以上なのに」

「わりい。そんで、昼貰ったから、バーガー屋に行かねえ?」

「バーガーねえ。サンドイッチは?」

「それでも良いよ」

 そうして、導かれるまま彼女について行くと、一軒の喫茶店。


「喫茶店? 入った事が無いや」

「ホント? 初めての体験。ささっ入って」

 でまあ、彼女はずんずん奥へ行く。


「今はすいているから、その辺りに座って」

 そうして、カウンターから、奥のドアへ入って行く。

「ただいまー」

 とか言って。


「いきなり、家に来てしまった」

 漫画の本があったので、適当に読んでいると彼女が出てくる。

「だれ?」

 私服で、髪をあげた彼女は、かわいさが二百パーセント増しだった。


「もうちょっと、待ってね」

 そう言って、何かをし始める。


 この喫茶店。外は洋風の作りでログハウスふうなのに、中は、モダンというかモノトーンの感じ?

 白い壁にグレーのソファー。衝立とかテーブルはウォルナットかな? 濃いめの色。よく見れば床も木だ。


 つめれば、ギリギリ三人座れるくらいのソファー。


 そんな席が、こっちに四席で向こうに二席?

 カウンターの所で、L字になった店。

 こっちは、外が駐車場のようだ。


 ふと、メニューを見ると、サンドイッチとかは五百円まで。

 軽食は六百円とか七百円。

 今だと、安く見える。


 なんか、モーニングセットって、四百円くらいでコーヒーと同じ値段で、トーストとかサラダとか付いている写真が貼られている。

「まじか」


「うーん? 何が?」

 彼女がトレイに、サンドイッチとコーヒーを持ってくる。

「ごめんね。どうしても飲ませたくって、コーヒー。他のを飲むなら、料金を頂きます」

「あっ、はい。 頂きます」

 俺が飲み始めるのをじっと見ている。


 なんか飲みづらい。

「えーと」

「どう?」

「まだ、飲んでない」

「なあんだ」

 そう言って、彼女は向かい側に座る。ミニスカートではないが、膝丈のスカート。

 生足で、微妙な高さ……


「サンドイッチ。ツナサンドに、ミックス。ツナは鰹じゃなくて、マグロだからちょっとお高め」

「そうか、たまにツナのサンドイッチとか、おにぎりで匂うのは、鰹だったのか?」

「多分そう」


 そしてまた見てくる。

 一口飲むが、コーヒーはあまり飲まないし、しかも無糖。と、言うかブラックだ。

 でもインスタントとは、全然違う。


「あー。まあ。うまいのかな」

「あんまり、飲まないんだ」

「おうっ」

「その一杯は、家族以外に出した、初めての一杯なのよ。味わって飲んで」

「判った」

 彼女に見守られながら、飲み進める。


「サンドイッチも、うまっ」

「ありがとう。やっぱり良いなあ。自分が作って、誰かが食べて、美味しいって言ってくれて。ずっと羨ましかったんだ。茉莉ちゃんが作って、湊太君が美味しいって。毎日聞こえる声……」

 そうなのか? そう聞きたがったが、なぜか言葉には出せなかった。

 そう言った彼女の顔が、妙に悲しそうだったから……


「美味いから、たまに来るよ」

 そう言うと、笑ってくれた。


 

 その後、三日間通う事になる。

 機嫌が直らないんだよ。


 遠野さん。いや、紬が「お弁当を作ってこようか?」

 そう言ってくれたが、それは違うような気がする。

 まあ、少し余分に作ったと言う、おにぎりとおかずは頂く。


 そして土曜日、後野パパとまた釣りに行く。

 家に行ったら、茉莉がうろうろしていて、人を見ると「ふんっ」と言語化して発言し、態度もきっちりふんっという感じで顔を背けられた。


「なんだ喧嘩か?」

 そう言って笑うから言ってあげる。

「笑いごっちゃ、ねえです。原因はあの鯖でっせ」

「あー。あれかあ。そういや、釣りはするのに、魚が嫌いだったなあ」

 おやっさんは、うんうんと頷く。


「笑いごっちゃねえです」

 そう言って、今日も先週の防波堤。


 だが流石に、鯖は先週懲りたので、太刀魚狙い。

 先週も見たんだが、仕掛けを持っていなかったんよ。


 おやっさんは、ボラ吸込で、ボラを釣ってサビキ用の皮を取るとの事。

 そして、もう一本、ヒラメ用に天秤仕掛けを投げておくようだ。


 だが、噂のせいか、鯖目当ての人が湧いていて、投げるのは無理と早々に、諦めた。

 その帰り、横断歩道の信号待ちで片手にアイスクリームを持ち。

 キスをしている茉莉がいた。

「「ああっ」」

 おやっさんと声が重なる……

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