第3話 人というのは……
さっき呼んだ乃愛が、ワンコのように、必死で走ってくる。
コイツ、この前の一件で、俺に懐いた。
「何でもするから彼女。いいえ。セフレでもいい。奴隷でも」
そんな事を口走る。
この前、学校の中で、出会い頭に言われて焦った。
教育。と言っても見せるだけ。
それを見て、何も感じなければ、涼葉はだめだ。
その時の俺は、それしか無いとしか考えられなかった。
同じ経験を、涼葉にさせよう。
俺と同じ苦しみを感じれば良い。
そう…… ただその一点。
今、振り返れば、突拍子もないこと。
だけど、それを実行した。
三人で、専用のホテルへ。
家でして、こりごりだったからな。
私服だし大丈夫だろう。
すでに、乃愛は俺の腕にしがみついている。
話をした時点では、コイツのことは判っていなかったようだが、いきなり俺に飛びつき、腕を組む様子で、かなり涼葉の顔つきは険しくなる。
焼き餅なんか焼くのかな? ふと気になる。
何とか無事に部屋へ入れた。
その瞬間に、乃愛は風呂を洗いに走り、湯を溜め出す。
その慣れた行動に、ちょっとむっとする。
見えない経験の残滓。
誰かのために、していたのだろう。
「どうするつもり? 私が他の人としたからって、三人でするの? それに彼女の様子だと、初めてじゃないみたいだし。一緒じゃない」
だが、そんな事は、無視。
「いや、お前は見ているだけ。もう、お前を抱く気は無い」
「なんでよ。浮気をしたんでしょ。そりゃ、私が先かもしれないけど」
「ほう、浮気って言う言葉を知っていたのか?」
「知っているわよ」
そう言って顔をそらした。どうこう言いながら、少しは罪悪感があったのか?
そう言っていると、乃愛がやって来る。
掛け布団は捲っておこう。
涼葉はまだ入り口の辺りに立っている。
ソファーがあるので指さす。
「座っていても良いぞ」
ちらっとソファーを一瞥して座り込む。
ソファーは前にテーブルがあるが、座ればベッド向き。
そっと触れると、乃愛は何もしていないのに、もう準備万端になっていた。だが、それでは駄目だ。
自分じゃない他人が、俺の手により、乱れまくる姿。
それを見せないといけない。
そこに来て、涼葉を抱いた奴らに対抗心を燃やしていることに気が付いた。
単なる嫉妬だけでもなく、そう敵愾心。
今まで俺しか知らなかった涼葉の体。
それを他の奴らが、見て知ってしまった。
その瞬間、俺の中で価値が下がった?
いや違う。やはり、くだらない奴らに、体を預けた涼葉が許せない。
そう、そうだな。俺がいるのになんて馬鹿なことをしたんだ。
見ろ俺はこんなにすごいんだ。あっ……
―― そうだ、これは、承認欲求。涼葉に認めてほしかった。
涼葉にとって、他に目が向くくらいにしか、評価されていなかった自分。
存在感の無さ。
なんとなく怒りの、理由がストンと心にハマる。
まあ理由はともかく前回の記憶を頼りに、弱いところを攻めまくる。
すでに、幾度も達し痙攣を始めている。
「あううっ」
とか言って。
今度は、何これが出ないな?
勝手に、へこへこしているし。
私は何を見ているの。
バレていたのは驚いたけれど、比べたからこそ。晴翔との行為に、他では得られない満足感があることが判ったのに……
でも、晴翔とのエッチ。私以外だと、こんな事になるの?
彼女の目。もう何も見えていない。
感覚だけであんな…… もう。人じゃない……
はっ。私の体が、おかしかったの?
「一体何なの?」
彼女がぼそっと言った言葉に、乃愛が反応する。
「ああっ。これはねっ。あんっ。愛よぉおお。あうっ」
「愛? 愛があればこんな?」
「そう。未だに焼き餅も焼かないみたいだし。おかしいんじゃない? 涼葉。あんた、晴翔君と付き合う資格がないわよ。はあうううぅ。もうだめ入れてぇ」
「仕方が無い。ほれ」
彼のものが、乃愛に打ち込まれた瞬間。晴翔を失ったのだと実感をする。
目をそらしてしまい。俯くと、涙が出始め止まらなくなってしまった。
駄目よ、失いたくない。
私は立ち上がり、ふらふらと近付くけれど、晴翔に止められる。
「来るな」
聞いたことのない冷たい声。
乃愛はすでに、意識はなくなっている。
「おねがい。ごめんなさい。辛いの…… もうやめて」
「見てろ」
結局晴翔は、三十分近く経って、動きをやめた。
乃愛は完全に飛んでいる。
さっさと、浴室へ行ってしまった。
私は、ずっと泣いていた。
そう、今まで全部あわせても、こんなに泣いたことはない。
その帰り、背負われている乃愛と、二人を。付いて行くのをやめた。辛くて、悲しくて、胸の中にあった、何か大きなものが無くなった感覚を残して……
そう、何をしても、ずっと横に晴翔が居るものだと思っていた。
彼らを見ていて、羨ましかったけれど、何が悪かったのかは判らない。
けれど、結果的に彼を怒らせ、傷つけ失った。
そう、失ったのが悲しかった。
その後、涼葉は近寄ってこなくなったが、誰からの告白も断っていた。
そして、乃愛は、すり寄ってくる。
突き放そうが、どうしようが。
大学生の三年。今となっても、横に寝ている。
俺は、一生コイツから逃げられないような気がする……
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お読みくださり、ありがとうございます。
普通の恋愛バージョンでございます。
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