イケメンの金持ちには、裏がある

彼女は、見誤る

「ごめんね。蒼生そうせい

 用事があるからと、先に帰らせた。


 蒼生は小学校の時から、ずっと幼馴染みで現彼氏。

 カレーは作ってあるからと言ったら、嬉しそうに帰って行く。


 まあ本当に用事はあって、別の人とのデートだけどね。

 そう、今日、蒼生を裏切る。

 そう言っても、今日はお試しで、良さそうな人なら、本気でバイバイね。

 私は、幸せになりたいのよ……


 今日会うのは、大学のクラスメートに紹介された、イケメンのお金持ち。

 斎木 希羅さいき きら君。年は二個上の二十二歳だそう。

 もう会社を興す準備をして、春からは社長さん。


 同級生になった黒崎 冷子くろさき れいこちゃんからの紹介。

 彼女は美人で、バイト先のお店で、よく声をかけるらしい。


 誰か紹介をしてと言われて、私の写真を見せたら会ってみたいと言われたそうだ。勝手に見せたのと、ちょっとムカッとしたけれど、まあいいわ。



 待ち合わせの、お店に向かう。

 少し古い喫茶店。

 商店街の二階に、こんな店があることを知らなかった。


 昭和の喫茶店という雰囲気で、この時代に珍しく、たばこの煙が漂っている。

 スマホの写真を見ながら、店内を見回す。

 ぶら下がっている、古びたライトシェードは茶色く染まり、淡い光。


 少し薄暗いが、お店はそんなに広くはない。

 木製のカウンターが十席くらいと、テーブル席も通路を挟んで、カウンターを囲むように、L字型に五席程度。


 奥側のテーブル席に、彼はいた。

 でも周りに男の人が居て、パソコンの画面を覗いている。


「あのう、斎木さんでしょうか?」

 そう聞くと、彼は、薄い色のついたサングラスをズリ下げ、その上から見つめてくる。

 少し切れ長の、冷たい感じの目。

 まあ会うのが初めてだし、警戒かなぁ?


 真ん中より少し右で髪を分け、すこし長いのか、後ろで束ねている。

 でも、両脇で束ねきれなかった髪が、少し顔を隠している。


「ええと、そうだ。鵜勝 貴美うかつ きみちゃんだね。斎木だ。よろしくね」


 彼はそう言ってきたが、挨拶も少しおざなりな感じ。

「すまないね。少し仕事のプランを詰めていてね。申し訳ないが、好きな物を注文をして、待っていてくれるかい?」

「はい」

 そうね。約束の時間までは、まだ十五分はある。


 モニターを見ながら、何か指示を出している。

 客の趣味に合わせて、プランを提示とか、企画をとか色々と言っている。

 そう、その時。モニターを見れば良かったのに。そしたら逃げられた。


 そう。彼の仕事。そのための道具……



 黒崎 冷子は、あるクラブでキャストをしていた。

「なあ、レイちゃん。誰か紹介してくれないか? かわいくなくて普通でも良いからさ。いなくなっても、問題にならなそうな子」

「なに? 斎木さんなら、不自由をしていないでしょ。キャストに手を出したでしょ。ママさんお冠よ」

 彼女は、耳元でそっと囁く。


「だれだぁ。口の軽い子は。約束したのに……」

「と言う事は、複数なのね。出禁になるわよ」

「ああ。まあ気を付けよう」


 そこで浮かんだのが、貴美。冷子にとっては、その程度の付き合い。お友達だと思っていたのは、一方的な思い込みだったようだ。いなくなっても大丈夫な子として紹介された。



 その後、喫茶店を出て、学生には場違いな高級そうなホテルへ向かう。むろん彼と二人。


 そこの店でディナー。緊張をして味など分からず、カトラリーの順番を間違えないように、周りを見回すことになる。


 当然のように緊張から、斎木から進められるままに、ワインをがぶ飲み。

 そこから、言われるままに部屋に上がり。寝込む。


 そこのホテルは、宿泊客用に、専用エレベーターが地下駐車場まで繋がっている。


 車に乗せられたが、その時はすでに、スーツケースの中に彼女は居た。


 そして、彼女は帰ってこなかった。



 だが、当然帰ってこない彼女を、蒼生は探し回り、警察や貴美の親にも連絡を入れた。


 その中で、良さそうな男がいないかと、貴美が友人にこぼしていたことを聞く。

 それを聞いて、そんなはずは無いと、言いきれるほど蒼生には自信がなかった。

「そう言えば、昔も……」

 思い当たる記憶が、幾度かある。


「それは…… だけど失踪だとか、駆け落ちにしたって、いきなり姿を消すなんて。そんな事をする理由がないだろう」

 貴美のパパはそう言ったが、ママさんは……

「あの子、うかつな所があるから、後先を考えずに行動をするのよね」

 そうぼやいていた。


 ちなみに、ホテルからは、貴美の服を着た女の子が、自分の足で出ていった所が、防犯カメラに撮影されていた。

 スマホは、喫茶店で自ら電源を切っていた。

 着信が鳴って、じろっと見られたことと、その通知が蒼生だったから……



 貴美は、小学校の時、蒼生と会ったこと。

 仲良くなって、入り浸っていた部屋のこと。

 多少異性に興味が湧いても、蒼生にはそんな気が起きず、邪険にもしたが、結局彼のそばが居心地が良くて、戻ったこと。

 色々と思いだした。


 そして、大学に入り。

 別々に一人暮らしを始めたとき、直ぐに蒼生が、まともに料理が出来ずに、死にかかったこと。


 自分も出来なかったが、美味しいと言ってくれる顔を見たくて頑張ったこと。

 そんな事を考えていた。


「そうよね。蒼生のそばが安心で、一番落ち着けた…… ばかね。私……」

 そう、最後まで……



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 お読みくださり、ありがとうございます。


 どうも、ダーク方面に振っているようで、キラキラ青春方向が書けませんね。

 キラキラ暴走の別れ? まあ、次は何とか……

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