第3話 飯の確保と、殺す決意

「おっ。捕れたな」


 川の中を石で仕切り、魚を導く。

 行き止まりの場所で、魚がクルクルと泳いでいる。


 本当はやなでも作れば良いのだろうが、目だちたくない。


 梁漁とは、川の中に足場を組み、木や竹で作ったすのこ状の物を斜めに設置しておく。すると、水は素通りして、上流から泳いできた魚がすのこの上に残る漁法。



 魚を、エラから口へ枝を通し、捕まえ終わったら、囲いを崩す。


 尖った石で、鱗を取り腹を処理する。

 本当はかごでも作り、頭を入れておけばカニでも捕れるだろうが、今はいい。安全な拠点を探すのが先だ。


 親父の趣味に付き合わされて、そこそこ出来ることが多いが、出来ないのが悔しい。


 痕跡を消し、やばい奴らが死に絶えるのを待つ。


 最後二人になれば、―― 俺が死ねばいい。それで、七海は帰れるはずだ……




 喉も渇き、疲れと緊張からか、うとうとする。


 トイレすら緊張をする。

 あんな何もないところで、用を足すのは初めてだった。

 ちょっとした背徳感。


 すぐ目の前にはきゅっと締まった、律のお尻が見える。

 匂いとか音は、流石に恥ずかしかった。


『この島で、皆、仲良く殺し合いをしておくれ』

 頭に響いたこの言葉。


 最後まで一緒に暮らして、二人になったら、そう…… 私が死ねば良い。

 それで、律ちゃんは、日本に帰れる。


 ―― でも、赤ちゃん。欲しかったなぁ。



 その後、鬱蒼とした木のところで、律ちゃんは周りを見る。


 倒木や、低木の枝を集めて、木に這い上がる。

 いくつかを蔓草を使って編み込むと、木の上に一人分くらいの寝る場所が出来た。

「これは、あくまでも簡易版だ。時間をかければ、もっとまともなツリーハウスが出来るんだが」

 登るときには、丸太を立てかけて、足場にした。


「見張っていてくれ」

 そう言って、律ちゃんは粘土で器を作って乾かしたり、石斧を作ったりしていた。

 槍や、弓。

 上から、攻撃が出来るもの。


「問題は、何人以上で固まると、目を付けられるかだな。それとも関係が無いのか?」

 そんな事を言いながら。



 その頃、他の生徒達は悩んでいた。

 最後の一人。

 それならば、最後になるまでは、殺すか殺されるか。

 それは当然、自死も含む。


「ねえ、どうする?」

 帰ってこない先生と、さっきの悲鳴。


 二人は、荷物を持って、場所を移動する。

 ただ、森ではなく海岸沿いに。川を探そうと。


 海岸を回り込むと、岩場になる。

 その岩場には、高さがあり、結局森へ入ることになる。


 到る所で人の気配。

 ただ、殺せと言ったところで、道具がなければよほどでないと殺せない。

 そこは少し安心できた。


 ただ、それは数日で、知識のあるものは、弓を作るし槍も作れる。

 最悪、手頃な石や木の棒。

 何でも使える。


 見つけたものをどう使えるのか? それがひらめく発想力と、地頭の良さが、命運を分ける。


 律のように知識を生かすのか、ひらめくのか。


 そう、落とし穴や罠が、数日後には設置され始める。



 その頃、天の声は悩んでいた。

 あの星で生き残った、最後の者達。

「減らすのは悪手かな? どうも、見た感じ。単体では、増えないようだし、摂取物もこだわっているようだな……」


 だが、運というものは、ある程度決まっている。

 この箱庭で、減らした人数分を、上積みする。

 そうすれば、生き残る可能性があるかと思ったが…… 水も空気も無い世界だと、それでも生きていけないようだ。


 これは困ったな。


 また新たなる者達が、生まれるまで素直に待つか?

 あの星が生まれ、五億年ほどは何もなかった。

 そこから少し目を離せば、青き星となっていた。


 だからまあ、介入を行ってみたが。

 意外とこの生き物は、ひ弱だったようだ。

「これでよく。あそこまで増えていたものだ」

 そうして、考えた末。

 ―― 彼は無情にも、諦めた。


 その結果。幾人かずつ、適当に元の地球へ帰されはじめた。


 その頃には、知識ない者から、衰弱して死んでいってた。

 生水を飲み、食あたりで体力を減らし、寄生虫に感染し、毒の有る物を食す。

 スイセンをニラと間違えたり、キョウチクトウを燃やしてみたり。

 そして、先生を捕まえ、オラオラしていた連中も、返り討ちに遭う。


 律はその頃、結局、川にヨシで組んだ梁を仕掛け、海岸では引き潮になった時に、砂地が出るところにコの字型の石組みを作っていた。

 この漁法は、石干見いしひび漁法と言われ、沖縄や九州地方で行われていた伝統漁法。


 満潮時に、魚が入り、引き潮時には囲われた中に、魚が取り残される。

 単純な仕掛けだが、バカに出来ない。


 岩場ではニナ貝や、サザエ。

 アワビは厳しいが、貝殻をナイフにして捕った。

 そしてカメノテや、わかめ。


 ヨモギや、フキ。

 知っていれば、食べられる物は見つかる。


 時期によるが、山芋も、蔓を見ていれば採れるし、むかごと呼ばれる肉芽も食べることが出来る。


 乾物を作り、土器で保存をする。

 言ってみれば、楽勝状態だった。


 がまの穂も集め、火口や蚊取り線香代わり、花粉のクッキーとか。

 

 そう、二人は意外と幸せだった。


 だが、奴の気まぐれが起こる。


 目の前で、いきなり消えそうになる七海。

 とっさに手を掴み、同時に転移をする。


 だが、元に戻った二人は絶望する。

 空気は熱く、呼吸をすると肺が痛い。


 地は焼けた後が広がり、木の一本も存在しない。


 空は薄暗く、まともな状態ではない。

 

 崩れたビル群。

 そう、形容するなら地獄。


 二人は、この短時間で、すでに肺を冒され、呼吸が辛くなっていた。

 

 無言で抱き合い、キスをする。

「幸せだったね」

「そうだな……」

 立っていられず、二人は座り込む。


 まだ地面は熱を持ち、少し熱い。

 だが、律は七海を抱っこする。


 呼吸はしても、すでに酸素は来ず、チアノーゼという皮膚が青っぽく変色していた。

 浅い呼吸、そして少し深く……

 それも、すぐに止まる。


 先に逝ってしまった七海を、ぐっと抱きしめる。

 だが、そこで力尽き。すぐに律も後を追う。



 飛行機が消える寸前、巨大な隕石が地球にやって来た。

 地殻はめくれ、溶岩が吹き上げた。その衝撃波と波は、地球全部を包んだ。

 その後、熱風が吹き荒れた様である。


 そして奴は、少し勿体ないと思い。あの箱庭を創った。

 だが人類は、環境適応力が意外と低かった事が分かる。


 そして、彼は考え。

 また永い時を待ち、次の生物に期待することに決めた。

 そして、地球は幾度目かの滅亡を迎えた。



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 お読みくださり。ありがとうございます。

 かなり制限をかけ、短編に収める都合上、こんな感じとなりました。


 時間があれば、中長編のサバイバルものを書くかもしれません。

 当然、魔法とモンスターありで。

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