第2話 外れ始めた、箍《たが》

「クラスの中にも、やったら駄目な決まりだから、我慢をしている奴らがいる。その箍が外れると怖いな」

「ああ、いじめとか?」

 七海は常識的な範囲での、最悪を想像したようだ。


「この状況。いじめならまだましだが…… その先。殺人をせよという命令だ。やる奴は、きっと躊躇などしない」

「そんな」

 禁忌などそんなもの。小さい頃からやっちゃいけないと言われているが、やっても何も変化はないものだ。

 ストレスは、やってはいけないことをした。そう思う心があるから感じるもので、最初から何で? 何が悪いの? と思う奴に罪悪感などは無い。

 逆に何で怒るのさ、位のものだろう。当然反省などは、何にたいして反省をするのか理解を出来ないだろう。


「大抵、恨みがあってやりました。無我夢中で。なんていう奴は嘘だよ。殺す気でやっているさ」

「そうなんだ」


 のんきなことを言っていると、遠くから聞こえる声。

「あなたたちふざけないで。やめてぇぇ」

 そんな声が聞こえる。


「ありゃあ。先生か。生きていたんだな」

 荒川 美紀先生は、確か三十二歳くらいだったよな。


「そんなに落ち着いていないで。助けに行かなくて良いの?」

「俺に死んでほしいのか?」

 意地悪だが、聞いてみる。


「やっ。だけど……」


「先生を襲っているのは何人で、武器の有無は? それが分からず突っ込めば、俺は殺され、お前は回される。多人数とエッチするのが好きなら、生かされるかもしれないが、皆で殺し合えという現状。殺されるだろうな」

 そう説明をすると、何かを言おうとした口が、何も言葉を出せずパクパクする。




 緊急脱出スライドから脱出した後、私たちはパニック状態だった。

 だけど、あの声を聞いた子達が、いくつかのグループで森の中へ行ってしまった。


 私は、固まって居た、女の子達に声をかける。

「もうすぐ始まりそうだから、持っていたのに」

 手荷物を置いてと言われて、素直に従った者達が、脱出は出来たが困ることになる。

 飛行機の窓から見たとき、どう見ても、この島に町はなかった。

 それどころか、近くに他の島もなかった。


 実際、森に逃げた子達は、荷物を持っていた。

 瞬時の判断。


 決まりでは、脱出の遅れや、ハイヒールなどは、緊急脱出スライドの破損の可能性が理由らしいが、後日席ごとにお返ししますと言われても、燃えているものは取り戻しができない。


 実際乗務員さん達も、燃えているのを見ているだけだし。


 そして、飛行機がなぜか爆発を起こし、砂浜に炎が広がる。

 上ではなく横に広がった炎。


 瞬時に、目の前に居た女の子達を押し倒す。



 背中に熱を感じる。

「先生脱いで、背中燃えてる」

 上着が燃えてしまい、Yシャツまで穴が開いてしまった。

 おまけに髪も後頭部あたりが少し燃えた。


「あなたたちは大丈夫?」

「ええ。少し手と、膝が火傷かな」

 もう一人も頷く。


 会話後、彼女達が見ていた景色を見る。


 立っていた人たちは、航空燃料をかぶせられて、火を点けられたように、転がっても燃え続け。やがて動きが止まる。

 命が終わると、嘘のように鎮火をする。


 多数の人たちは、今の爆発を見て、森へと逃げ込んでしまった。


 だけどその混乱の最中、逆に森から走ってくる二人。

 相馬君と生田さんが帰って来た。


 ―― そうか荷物。飛行機が壊れ、貨物室が開いた。

「あなたたち、荷物を取りに行くわよ」

 女の子二人を連れて、自身の荷物を取りに行く。

 

 相馬君達が、目に付いた荷物を引き上げてくれているようだが、その中にはない。


 少し深いが、荷物室に向かうと、私の荷物には水が入ったようだが、小分をしてパックしてある。中身は濡れていないはず。


 何とかして引っ張り出したら、あの子達も自分の荷物を見つけたようだ。


 浜辺でも燃えている火を、森の方まで引っ張ってくる。

 そして手分けをして、薪をを探す事にする。



 それが失敗だった。

 ジャケットを燃やし、穴が開き、濡れたYシャツ。背中で気が付かなかったが、ブラの紐が、かがんだ瞬間にはじける。

「うかつだったわね」

 だけど今は、どうしようもない。


 やめれば良いのに、ガバガバするので脱いでしまった。

 危機管理の無さ。


 それは、少し生活態度の悪い子達に見つかってしまう。

 上半身は完全にはだけた状態。


 見かけた彼たちは、目の色を変える。

 あわてて走り出したが、道は無く。木の根が張って、ボコボコの地面。

 三十過ぎだが、十年以上運動をしていない。


 あの子たちを巻き添えにしないよう、海岸とは平行に走る。


 当然だけど、あっという間に、追いつかれる。

「あなたたちふざけないで。やめてぇぇ」

 そう叫んでも、躊躇無く伸びてくる幾本もの手。

 私はあっさりと、彼らのおもちゃになってしまった。


 彼らは、五人でつるんでいた。

 適当に、水を汲んできて、適当に魚を捕る。

 なぜかライターを持っていて、火を起こすのはすぐ慣れたようだ。


 これで、三日。

 適当に性欲処理……



 三日前。

「じゃあまあ、奴らに会っても鬱陶しいから逃げるぞ」

 七海の手を引き、上流へと向かう。



「ワニとかはいないようだが、木の上も気を付けろ。蛇とか虫とか居るからな」

 拾った棒を武器にして、枝とかを寄せながら歩いて行く。


 口には出さないが、二人とも喉が渇いている。

 火を起こして煮沸してもいいが、やばいものが流れている場合は……

 魚が居るし大丈夫か?


 棒で、地面を掘る。横からと縦。

 高火力で、煙が出づらいダコタファイアーホールを作る。

 ネイティヴアメリカンが使っていた、たき火方法。


 鍋は、とりあえず紙。

 ノートを破り、折り紙で紙コップと、鍋を作る。

「燃えるなよ」

 火が直接当たらない高さに、カップホルダーのようなものを粘土で作る。


 そこに、水を入れた紙コップを引っかける。


 湯が沸くのを待っている間に、七海は眠ってしまった。

 疲れたし、火は心を落ち着ける。

「仕方が無いか……」



 第三話に続く……

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