幼馴染みの蓮は変わり者

蓮を失った理由。

「ねえ、好きなの」

「鋤? これは鍬だよ」

 家庭菜園の作業中に、言ったのが間違いだった。

 蓮の手で、私の口に差し込まれたイチゴ。


 甘酸っぱい味が、口に広がる。

 つい出てしまった告白の言葉。


 最近、忙しいために、ずっと周りに人が居て、隙間が今だったの。

 まさか、鍬だと返されるとは思わなかった。


「ちがう。恋愛的に」

 私がそう言うと、ぼけたようなことを言い出す。


「恋愛ねえ。なんだかピンと来ないな」

「高一にもなって、可笑しいでしょう?」

 私なんか、気が付いたのは中学の時なのに。


「そうは言ってもなあ。漫画とかで見ていても、よくわからないんだよな。あーキスしたり、抱き合ったりするのが、恥ずかしいと言うのは理解できる」

 そう言って腕組みをして、うんうんと納得している。


「ねえ。試しにきっきっきっ。ああもう。きすしてみにゃい?」

「にゃい?」

「むっ。いいから」

 両手にイチゴを持っている蓮に、強引にキスをする。

 お互いに、さっき食べたイチゴの甘み。

 軽く触れるだけのキス。


「うーん?」

 私の心臓は、バクバクなのに。蓮は首をひねる。

「どっ。どうだった?」

「昔と変わんない。あの時は歯がぶつかって、血が出て大変だったなあ」

 言われて思い出す。あれは小学校の五年くらいだった。


 みんな、女の子が少し異性に目覚めた頃。

 キスが流行った。


 そうその時も、蓮とキスした。

 覚えていてくれたのは良いが、そうね。あの時は、お互いに痛かった。


 そう考えていると、蓮はいちごを食べていたのに、気が付くと私は抱きしめられ、またキスをされ、今度は舌がにゅるっと入ってきた。

 その瞬間。触られているお尻の辺りなどがゾクッとする。

 力が抜けて腰が……


 しばらく、何かを試していたようだが、やっと離れる。


 その時私は、色々なところがゾクゾクだった。

 なのに、蓮はやはり首をひねる。


 その時私は、少し涙ぐんでいたかもしれない。

 急に恥ずかしくなり、逃げてしまった。



 そう恥ずかしかった。

 それだけなのに……

 いや数日だけ。多分。


 蓮を、避けてしまった。

 いくどか、『嫌だった? ごめん』と言われた。

「違うの」

 それが言えず。


 それから、一週間くらい?


 蓮はあろうことか、誰かに相談をした。


 選んだ相手は、私の親友である、水谷詩乃みずたに しの

 奴は、あろうことか、蓮と色々お試しをして、最後までしやがった。


「彼優しかったし。やっぱり私彼が好き」

 克明にその時のことを説明してくれた後。

 そんな事を、言いやがる。


 その言葉に、つい言い返す。

「蓮は好きって言ってくれた?」

 つい自分のときを思い返し、聞いてみる。

 蓮はまだ、異性に目覚めていないのよ。


「ばかねえ。男の人って、以外と少しの期間付き合っていかないと、好きだと思ってくれないの。気持ちに気が付けば拘ってくれるから大丈夫。あっほら、男の人って、なかなか散髪屋さんを変えないって言うでしょう。じゃあねえ」


 確かに蓮は、子供の頃から同じ散髪屋さん。

「美容院とか行かないの?」

「そう聞いたときも、あそこが良いんだと言って譲らなかった」

 好きになってくれるまで、甘やかさなきゃ駄目よ。

 ケラケラ笑いながら、詩乃がくれた助言。


「蓮を甘やかして、詩乃よりメロメロにしたやる」

 気合いを入れて、蓮の部屋へ向かう。

 蓮は今、農機具小屋の二階に住んでいる。


「れ……」

 声をかけようと思ったら、学校のシューズ。

 女の子が来ている。

 そんな物、一人しかいない。


「あっ。そうそう。その辺りをゆっくり。こっちは元気にするから任せて」

 そんな声がして、私は逃げ帰る。


 何をしていたかは知らないし、知りたくもない。


 ただ逆に、蓮が私に素っ気なくなった。


 少しの無知と、すぐに照れることなく行動が出来れば、蓮の横にいられたのに。


 そして……

 私は、詩乃の髪の毛を埋め込んだ藁人形を作って、二人が別れることを願う。

「納屋に材料なら沢山あるし。覚えていなさい」


 その後、近くの山で、真夜中になると釘が打ち込まれる音が響きだしたとか。

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