第4話 そして流れは、元へは戻らない

 昼間。流が馬鹿をやって謝った。

 そして、私たちの遊びを、津間さんが盗ろうとした。

 あれは、二人の楽しみ。

 なんだかイヤだ。


 何でだろう。

 流との時間が、消えるような気がする。

 今こうして、しゃべっている中へ、頻繁に人が紛れ込む。

 いつから?


 前は、会話の中に紛れ込んだ単なる物だった。

 今は脇役でも、そいつが動いている。

「津間さんが意外と良い子で良かったよ。もっと冷たい感じの娘だと思っていた。思い違いをしていたよ」

 なんか、いや。

 流ちゃんの口から、女の子の話題が出る。


 そう、それが嫌。

「そうかなあ」

 つい、考えたくないから、冷たい口調になる。


 どうして、なんで。否定する気なんて無い。

 あっ。


 冷たい口調。

 あっさりとした。

 それは、言い出すのに苦労した末に、あいつと付きあうと言ったとき。

 流ちゃんは「ふーん。そうなんだ」冷たくそう言い放った。


 あれは、今の私と同じ? 私のことが好き?

 私も流ちゃんのことを好きだから、これは焼き餅なんだ。

 意識しなくても出てしまう。


 無意識に何かを押し殺すと、冷たく無関心な受け答えになるんだ。

 今頃わかった。


 流ちゃんのことを好き。

 なぜだろう、言い出せない。

 まえは、軽く言えた言葉。


 否定されるのが怖い。


 こんなにそばに居るのに、辛い。

 少し何かが変わっただけで、子供の頃からずっと居たこの部屋が、落ち着けない場所になってしまった。


 私は冷たく静かな、私の部屋がイヤだった。

 お母さんが「近所にお友達がいるよ」そう言って連れてきたのが、この部屋だった。

 学校から帰り、イヤな自分の部屋から逃げるようにここへ来た。


 ここに居れば、すぐに流ちゃんが帰ってくる。

 そうしてここは、もう一つの自分の部屋になった。


 それから一〇年近く。

 お家の鍵も貰っている。

 入って自由にしていても、竜ちゃんは何も言わない。


 一緒に居るうち、苦手だった勉強も好きになった。

「ひま潰しのパズルだと思えば良い」

 そう。さらっと言って、一所懸命勉強をしている流ちゃん。


 この時告げれば、変わっていたかもしれない。


 何かが変わり、流ちゃんの周りに女の子達が割り込んで来始める。

 そう。先に裏切ったのは私。

 何も判らず、恋愛という言葉にひかれた。


 手を出してはいけない物に手伸ばし失敗をした。

 あれから、彼の。いえあの屑の話を聞いた。

 あいつは屑だと。

 幾人もやり捨てされた。

 そんな話がゴロゴロ出てきた。


 そんな毒に何も考えず手を出し、そう。目の前にあった青い鳥を逃がした気分。


 彼の口から出てくる、女の子の名前が増えてくる。

 そう。

 津間さんが、頻繁に声をかけ、それを見た女の子が声をかけ始めた。

 授業中に、彼の背後の人間は、あの遊びを見ていた。

 だから私と流ちゃんが付き合っていると思っていた。

 だけど、あの屑の話が広まった。


 あいつはまだ入院しているらしいが、元鞘 元美はあいつと付き合っていたらしい。ビッチだと。


 一方で流ちゃんの人気は上がった。

 新学期の謎のパフォーマンス。

 勇者降臨と言われているみたい。


 そして、見てしまった。


 先生がたまに流ちゃんを呼ぶ。

 あの女。

 流ちゃんとエッチしていた。


「ちょっと、きちんと状態を言いなさい」

「最近、膨らむ前に先生がいくから、膨らまないんですよ」

「いくからって。仕方ないじゃない。君が上手になって。あっもう」


 それを見たとき、私は全身の力抜けた。


 これは、私が起こした流れ。

 ちょっとした気の迷いで、彼を手放した。

 彼はこんなにもみんなに求められている。

 その囲いを、私が壊した。

 きっと。


 そこから、私は一参加者として列に並ぶことに決めた。

 流ちゃんが欲しい。


 たとえ否定されても諦めない。

 そう、欲しかったのは、部屋じゃなく、流ちゃんの横だった。

 私は、やっとそこに気がついた。



--------------------------------------------------------------------------

お読みくださりありがとうございます。


すみません。色々やっていて、更新が進んでいませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る