第3話 瀬の流れは意外と早い

 先生はやはり、別れ話のダメージ。

 大学のときからで、もう八年。


 趣味や、性格的相性も悪くはなかったと思う。そう説明された。


 でまあ、二十八だし、そろそろ結婚しないかと、言い出さない彼に切り出したと言う話。

 当然受けてもらって、式場とか披露宴の話が出てくると思っていた。

 だけど、彼は否定した。

「幸代。別にこのままでも良いじゃないか。友人としてなら完璧なんだ。その…… 結婚となれば、当然のように子供を作ろうとか言う話が出てくるし……」


「『こども。嫌いなの?』私は彼に聞いたの。そしたら、彼なんて言ったと思う? あっいや、こんな事。流石に河野くんには言えないけれど、その、先生の具合が良くなくて、えーと子供を作る行為。つまりエッチは、他の人の方が良いと彼は言ったのよ。はっきりと。ひどいでしょ。浮気してたのって聞いたら、浮気じゃない。そういう行為。つまり体だけの関係のみだって……」

 そう言って、泣き出した。


 それでまあ。つい、よく漫画とかだ見るように、ハグをして、背中ポンポンをしたんだよ。

 そしたらだ。

 先生が、確認をしてくれと言い出すわけだ。

 ものの緩さを。


 先生に目をつぶってと言われて。

 だけどその状態で「ちょっとだけ準備」とか言って待たされた。けれど、音がまあ色々と。

 その内、手が導かれて、差し込んだけど……


 何だろう、クラス内で噂に聞いた包み込まれた感じではなく。ソフトボールの内側って、こんな感じかなって思う作りだった。

 違う方に刺したのかと思って、思わず目を開けちゃった。


 すぐ目の前に、不安げな。でも真っ赤な顔をした先生と、目があって双方で真っ赤だよ。


 それでまあ、先生と顔を突き合わせて、現象をバルーン現象と言って、良くあることだと突き止め。なんとなく理解して、怪しいサイトを検索しまくる。先生と二人で。


「まあ、タイミングと、少しお腹に脂肪がつけば治るとか書いている所もありますね」

「お腹。結構あるけどな」

 そう言って捲ったお腹周り、きっちり六つ以上割れていた。


「先生趣味は?」

 そう聞くと、なぜか目があっただけで顔が赤くなる。


「ジョギングと、ボルダリング?」

「大会でも出るんですか?」

「ううん。趣味」

「何処のアスリートかと思いましたよ」

 お腹を指さす。


「そうかなあ。本気でやっている人。もっと体脂肪薄いよ」

「だからだよ。プロになるんでしょうか?」

「ううん」

「じゃあもっと食え。太れ。広がる隙間を脂肪で埋めろ」

「ひどい」

「あと、なっている状態は一時的なので、その時は体位を変えるとかって書いています。頑張れ」

「いや、もう別れたし。付き合っている最中に、あいつは別の女がいたのよ」

 一瞬表情が無くなったが、そう言って泣き始めた。


 でー、まあ。おちついてから帰ったんだけどね。

 無事?



「お疲れ。流ちゃん。終わった?」

「ああ」

 家に帰ると当然のように、スカートを穿いたオッサンがいた。

 子供の頃からの習慣で、うちで宿題をする。

 まあ今は、受験勉強の方が比率が多い。


「先生なんだって?」

「いや、内緒」

「なんで内緒よ。浮かれてないで勉強しろとか言われたんじゃないの?」

「それは、まあ」

 なぜか、口ごもる。

 おおっ。後ろめたいというのは、こういう事か。



 少し勉強になった。

「そう言えば、津間さんが流ちゃんに興味があるんだって」

「津間さんて、だれだっけ?」

「流ちゃんの前。席が替わったでしょ」

「そうだ忘れてた」

 そんなことを言いながら、元美の背中側で部屋着に着替える。

 まあ見られてどうこうはないが、発情期じゃない、思春期になってから多少は気にするようになった。

 

「忘れて、あれやっちゃだめよ」

「そうか、できなくなったか」

 元美が前の座っていたときは、背中に文字を書いて文字当てゲームとか、伝言ゲームとかやった。右の脇腹を利用すると、こいつはぷるぷるし始める。

 

「津間さんねえ」

 そうって、いつもの所へ座る。


「なに、流ちゃん。興味あるの?」

「彼女って、ちょっと美人系だよな。ちょっと鋭い目で」

「あーうん。そうだね」

 そんな会話をしつつ、問題集から、元美が顔を上げると、なぜか泣いていた。

「なんで泣いているんだよ」

「わかんない。なんでだろ」

 ティッシュで涙を拭いて、ついでに鼻もかませる。



 そんなことがあって、授業中。

 暇になり、つい背中で文字当てゲームをやってしまった。

「ひゃう」

 そう言って、津間さんが立ち上がる。

 今は普通に授業中。


「うん。どうした。トイレか」

「はい。すみません」

 そう言って彼女は、教室を出て行く。

 耳まで真っ赤になって。


 こっちを見ていた、元美。

 馬鹿だねと言う感じで顔を被う。



 かっ、かれが。あれは何?

 何かを伝えようとしたのか、私に触れたかったのか?

 まだ背中に残る、すっと触れられた感触。

 じんじんとして、こそばゆい。

 私が、驚いたから途中でやめて途切れた。

 ――告白とか?


 感覚は真っ直ぐな縦線。

 意地悪で強くこすったわけではなく、丁度良い感じ。

 鏡で見ても、落書きをされた感じではない。


 休み時間に聞こうと決意して、真っ赤になった顔を洗い、教室に帰った。


 そしたら、元鞘さんと一緒に謝られた。

 彼女が、河野君の前に座っていたときにしていた遊び。

 文字当てゲームや、伝言ゲーム。

 授業中に、そんなことをしていたなんて。

 ずるい。


「河野君謝らないで。あらかじめ合図をくれたら大丈夫だから。今回は突然で、ちょっとビックリしただけだから」

 そう言ったのに、彼がしてくれることは無かった。


 第4話に続く。

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