第2話 流れには淵もある

「あら残念ね。お似合いだと思うのに」

 先生は、指摘されたのが気になったのか、コンパクトで目元を確認している。

 何度目かは知らないが、むくみのぷくぷく加減で、がっくりきたようだ。


「そうでしょ。長い付き合いで気楽。いいと思うんだけど。長く付き合って家族だとでも勘違いしたんですかねえ。先生」

 そう言いながら、ちらっと先生を見る。


 ただ、言った言葉は本音だ。

 愛しているなどとは言えないが、好きで離したくは無かった。

 そうまさに家族。いや熟年夫婦?


 相手が屑だと判ったのは、あいつが言った名前。

 数人当たると、ボロボロと。

 平気で複数人と付き合い。飽きたら別れる。

 つまり、誰彼構わずでは無いが、気になればとりあえず声をかける。


 性格が悪いので、長続きもしない。

 そうして、食われた女の子が多数となる。


 そして現在進行形の三人。名前がすぐに挙がってくる。

 男子ネットワークというものが存在し、同穴兄弟否定連合という謎の組織がリスト化をしているらしい。元美はまだ三角が付いていた。

「おう。奴の現行リストをだせや」

 リストに、元美の名前を見て、つい頭に血が上ってしまったらしい。

 他の二人。クラスと名前を教えて貰う。

 実に協力的だったよ。


 連合メンバー君の証言。

 奴は鬼じゃぁ。近付いちゃあなんねぇ。


 家で勉強していて、バカみたいに元美が暴露する。

「エッチって、みんな普通にするんだよね」とか「痛いのかな」って言う言葉をぼやきながら「明日か。いやだなあ」などと独り言? を言っている。

 じゃあ止めてあげようって言うんで、現行彼女二人に、放課後部屋へ来いと手紙を回す。

 一応俺も、行動を見張る。


 元美の家も放課後は誰も居ない。

 だが、追っていると奴の家へ行くようだ。奴の家の前で、女の子二人が鉢合わせして喧嘩してる。

 やべえちょっとズレたら、元美だけになる所だった。

 怒って帰らなくって良かった。

 彼女二人達に、しつこい性格でありがとうと、お礼を心の中で述べる。


 流石に鈍い元美でも、状況は把握できたようだ。

 左のボディブローから、右のフックが身長の関係で顎先にヒット。

 奴の意識は刈り取られた。


 プンプンしながら帰っていった。


 その後、蹴りまくられているクズ野郎の所へ行き、浦島太郎よろしく彼女達の仲裁に入る。

「そこのかわいいおなご達、クズを虐めてもいいが、死んでしまうぞ」

 怒って帰らず、結果的に元美を助けてくれた二人。

 千円ずつ、奴の財布から抜いて渡す。

「同じ境遇のもの同士、仲良くしなさい」

 そう言って追い返す。


 腹に渾身の蹴りを入れた後、救急車を呼ぶ。

「通りがかったら、高校生が暴行を受けたようで倒れています」


 救急車のついでに、警察まで来やがった。

「君が発見者かね」

「はい。通りがかったら倒れていたんです」

 嘘ではない。


「うわあ、結構やられているな」

「彼のことを知っているかい?」

「うちの高校で結構有名人で、乙女の敵とか悪魔とか呼ばれています。つまり甘い言葉で女の子をたらし込み。飽きたら捨てると言う感じで」

「そうか、それじゃああれだな。――君は彼に恨みは?」

「いえ、うちは未遂でしたので、何とも思っていません」

 きっぱりと答える。


「――じゃあまあ、学校と保護者さんに連絡をしてみるから。連絡ありがとうね」

 そう言って、彼らは去って行った。

 発見者の情報は流れたらしく、三又の親からお礼の電話があった。


「あー。男なんて糞だわ」

 うちの幼馴染みは、少し賢くなって、少し口が悪くなった。



「ごめんなさいね。生徒の君に」

「いえ教師だって人間。辛いときは泣けば良いんです」

 先生の愚痴を聞き、泣かせてしまった。

 何か言ったわけじゃない。

 愚痴を聞いただけ。

 少しだけ、ぎゅっと抱きしめる。

 うん。元美とは違うな。


 そう。この日はまだ、理性は働いていたし大丈夫だった。

 教師としては失格だし。人間としては駄目駄目だった。

 だけど、誰かに甘えたかった。

 彼は子供だけれど…… そうよ。十歳も下。


 その晩不覚にも、酔って寝ていると、彼に優しく抱かれる夢を見た。

 そして、朝までぐっすりと寝てしまった。

 ずっと見ていた悪夢。

 彼に言われた別れの言葉と景色。

 これが繰り返され、この一月以上寝られなかった。


 でも、つやぴかな肌。

 昨夜塗ったナイトクリームが仕事をした。



 昨日、元鞘さんと話をして、河野君がフリーだと知った。

 彼の態度は、幼馴染みへの態度だったんだ。

 自然な感じで、元鞘さんをフォローして、揶揄いながら気分転換させて。


 クラスでも、勉強はできるし、目だつ人だから、気にはなっていた。

 昨日、課題提出から戻るときに、目があった。

 まるで王子様のような微笑み。

 私の心は、あの時何か満たされた気がしたの。

 

 クラスで、意外と異性について話題になることは多い。

 でも、怖いし必要ないと思っていた。


 だけどそうなんだ。体が大人になるということは心も成長する。

 生物としての正常な成長かしら?


 第3話に続く。

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