僕たちは、青春という流れの中を揺蕩う
第1話 因果と必然?
それは、本当の気まぐれだった。
二学期になって、席替えがあった。
ただそれだけの事。
――それがすべての。俺達の、いびつな関係が始まる切っ掛けだった。
さっきまでは、たまたまだが幼馴染みの
なぜだか、新学期になってウキウキの先生が、くじまで用意していた。くじ引きをして、適当に席がきまる。
元美が悲しそうな? 変な泣き真似をしながら離れていく。
「さあ皆さん。席も替わって心機一転。課題を提出してください」
なんだか本当にはりきっていると言うより、空元気? 先生は一学期と少し違う。
一学期はもっと、眉間に皺を寄せ。機嫌の悪い感じだった。
友達と、初めての三年生担任でストレスがすごそうだな。
そんなことを言っていた。
それは夏休み直後の三者面談時がひどかったからそう言うことなのだろうと思っていたが、俺の直感が囁く。もっとどろどろした、生身のことだと告げてくる。
その方が面白いと。
悪い魂を俺は飼っているようだ。
じっと観察する。
化粧で隠しているが、目の下に隈と腫れ。
よく見れば、白目が充血。
そして、飲み過ぎたのか、腫れた感じ。むくみか?
すると、目が合う。
先生も俺が見ていたことに気がついたのだろう。
じっとこちらを見つめ優しく言ってくる。
「河野くん。先生を見つめても駄目です。課題プリーズ」
「アイノー」
そう言って、立ち上がる。
「先生。確かに昨日。――僕は見ました。美しく、真っ白な課題の数々を。でも……」
そこまで言うと、先生の顔が変わる。
もうそれで良い。皆まで言うな。
面貸せや。――と。
「後で、職員室にいらっしゃい。ほかにも、河野くんのような、ふざけた事をぬかしたい子は居るのかな?」
「「「いませーん。河野は内申ゼロで良いと思います」」」
「「「さんせー。推薦取り消せー」」」
妙なシュプレヒコールが起きそうだ。
「黙れ諸君。私自身も驚嘆しているのだ。見よ、見失ったはずの課題が、此処に」
そう言って恭しく課題を持ち上げる。
「「「「あああっ」」」」
落胆の声が教室に流れる。
そう。なぜかというか、勉強って好きなんだよね。
共稼ぎの親に放置され、それしかすることなかったし。
帰ったときに、勉強をしていると褒められた。それが、幼少期の私にとって快楽の源だったのだよ。
うん。元美が近所に引っ越してきて、他人が居る空間。その甘美さを知るまではね。
「持っているなら早く出しなさい。どちらにしろ出頭」
ふざけすぎた様だ。口調が怒ってらっしゃる。
教壇に向かい歩みを進める。
課題を分類しながら提出。
その時に、囁いてみる。
「泣き腫らしたんですか?」
「えっ」
先生。
実は、かわいい系で人気がある。身長も百五十八センチくらいで、細身だが胸も無いことはない。
制服を着てれば、何とか生徒に ――見えるかもしれない。
「どどど」
すこし、深呼吸。
「どうして? 普通よ。いえ。んー相談室に、放課後出頭しなさい」
相談室は、生徒指導室とも言う。
ふざけすぎたか? いやこの反応。誰かに言いたかった?
表情を変えず、俺は回れ右。
かくかくと、ナンバ歩きという歩法。
足と手を同時に出して歩く。
途中、視界の端で、元美がバカと口パクし、頭を抱える。
俺の前席になった、女の子も冷ややかな目で、こちらを見上げる。
ついニコッと笑う。
すると、なぜか驚かれて、目をそらされる。
さて、十三時に日程が終わり、そのまま先生にドナドナされる。
教室に居たみんなに手を振る。
みんな、ニヤニヤとした顔で見送ってくれたよ。
「あーあ。バカなんだから」
元美がぼやくと、近くに居た津間が反応する。
「そう言えば、元鞘さんて、河野君と仲が良いんだ」
いきなり聞かれて、元美は驚く。
同じクラスでも、しゃべる人間はどうしたって偏ってしまう。
「ああ。流ちゃんのこと? 腐れ縁よ。幼馴染みなの」
そう答えると、彼女は意外そうな顔をする。
「幼馴染み? いいわね。私なんか男の子ってなんだか怖くて」
彼女の言い分もわかる。兄弟でも居なければ、そんな感じが判らないだろう。
いつまでも甘えんぼで、がさつとか。人のことを見ず自分のことばかり。
「津間さんて、流ちゃんに興味があるんだ。へぇ」
そう言いながら、心の奥で何かが重くのし掛かる。
この感じは、元彼
なぜか、たったそれだけの事が、なかなか言い出せず。
何とか言った後、流の無反応さにむかっとし、蹴りながら感じた胸の奥にあった何かの重さ。
蹴っていると流がスカートの中を覗くので、電気あんまをした頃にはおさまっていた。
あの後、しばらくは流の興味なさそうに言った「ふーん。そうなんだ」その言葉が、頭から離れなかった。
教室で、そんな話が行われている頃。
「河野君て以外と目ざといわね。ああそうか、元鞘さんと付き合っているからかな?」
「いや付き合ってはいないです。幼馴染みだし、あいつはさっさと彼氏作りました。屑だったので、さっさと別れさせましたが」
そう言ったときの彼の目は、まるで獲物を探す猛獣の目でした。
後に、幸代は語る。
第2話に続く。
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