さみしがり屋の瑠璃

第1話 壊れたパソコンと、彼女の秘密

 幼馴染みは瑠璃と言って、十七歳。

 俺は、二個上の十九歳。


 この春から、地元の工業系の大学へ通っている。


 その瑠璃が、半泣きでPCを抱えてきた。

 少し古いモデル。


「おにい。パソコンが壊れた。直して」

「おまえなあ、アポか先触れをよこせ。ノックもせずに人の部屋へ入ってくるな」

「アポは、アポイントメントだけど、先触れってなに?」

「昔の貴族などで、いついつに伺いますと伝える使者」

「そんなもの、どこに居るのよ」

 俺はスマホを指さす。


「あー。おにい、大学に行きだしてから、性格が悪くなった。そもそも、私が中学校になった頃から、遊んでくれなくなったし」

「そりゃあ、年頃の男女。色々とまずいだろ」

 俺がそう言うと、瑠璃は驚いた。

 かなり本気で。


「えっなんで? 昔は、ほとんど男の子扱いで、えっ。私の事を女として見てくれていたの?」

「当たり前だろ。そもそも。あっ、いや。それで症状は?」


 そうそもそも、こいつを遠ざけたのは、ある夏の日。汗をかいたと言って人の部屋でシャツを脱いだとき、まだブラもしていなかったが、下の肌シャツまで一緒に脱いでしまった。


 膨らみかけた胸。

 中学生の俺は、流石にドキリとして、下半身が反応をしてしまった。

 当然恥ずかしくなり、その日から、単なる幼馴染みとしては見ることができなくなった。


「あっ。あのね電源を入れても、起動ディスクがありませんて出るの」

 それだけでピンとくる。

 だが、内臓はSSD。半導体型の記憶装置ではなく、回転音からするとまだハードディスクのようだ。

 音を聞いても、異常がある時特有のスイッチョンという音や、カンカンと言う音でもないようだ。


 BIOSという、基礎システムを起動させる。

 最近は、UEFIと言うシステムが主流だが、このモデルはまだの様だ。

「古る。まあいい。ハードディスク自体は認識をしているという事は、不良セクタか何かで、ボリュームが飛んだかな? それともブート構成情報を…… だめだな。瑠璃、明日の夕方までには何とかするから、また明日だ。データの保証はできんがな。それと、仮で良いからユザーネームとパスワードを書いておけ」

 そう言って、メモ帳を渡す。


「明日かぁ、でもなるべくデータも欲しいな。思いでが、全部その中なんだよね」

「なんだ? 大事な写真なら、いくつかのメディアに複製しておくものだ」

「へーい。今度からそうする。んー」

 そう言って、おもむろにキスをされる。


「お礼」

 そう言って、真っ赤になって部屋を出て行く。


 瑠璃は、思いだしていた。

 もうすぐ中学生になるあの日。

 おにいの興味を引くために、勇気を出してした行動。

 女の子として、育ち始め。

 自身の気持ちが、女としておにいのことが、スキだと気がついた。

 それは、まだ幼く。稚拙なものだが初恋だった。


 だが、結果は拒否。

 落ち込み、自身の承認欲求と居場所を彼女は求めた。

「女として見てくれていたんだ。でも…… もっと早く言ってくれれば…… 遅いよぉ」


 その晩、分解したノートPC。

 内蔵されたいたものは、二・五インチのハードディスク。

 二五六ギガバイト。


 メモリーも四ギガバイト。

「しょぼ。有名メーカーの第五世代CPUか。メモリーも追加して? ああ? 最大で八ギガバイト? ネットブックかよ。不良セクターだとまずいから、一旦、クローンをイメージで取って、その間にリカバリを…… おお、ネット経由で出来るのか。ハードディスクタイプだと、リカバリデスクも作れないし、メディアを買う羽目になるところだった」

 そんなこんなで、リカバリーは適当にあった、五一二ギガバイトのSーATAタイプのSSDを組み込み開始する。


 サルベージを先に実行して、データを吸い出す。

 優秀なのはR-○tu○ioと言うソフトが気に入っている。

 OSの種類を気にせず復旧できるし、イメージを最初に作りそこからスキャンできるので、ハードディスクに対する負担も小さい。

 壊れたディスクは、なるべく通電をさせないのが肝だ。


 スキャンをすると、パーティションは飛んでいたが、ファイル構造は生きていて、ルートから復元が出来る。


「ラッキー、リトライは三回でいいや」

 そうして、復旧を掛けると不良セクターの情報が吐き出される。


「やっぱり三年以上だと、ハードディスクはやばいよな。ノートだと熱を持ちそうだし」

 経験上五〇度を超える状態で使うと、ハードディスクはガンガンに壊れる。


 だが、そのピクチャーフォルダの中。

 ずっと、並んだ日にちが書かれたフォルダが並ぶ。

 中学二年生の夏休みから始まった、記録。


 復旧状態を見るために開いて、愕然とする。


 一枚ずつでは面倒になり、画像ビューアを使い、フォルダ単位でサムネールを見る。


 最初は、見知らぬ若いサラリーマン風。

 そこから幾人か人が増え、最近では数人と続いている。

 中には動画もあり、そこには一人だけではなく。複数人とのものもあった。


「何をしてんだよ、瑠璃」

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