微 ホラー (怜子と努)

怜子の伝えたかったこと (夏向け微ホラー)

 俺は努(つとむ)。いま二十歳で、普段は大学近くのアパートで暮らしているが、お盆という事で実家に帰省している。

 彼女には、ぶつぶつ言われたが、今年は幼馴染みである、怜子の七年の法要もあり帰ってきた。


 この時期。

 お盆になると、思い出す。


 あの頃、川を区切り。ちょっとした、水遊びの場所が有った。

 時間を決めて、自治会の誰かが監視を行い、子ども達を遊ばせる。


 昔は、お盆の時期は開いていなかったが、その頃は保護者の世代が代わり、良いじゃないかと開いていたようだ。


 むろん、近所の子達や、帰省についてきた子ども達が参加していた。

 そこで、怜子は亡くなり催しはそれ以降無くなった。

 年寄り達は、口々にお盆に水場に近付くからじゃと噂をした。


 昔から、先祖の帰って来るお盆には、水場に近付いてはいけない。寂しい霊が引っ張りに来る。そんな謂れが在った。


 あれから丸六年。今年が七年の節目。

 八月の十五日。酒を付き合い、慣れない日本酒を飲まされて、座敷で寝ていた。


 寒気と耳鳴り、ふと目を覚ます。

「エアコンが効きすぎだな」

 ここは、山間部で谷がある為、昼間は暑くても夜にはぐっと温度が下がる。


 トイレに行き、戻ってきて布団の上に座り込む。


 すると、ふと風を感じ庭の方をみる。

 こんな時間に女の子?

 あ~いや。見覚えがある。


 いつも、後ろを付回り事あるごとに、文句を言っていた怜子。

 『サボってばかり』『いつも努は、逃げてばかり』『女の子に興味は無いの。子どもね』『男子はいつも。ずるい』


 あれ? どんなシチュエーションで言われたんだ?

 覚えが無いのに言葉が浮かぶ。


 ああ、そうか。

 生理が来て、お母さんになれるようになったと喜んでいた怜子。

 それを揶揄って、叱られ。

 でも次の日、『女の子に興味は無いの。子どもね』とあきれられた。

 あの頃は、女の子の方がませているからな。

 でも、興味本位にキスをして、そうだ。

 真っ赤になった怜子に『男子はいつも。ずるい』いや、『努は』だったか?


 そんなことを、考えていると、部屋の電気はいつの間にか消え、物音一つしない部屋の中。耳鳴りの甲高い音が頭の中で響く。

 そして寒気。

 ふと、頭に手を当てながら目線を上げる。


 さっき見ていた、怜子が目の前に立っていた。

 中学生だった、あの時のまま。


「ごめんね。約束を守れなくって」

「約束?」

 生前ままの反応。プクッと頬を膨らませ怒り始める。

「努は努ね、忘れちゃったの? ひどい」

 そう言って、彼女の頬を涙が伝う。


「大事な約束。努のお嫁さんになるって。努も良いよって言ったよね」

 言われて、必死で思い出す。

 あっ。亡くなる二、三日前。


「確かに。お返しのキスの時に。私ずっと好きだったと。そう言って」

 どうして、忘れていたのだろう。


「そうよ。ひどいわね。悩んでいた私が馬鹿みたいじゃない」

 そう言って彼女は、俺に向かって倒れ込んでくる。


 あわてて、抱きしめる。

 無論実態は無く、体が重なる。

 その瞬間に、彼女の最後の記憶が流れ込んでくる。

 俺への、申し訳なさと、あの日泳ぎに行った後悔。


 そして、見えてくる。

 数日前の大雨の日に、用水路にはまって死んだ、近所のおっさん。


「怜子ちゃん。ちょっとこっちにおいで、良い物を見せてやろう」

 そんなことを、おっさんに言われて怜子はついていく。

 人気の無い岩陰で、おっさんはズボンを脱ぐ。

 怜子の驚きの感情。


 嫌がるのに、水着を脱がされそうになり、口を押さえていた手に噛みつき、助けを呼ぼうとする。

 だが、殴られて、そのまま顔が水につけられる。

 冷たい水と苦しみ。

 それが、伝わる。


 俺は気がつくと泣いていた。

 そうか、あの日こんな事が。

 思わず、腕に力が入る。


「今年で最後だから、頑張った。今年で終わり、向こうに行くの」

「どこへ?」

「よく分からないけれど、いかなきゃ行けないところ。でもね、きっとまた会えるよ。ごめんね。それまで待っていて」

 そう言って怜子は、一度体を俺から離し、再びキスをするように俺に溶け込んでいった。今度は苦しみでは無く。暖かい光? を俺の中に残し。


 消えてしまったようだが、さっきの顔。

 あれは、今付き合っている彼女。

「美優?」

 そうか彼女は、怜子に似ていたから?


 その時、言い残したのか、頭の中で『幸せになって……』 そんな声が聞こえた気がした。


 朝になり、ふと思い立ち。墓参の花を持って墓へ向かう。

 随分と、御無沙汰? いや来たことがない。

 手を合わせながら思い出す。


 確かに、最初は辛くて、こられなかった。

 だが、存在を忘れて。いや、色々は覚えていた。

 ただ彼女との関わりと、大事な事を忘れていた。

 まるで、俺が辛くないように?


 忘れていて、ひどいとか言いながら、記憶を封じていたんじゃ無いか? そんな気がする。

「悪ガキ」

 そう言い残し、墓を後にする。

 振り向けば、墓の横からきっと、ピースサインをしながら、驚いた? などと言っている気がする。



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 お盆です。

 この時期の水場は、水温の問題とか何かで、危険だと前に読んだことがあります。伝承に残る危険の啓発ですかね。

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