第3話 知的探究は気持ちいい?
「万桜はしないの?」
「えっ。あんたたち、付き合っているんじゃないの?」
「一応、好きって言うことで、付き合い始めたけれど、何も変わらないし。万桜もゆーくんの事好きでしょ。じゃあ良いじゃん。ゆーくんきっと万桜の事好きだし」
「私のこと、好き?」
彼に聞いたわけではないが、オウム返しに言った言葉をきき。返事をくれた。
「あーまあ。好きだな。まだ、おまえのことも莉尽の事も愛しているとかって言う感覚は分からない。ただ好き。他の奴に渡ると嫌くらい?」
他の奴に言われれば、きっと私は怒っただろう。でも、ゆーちゃんの言葉だからか、ストンと私の心に収まった。
「そうして、私は、とんでもない。忘れられないシチュエーションで、告白のしあいをした」
無論、参戦。一日遅れただけ。彼女は幾人でも行けるかもだけど、結婚は一人。
参戦した私に、ゆーちゃんは優しく。
莉尽のフォローで、へろへろになった。
痛みはあったけど、それを上回る幸せ。そして、私の中で何かが変わった。
みんなで、ドーナッツを食べ。御茶を飲み。
あそこで、そこを刺激してくれれば、もっと気持ちいいかも。などという勉強会をした。
好奇心旺盛な私たちは、一気に事態が進んだ原因。莉尽のお母さんの話を聞き、踏み入れたばかりの、性的倒錯を加速させていく。
先ずは情報の整理から。
お母さんの状況は、SMと呼ばれるもの。嗜虐性行為の一つで精神的又は、肉体的な苦痛を受ける。もしくは与えることに、快楽を感じる。
「ふむふむ。ネットにも色々あるけれど、あまり痛そうな。やばそうなものはいやね」
「そうね。でも、気持ちよさそうだったのも確か。こういうのって、するたびにレベルアップするのかな?」
「あー。ありそうだな。でも、あまり苦しがっているのは、こっちも辛いぞ」
そんな事があって、しばらく。
万桜とゆーくんは、そっち方面に突き進んでいった。
でも私は、気持ちいいより怖い方が先に立つ。
気持ちが良いドキドキよりも、誰かに見られたらどうしよう?
恥ずかしい。ばれたらどうしよう?
そちらばかりが気になり、二人のようには、のめり込むことが出来ない。
それなのに、二人は勉強も出来て、軽く近くの国立大学へ進学。
私は、お母さんが良いと言ったけれども、私立大学の入学金と学費を見てやめてしまった。
一人だけ、地元の小さな会社へ、就職。
二十歳を過ぎ、一度だけSMの催しに出かけてみた。
こそこそと、会場に入り見る。
それは、エッチと言うより、芸術?
そんな感じがして、目が離せなかった。
でも、自分があれをする? それは想像が出来ない。
痛そう、怖そう。
縄の跡だって、あんなについて。
結局、一度だけ見に行き、きっぱりとやめた。
あの二人とも、高校卒業以来会っていない。
万桜は言っていた。
怖さと、ドキドキが良いの。
ゆーちゃんが絶対に側に居るから。一人なら泣くよ。
そう言っていた。
私はきっと普通なの。
そのせいで、あの世界にはついて行けなかった。
二十五歳の時、二人の名前が書かれた結婚の案内状が来た。
でも私は、二人の祝福も出来ず。足踏みをする。
高校生のあの時。確かにゆーくんと人生が繋がった。
でも、それは一瞬。
きっと私は、普通。普通で意気地なし。
これから出会う、普通の人と、普通の恋愛。そして、普通のエッチをして、普通に子どもを作る。
きっと。
私は、弱い。
案内状に、どちらにも丸が付けられず。ただ情けなくて悔しくて、ただベッドで泣き暮らす。
締め切り間際になって、やっと欠席に丸を付け、おめでとうの添え書きだけを何とか書いて、投函した。
そして、どこにも踏み出せない私は、今年三十歳になる。
まだ見ぬ。普通の人を求めながら。
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お読みくださりありがとうございます。
今回。なんじゃこれとお思いでしょうが、これまでをふと振り返り、馬鹿じゃないかとか、無謀とか言われ、気がつけば夜中に小説を書いている自分。
気になるものは、色々試した結果が自分なら、悪くないのじゃないかと思い。書いた次第です。一歩踏み出すのも自分なら、理由を付けて納得し足踏みするのも自分。どっちが正解かは、後の自分のみ? ですかね。
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