理不尽(湊大と湊)

第1話 小さな頃

 湊大(そうた)の居る学校に、小学校3年生くらいで湊(みなと)が転校してきた。

 引っ込み思案で、クラスに溶け込めず。

 いつも、ぽつんと座っていた。


 だが、二週間くらいで、たまたま僕と日直が当たり、初めて会話をした。


 湊の家は、お母さんが会社員で転勤族。

 お父さんは料理ができるので、適当にお母さんの転勤に付いてきて、転勤先で仕事についていたようだ。


 弟が、一人。1年生にいるらしい。

 弟は、海と書いてうみだそうだ。

 お父さんの趣味で、多分名前がついたとぼやいていた。

 まあ。みなとと、うみだからね。


 そして、いつの間にか、学校が終わると、家に来るようになった。

 湊の家より、僕の家の方が近いから。


 そして、日曜日にお母さんが、ご挨拶に来た。

「共稼ぎで、遅くまで家に帰られないから、友達の家に居させてくれると助かります。安心できますしね。もし、ご飯などを食べることがあれば、食費も出しますので」

 そんなことを言って、帰ったらしい。

 お母さんが、お父さんに、「家を保育園代わりにしている」と、ぶつぶつ言っていた。


 でも、湊のお父さんが、たまに魚とかをくれて、機嫌が徐々に良くなった。

 お父さん。顔は怖いけれど、凄く優しそうな人だった。

 僕の頭をなで、湊は俺に似て、勉強が得意じゃないから、教えてやってくれって頼まれた。


 そして、そんな湊だが、小学校5年生くらいから、「早く大人になりたい」が、口癖になっていった。

「どうして、大人になりたいの?」

 そう聞くと。

「家から出て、一人で暮らせるから。お母さん嫌い」

 そんな、答えが返ってきた。


 そして、ある日。

 帰ると、こそっと湊が嬉しそうに言ってきた。

「男の子より、女の子の方が、早く大人になれるんだって。今日授業で習った」

 そう言って、喜んでいた。


 勉強の嫌いな湊にしては、凄く内容を覚えていて、早い子はもう始まるけれど、生理が来ると大人なんだって。子供だってできるんだよと、ししし笑いをして喜んでいた。何か大昔の犬の笑い方で、気に入ったらしい。


 僕は、学校から帰って、海と湊の勉強を見ていると、不思議だがなぜか成績が良くなった。


 ある日の夏。湊のお父さんが、休みでキャンプに連れて行ってくれた。

 一日目が山で、二日目が海。


「どうだ、海の方が美味しいものが多いだろう」

 そう言って自慢していた。計画では、海は危ないから山のキャンプ場でと言われていたようだが、お父さんが我慢できなかったようだ。


 でも1日目の山も、水はものすごく冷たかったけど、岩魚の焼いたのとかも美味しかったし、ぼーっと火を見るのも楽しかった。


 普段はそんなことを、思わないけれど。暗い中で、赤い火で照らされる湊が、かわいく見えて、ドキッとしちゃった。テントで泊まったのも初めてだったし。

 湊と海が、仲良く暗いのが怖いと言い出して、幾度もトイレについて行った。

 空は山があり狭いが、星が凄く綺麗だった。


 そして湊は、くみ取りトイレが怖いと言って、ずっと手を離してくれなかったのも秘密となった。下からお化けが出てこないように、見ていてって言われて、ずっと見ていた。なんだかドキドキした。


 2日目はバンガローだったから、平気だったようだ。

 お父さんが、料理をするため奮発したと言っていた。


 食べたことのない、磯焼きやお刺身。ついでにお肉を焼いて食べた。

 なぜか野菜が僕に回ってきたけれど、お父さんに拳骨をもらって、各自の皿に戻っていった。


 そしてこの時、反対側の港で、車の爆音とスキール音を初めて聞いた。


 湊のお父さんが、「ガキどもが、はしゃいでやがる」と言っていた。

 でも、湊のお父さんは、元そっち側の関係者らしく。昔は山でとか色々言っていたが、僕には分からなかった。

「山は死んじまった」

 ビールを飲みながら、ふと寂しそうにつぶやいたのが、道路に敷設された、一般的にキャッツアイと呼ばれる道路鋲(どうろびょう)のせいだとも知らなかった。


 すぐに爆音は、パトカーのサイレンと拡声器を通した怒鳴り声に変わった。

「祭りが終わったな」

 そう、お父さんがつぶやく。


 湊が、「お祭り?」と喜んだが。

「おまえが考えたような、縁日が出るような楽しいものじゃない。あんな音がしても危ないだけだから。近付くな」

 そう言っていた。

 

 そう。その頃僕たちは、何も知らなかった。

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