第5話 そして……

 そして、無性に体中が気持ち悪く感じて、シャワーを浴び、赤くなるまで体を洗った。


 翌日。帰りのバスで。

 あの部屋では、他にも幾人かが行為をしていたらしい。

 そいつらは今、いちゃついている。

 最悪。今回思いを遂げ、繋がった奴らは良いわよ。

 それはそれは楽しいでしょう。

 よく知っているわよ。

 とても。


 そして、あれは仕組まれた物だった。おっさん臭い生徒の一人が、ジュースと共にチューハイを何本か買っていたようだ。

 お酒の勢いで、告白したり。

 飲ませて潰したり。

 私は、後者ではめられた。


 どうしようと考えながらも、家に荷物を放り込み。

 すぐに隼人の家に向かった。

 ぎゅっとしてほしい。慰め、叱ってほしい。

 許してもらえるよう、何でもする。


 でも。

 ……でも。

 きっと、隼人は許してくれる。

 そして私と共に、苦しんでくれる。

 そう、私のミス。

 勘違いで、受け入れた。

 他人を間違え。喜んでしまった。


 隼人の家へと向かう足は、速度が遅くなり、止まってしまった。

 先に、お母さんに伝えよう。そうだ、それが良い。

 そう思い。うちへと帰る。


『帰ってきたよ。でも、疲れたから今日は行けない』

『おつかれ。そんなに過酷だったのか。ゆっくり休めよ。お休み』

 アプリで何とか連絡。

 結局お母さんにも、言えなかった。


 そして、お土産を渡すため、翌日。隼人の家へ行った。

「お疲れ。もう大丈夫か?」

「うん。かなり良いタイムが出た」

 私は笑顔が、できているだろうか?

 触れられそうになるだけで、体がこわばる。


「それは、良かった。あの柔軟が効いたのか?」

「そうかも。お土産。それで、明日から部活が再開だから。帰るね」

「そうか、珍しいな。うん? 何か香水を付けてる。珍しいな」

「制汗剤だよ」

「そうか。気を付けろよ」


 あの男の匂いがしそうで、消臭剤を荷物全部に振りまいた。

 それが匂ったんだ。

 そういえば、隼人は匂いを嗅ぐ癖があった。

 くすぐったくて、恥ずかしいからやめてと言っても。


 そして、その数日後。

 スポーツクラス。特待生のため、退部はできない。

 辛いが、部活に顔を出す。

 ニヤニヤする、上級生達。


 そして、辛くて。

 私はあろうことか、助けを、同級生の男の子に求めてしまった。

 あのパーティに混ざらず。そして、事情を知っている。

 優しく、つい頼ってしまった。


 付き添ってもらい、先生に報告。

 先生から、お母さんへも連絡が行き。

 関係者は、部活停止と停学。

 そうはいっても、世間は夏休み。

 ほとんど影響は、ないだろう。


 初めてだろう。私は、一週間も隼人に会っていない。

 そう思いながらも、同級生の男の子は、仕返しとかが怖いからと、送り迎えをしてくれる。そして、それに甘える。その日、家の前。不意を突くようなキスと、告白。

 ああ私は弱い。寂しいと思う心が、思わず彼を抱きしめてしまう。



 少し戻り、遠征の二日後。部活再開日。

 隼人は事情は分からないが、雫の様子を見て気がつく。何か困ったことがあるのかと。部活の道中と、部活の時。

 実は、離れてずっと見ていた。


 ある日。部活の参加者が減って、すぐに、クラスメートの男の子が送り迎えを始めた。

 やはり、何かがあったと理解する。


 そして翌日。お母さんが来て、事の顛末は聞いた。

「その卑怯な奴らが停学になって、部活の人数が減ったのですね」

「そう。もしかして、見に行ったの?」

「遠征から帰って。ずっと変だったから。でも、雫は問いただしても。きっと言わないだろうし。いじめ、とかならと思って。けれど。そうですか。ぼくは、今聞いて。……全然気にしないとは、言い切れないけれど。でも二人でなら、何とでもなると思います。だけど。……そう。僕って頼りにならないし、信じられませんか。ねえ」

「まだ、雫も若いし。自分のミスだと思っているところもあって。少し様子を見てあげて」

「はい」

 そんなことがあった。



 そして、夕暮れの赤い光の中。そうか、その男の子と歩むのか。そう理解をする。


 雫はそれからも、顔を見せることがなく。離れていった。

 お母さんが言うには、何よりも僕に知られることを恐れていると。

 精神的な、バランスを取るための行動じゃないかと。

 ケアのため、病院に通っているらしい。


 僕たちが一緒に歩む道は、きっと、そこで終わったのだろう。



 10年後。

「はい明日から、遠征に向かいます。競技場や、宿泊所では本校の生徒らしく節度を持って行動をしてください。その時の、ちょっとした軽はずみな行動で、自身も相手も予想以上に大きな物を失うことがあります。本当に大きな。ですから……責任を……持った行動をしてください。……以上です」


「先生。毎回、注意の時に、泣くのはどうしてですか?」

「自分の判断で。昔。とても大きな、大事な物をなくしたからです」


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 何とかまあ。

 トラウマ。つまり心的外傷『心の傷』は、色々な症状があって、本人にもどうしようもないようです。

 主人公は、武道によって鍛えた精神と、雫に対する愛ですかね。

 見守るように決めたようです。


 次回は、ちょっと。夏に向けての啓発ですかね。

 後味悪くなりそうなので、ちょっと駄目そうなヒロインにしようか思案中です。

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