第4話 不注意と罠

 結局雫は、夏休みに勉強せず、秋に行われたスポーツ推薦の試験を受けに行った。


 僕は、剣道ではどうしようもなかったので、勉強をし公立の進学校へ進んだ。

 ところが、この学校には剣道部が無く。帰宅部となった。


 そして、春。

 雫から聞かされた衝撃の言葉。

 あのカメラ小僧。

 中学の時の盗撮野郎が3年にいて、専門も中長距離だという事実。

「最悪」

 一言、そんな言葉を僕につぶやく。


 無論、その後。

「ねえ。マッサージ。疲れているけど。して」

 そう言って、甘えてくる。

 僕は鼻の下を伸ばしながら、雫に聞く。

「やれやれ、勉強は良いのか?」

 そう聞くと。

「今はねえ。国語は、自分の名前を漢字で書けたら、先生が褒めてくれるし。算数は足し算引き算で良いの。凄いでしょ」

 そう聞かされる。


 それを聞いて、僕は本気で引きつる。

 そんなまさか。私立のスポーツ推薦て、そんなので良いのか? そう思ったが、口にした答えは。


「うん。凄いね」

 確かに、今は中学校の復習レベルだが、さすがに足し算はと思った。

 だが雫がごそごそと出してきて、実際出された問題を見る。

 僕は引きつった。

 うん。確かに。

 国語には、自分の名前を、漢字で書こうと書いてある。


 完全にカルチャーショック。未知の世界だ。


 スポーツ推薦恐るべし。


 これには、後日談がある。

 一般の、入学者。

 同じ問題でもっと、成績が悪いらしい。

 スポーツクラスの方が点が良い。僕は、本気で驚いた。


 地元では、最終受け皿と呼ばれる私立高校恐るべし。

 偏差値。一体どのくらいなのだろうか?


 その後、雫は遠征漬けとなった。

 今週は、九州。今週は大阪。


 自身が出ない競技も、見学と応援。

 雫の両親は、完全に泣きが入っていた。

 そして、なぜか言われる。

 隼人くん。雫を支えてあげて。

 うちの両親も半笑い。


 そして高校の部活になると、両親もぼつぼつ帰ってくる。

 7時8時に、疲れた顔をして、雫はやってくる。

 なぜか当然のように、家で風呂に入り。

 晩ご飯を食べる。


 そこから、マッサージやちょっと勉強。

 さすがに少し進み。

 分数や小数点の計算が始まったようだ。

 その辺りからで、すでに雫は危なくなってくる。


 そして言い始める、切り札。

「隼人のお嫁さんになるから良いの。四則演算ができれば、生活はできる」

 そう言って胸を張り、僕の行動を促す。

 いや乗るけどね。きっと僕の親も、雫ちゃん素直だし性格が良いからと、変な納得をしている。


 日ごと繰り返されている、僕らのことも薄々は気がついていると思う。


 両家の親で、妙な話し合いはされていた。

 無論それを知ったのは、大分後だが。


 心配していた、例の先輩は今のところおとなしい。

 秋には、推薦の話があり、それに向けて、必死らしい。


 夏の総体や、その他。

 予選落ちは免れ本戦に出て、一回戦負けだが、コンマ数秒らしく。まだ落ち込みはひどくない。

 でも、体は硬く。

 柔軟を繰り返す。


「何でだろ?」

「変な力が入っているからだよ」

「うーん。照れるのが悪いのかな?」

「僕の前で照れる?」

「うっ。うん。最近ね恥ずかしくて」

「何だそりゃ? 今更?」

「うん。だって。隼人かっこよくなったし」

「多少身長も伸びたけど。基本は何も変わらないよ?」


「うん。そうだけど」

 そう言って赤くなり、そっぽを向く。



 その頃、雫の中では、隼人が好きという心が大きくなっていた。

 周辺にいる、男らしい男達。

 でもそれと比べても、ひ弱だが、隼人は何か違う。

 心の成長だと言えばそれまでだが、前と違い。好きが変わった。

 自分を認め包んでくれる。

 そう。そんな存在。


 周りは、異性と言うことで、どうしたって好気心と嫌らしい視線が混ざる。

 周りの同級生の会話も、そっち方面。

 そんなレベルは、隼人と二人。もう超してしまった。

 おかしな話だが、もう熟年の夫婦?

 そんなことを思い。笑いが出る。


 そうか、もう、あたり前に横にいる。

 当然、その考えは相互の思い。

 雫はそう思い。納得する。


 そして、おバカなことを始める。

「エッチしながら柔軟。きっと効率的」

 雫のおバカな提案に乗ってみる。

 だが意外といけた。


「ほおら。見せてごらん」

 そんなことを言いながら、柔軟をすれば。かなりのところまで広がるようになった。

「あらま。何だこれ?」

「よく分からないけど。痛くない。もっとする」


 まあそんなこんなで、二年生。


 伸び悩んだ記録は、ここに来て一気に伸びたようだ。

 変態的柔軟が功を奏し、効き目があったみたい。

 400mで、55秒台。昭和の時代なら優勝だ。


 本人は悔しがっていたが、悪くない。

 周りも褒めていた。


 そして、ある日の遠征中。

 思った以上の成績が出た。

 

 そして気にしていたいやな先輩も、卒業をした。

 浮かれていた。


 誰かが、明日は帰るから打ち上げだという。

 お菓子やジュースが持ち込まれ。

 はっちゃけていた。


 そして。

 うん。そうそこ。

 いつも隼人に言えなかったが、もどかしく思っていたところ。

 そこを優しく刺激してくれる。

 ふふ。分かったくれた。

 雫は、キスをしてふと気がつく。


 これは誰?

 隼人じゃない。

 匂いが違う。

 もう頭の中はパニック。

 でも、すでに受け入れている。

 そっと目を開けると、暗い部屋だが顔の輪郭もちがう。

「いっ…… ふぐっ」

「しっ。声を出さないで、皆が起きちゃう」

 口を塞がれ注意される。雫は、頷く。


 相手は、一つ上の先輩。

 優しく人気があるいい人。

 隼人がいなければ、気になっていたかもしれない。

 でもこれは違う、いや。

 いやなのに。もう十分に受け入れ、正気になったが相手は。

「うっ。はあぁ」

 あああっ。中で感じる脈動。


 雫は、男をつきとばし、トイレに走る。

 ビデ洗浄をしながら、自身の指で泣きながら掻き出す。

「ごめん。ごめんなさい」

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