第3話 幼馴染みから恋人へ

 そうして、夏前の大会。

 雫は、やはり予選落ちだったらしい。

 だがその後。一言。

「やめる気は起こらないから、中長距離に変えるのも考えているの」

 そう言って、さみしそうな顔をしていた。


 そして、僕の方も大会。

 3年になって、人生で初めての大会出場。

 剣道の団体は、5人。

 先方から大将まで、総当たりだったり、勝ち抜きだったり。

 今回は、先鋒→次鋒→中堅→副将→大将で順に戦う。


 チームが分かる様に、胴を結んでいる胴紐。背中側のクロス部分に赤か白のリボンを結ぶ。これは審判が判定するため。


 お互いに甲手の上に面をのせ、面タオルをその上にかぶせ、正座をして、順番が来るのを待つ。

 俺は、3年だが先鋒なので、すでに面まで装着済み。

 呼ばれて、竹刀を持って会場へ。

「おい。甲手。隼人」


 その声で、甲手をはめていないことに気がつく。

 うんそれが切っ掛けで、試合前に試合が終わった。


 舞い上がった俺は、いい加減無い実力を、平常心と共にさらに失い。

 秒殺された。

 礼をして、蹲踞(そんきょ)をして、立ち上がり。竹刀を構え。

「始め」

「うらあぁ」

 無謀にも、打ち込んでいく。

「めーん」

 相手に返される。

「はい。面あり一本」

 そんな感じ。


 大体うちは、部員が少ないから俺も出たが、周りは子供の頃からやっていた猛者ばかり。

 俺は1年にも、余裕で負ける。

 先の先というか、人が動き始めたときには、すでに、防御なり攻撃なり対応される。

 子供の時からやっていると、そういう反応が異様に早い。


 それに、俺以外は、会場に知り合いが多い。

 道場同士の付き合いや、子供の頃から、色々な大会があるらしく。そこで見知っていくようだ。


 着替えて、個人戦を見ていると、目隠しをされる。

「だーれだ」

「そんなことをするのは、おれには、雫しかいねーよ」

「ぼっちなんだ」

「そうだよ」


「せっかく来たのに。もう終わったの?」

「ああ。俺が足を引っ張り、惨敗」

「なんだ。一緒だね」

「ああ。中学デビュー組には、厳しい世界だ」


「大会も終わったし。さてと次は、勉強か」

「はっ? 何それ?」

 雫がこっちを向き、焦り始める。

 こいつは理由を付けては、サボっていたからな。


「高校。行かないつもりか? 俺は行くぞ」

「行く。中長距離をする」

「この前、短距離と筋肉の質が違うから、どうとか言っていなかったか?」

「うん。今は堅いけど、長距離走では軟らかくて、伸び縮みしやすい筋肉を、作らないと駄目なんだって。お風呂から出たら、柔軟をするから。ねっ」

「何だそりゃ」



 本気で、その晩から柔軟をさせられた。

「はい。最初はハムストリングスから。足上げ運動は良いとして、前屈と開脚の前屈は背中を押してね」


「ほい」

「痛。痛。痛」

「おまえ、堅すぎだろ。俺の方が柔らかいぞ」

 そう言って、開脚を行う。


「うわすご。なんで?関節の可動量。女の子の方が広いはずなのに。もういい。急には良くならない。次。えーと、腸腰筋。片足の膝を胸につくように抱えますだって。もう片方の足は、膝を伸ばす」

「ああ。こうだな」

 雫の右足に座り。左足を膝で折って、胸の方にまで持ち上げる。

「よっ。これも堅いぞ。ちょっと右足曲げるな。そこで蹴られると俺がきっと死ぬ」

「えっ」

 雫が、顔を持ち上げ、状態に気がついたようだ。


「あっ。そうか。ふふーん」

 そう言ってわざと、膝を曲げ左右に振る。

「あっこら。なにするんだよ」

「あっ手応えじゃ無い。足ごたえが変わってきた」

「足ごたえってなんだよ」

「ええーっ。しらを切っても駄目だよ。隼人くん。ふにゃふにゃがぷらぷらに変わった」


「くすぐられたいのかな。人が善意でストレッチをやってあげているのに」

「いや大丈夫です。くすぐりはもう。間に合っています」

 そう言って、涙目で手を振る。


「じゃあ。足を替えるぞ」

 足を押しながら考える、いい加減健全な男子刺激されれば、元気にもなる。

 風呂上がりで、薄着な雫。この角度で見るだけでも、かなり邪神を払わないとまずいのに。Tシャツにキュロットスカートだが、隙間は多い。

 実際片足を、持ち上げれば。もろに見える物は見える。

 それにさっきから、雫の匂いが変わって来た。


「ふっ。ねえ。ちょっと。次に行く」

 やっぱり。食い込んだから、痛くなったな。

 でもさすがに俺が、雫のパンツの食い込みなど直せない。


 やばいやばいやばい。

 この体勢で、食い込んで。

 敏感なところが刺激され。恥ずかしくて。隼人の顔が見られない。

 隼人のもさっき刺激して、大きくしたし。

 誘ったら、乗ってくれるかな。

 私の事、どう思っているんだろう。

 怖くて聞けなくて。ずっときたけれど。

 きっと私の事好きだよね。そう思っているのは私だけ?


「つっ。つぎは、大腿四頭筋と外側広筋(がいそくこうきん)。うつ伏せになって、片方の脚を膝から手前に曲げてきて、お尻に近づけるように。手で持ちストレッチをしていきましょう。だから、腹ばいになるね」

「えーと。膝から曲げてと」

 マニュアルを見ながら、最初はかかとを、お尻の方まで曲げる。

「20秒くらいで、3セットだね」

 んぎんぎと、雫が一生懸命我慢する感じで、うめいている。なぜか耳と顔が真っ赤だ。キツいのかな?


「どうしたキツいか?」

「んふっ。大丈夫だけど。これって」

「うん次は、体を横にして」

「あっ」

 これだめ。さっき元気にした隼人のあれ、まだ元気なんだ。さっきから当たって。


「ねえ隼人」

「うん?」

「まだ、そこ元気なんだね」

「そりゃそうだよ。かなり刺激的で、いい加減理性が飛びそうだ」

 やっぱり。ならだいじょぶ?

「そう。ねえ。私の事好き?」

「今更。聞くか?」

 今更? やた。

「良いじゃない。口に出してよ」

「好きだよ」

 ヘタレな僕は、顔を見られず。目も合わせなかったが、告白をした。


「ちゅ。うふ。ありがと。私も」

 その日、恋人同士になった。

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