第2話 第二次成長期と雫の苦悩

「むぎゅ」

「ちょっと。お尻に顔を突っ込まないでよ。んっあっ。こら」

「わりい」

 そう言いながら、休憩。

 疲れると、足が上がらず。草の株などでひっかっかる。


「ほれ。水分取っておけ」

 スポーツ飲料を渡す。ペットボトルじゃなく水筒。


「あー美味しい。しっかし。昔は隼人。足遅かったのに」

「成長したんだろ。男子と女子の記録を見れば分かる。中学生、特に2年生で差がつくだろう」

「むー。悔しいなあ。余分な出っ張りもできるし。男子は良いわね」

 しみじみと、なぜか水筒を眺めながら語ってくる。


「男子も余分な出っ張りはある。たまに、変な力がかかると無茶痛いし」

「そうなの? 女子も靭帯。クーパーだったけ。運動するときには、気を付けないと伸びたり、切れると大変なんだって。胸を支えるところだから、いきなりたれるって」

「そうなんだ。第二次成長期か、ひげも生えてくるし、面倒」

「ひげ? 生えてないじゃん」

「一応、ちょろっと生えているの」

「そう?」

 そう言いながら、人の顎周りを見てくる。

 より目になっているが、何か言ったら、反撃を食らいそうなので言わない。


「よし、もう少しやろう」

 都合10本ほどやって、薄暗くなり。

 いつものようにうちへ帰る。


「先にシャワー使う」

「じゃあ、悪いけれど、洗ってお湯を溜めといて」

「えー」

「そのくらい手伝え」

 そんなことを言っていたのに。


「あーさっぱり。結局浸かっちゃった。汗が凄い」

「えらく時間がかかると思ったら。俺も汗をかいて気持ち悪いのに」

 ぶつぶつ言いながら、風呂へ行く。



「あつ。アイス食うか?」

 そう言いながら、もう一本持ってきている。

「んー食べる」


「おまえ、人の毛抜きで何をしているんだ?」

「えっ。脇のお手入れ。最近ちょびちょび生えてさ。マメに抜かないと恥ずかしいのよ。手を抜いて、剃るとカミソリに負けるし」

 そう言っているのを、見てると、こっちに気がついたようだ。

「見るな。なんか恥ずかしい」

「アイスは?」


「あっ。先食べる。脇を見ていると、目が痛くなるのよね」

 そう言ってぐにぐにと、目をマッサージしている。

「そりゃ、そうだろう」


「さっき見てたじゃん。気になるなら抜いて。隼人の怪しい性癖解消と私の得にもなる」

「そんな性癖はない」

「えっ隼人。しょっちゅう色々な物の匂いを、嗅いでいるじゃん。匂いフェチじゃないの?」

「それは違う。剣道をやっているとさ、色々な物が臭くなるんだよ。そのチェック。別に好きで匂っているわけじゃない」

「そうなんだ。そんなに臭くなるの?」

「ああ共用の防具とか凄かったぞ、匂いが目にしみる」

「げー何それ? 目に来るってどんなに臭いの? そういえば、隼人ってあまり匂いがしないね。人によって意外と匂うのに」

 そう言って、ふんふんと匂いを嗅いでくる。


「ずっと一緒にいるから、慣れているとか?」

「そうかな。私の脇におう?」

「うーん? 別に」

「そう良かった。じゃ抜いてね」

「何でそうなるんだよ」

「いいじゃん。目が疲れるんだって」


 結局やらされた。

 ただ、やっていると、ふと。いつもと違う匂いが、雫から匂ってきた。

 心持ち、顔も赤いし。

「うーん。こんなものかな」

「ありがと、人にやってもらうと楽。これからもお願いしよ」


「えー」

「美少女の脇だよ。ご褒美でしょ」

「何だよそれ。自分で美少女って言うか?」

「うん。断言。私は美しい。何度も告白されたし」

「へーそうなんだ。聞いてないな」

「あっ。うん断ったから。大丈夫」

「何が大丈夫なんだ」

「だって」

 そのまま黙ってしまった。


 微妙な空気だが。さあ宿題をしよう。



 そのまま、中学3年生。

 相変わらず、雫の記録は伸び悩む。

 夏前の大会に向けて、必死で追い込んでいく姿が。グランドに見えている。

 幾度も、あまり無理をすると、故障をするぞと言ってあるが、聞きゃあしない。

 最近、帰りは疲れて動けないと言うから、おんぶして帰っている。


「疲れて動けないんだろ。家まで連れて行ってやるよ」

 雫にそう言っているのは、卒業生。一週間程度だけ誰かが言って、練習を見てもらっているらしいが、セクハラがひどいとぼやいていた。

「大丈夫です。着替えますから、出て行ってください」

「手伝ってやるよ」

「やっ」


「先輩さん。やめてもらえませんか。いやがっているでしょう」

「何だ、部外者は黙っとけ」

「部外ですが、身内なので、ほっとけませんね。彼女は家族なんで」

「ちっ」


「大丈夫か?」

「うん。ありがとう」

「着替えるんだろ?」

「うーんあいつが来てから、どうも部室が怪しいのよね。盗撮でもされていたらいやだし」

「それならそれで、探さないと駄目じゃないか?」


「そう。そうだよね」

 そして、計3つのカメラを見つけた。

 まだ顧問がいたので、先生にカメラを渡す。


 中に入っていたマイクロSDには、画質は悪いが着替えが録画されており、一番最初のファイルにはセットする様子が写っていた。


「彼を、通報してください」

 そう言ったが。

「うーんでもなあ」

 陸上顧問の先生は、はっきりとは答えなかったが、翌日から奴は来なかった。

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