第2話 介護は大変

「ちょっと立って」

「んあ。足がたたにゃい」

 そう言いながら、酒をあおる。


「ちょ駄目。何をしているの?」

 あっ。ボトルを取られた。なんて奴だ。

 ああ。佳代だったな。


 結局佳代は、俺を持ち上げられず。俺は這ってトイレから出てくる。

 廊下に寝転がると、冷たくて気持ちが良い。

「ああ。気持ちいい」


「んー匂う。お風呂。あー酔っているからまずいか。でも、服も汚して。んー脱いで。大地君その着ている物。洗濯をするから。どうして私がこんな事」

 言われるまま、ぽいぽいと服を脱ぎ寝っ転がる。


「わーほんとに良いからだ。じゃなくて。お風呂に行って。手のかかる。家のお父さんでも。ここまではなったことがないわよ」

 俺を持ち上げようとするが、無理だろう。体脂肪はそこそこだが、筋肉は重いからな。今ウエイトは80kgオーバーだ。


 何とか浴室へ、入り込む。

 あー水が気持ちいい。

 頭から、かぶっていると酔いが覚め。また思い出す。


「あーちくしょう」

 つい、正拳を打ち出すと、目測を誤り。タイルを割ってしまう。

 奥は、コンクリートブロックだったのか?

 つい興味が出て、ほじほじとのぞき込む。


「どうしたの? 何の音」

「あーなんだか、壊れた」

「ちょっと、手から血が出てるじゃない」

「うん?そうか。軟弱な手だ。笑ってくれ」


 そう言って、ヘラヘラと笑う彼。

 一体何があったのよ? 冷たい水。

「何をしているの。あなたは」

 もう。こんなに間近で、異性の裸を見たのも初めてなのに。

 ドキドキしている暇もない。


 ほっといても駄目そうなので、腕まくりをしてお湯の温度を見る。

 早く洗って、手の怪我の治療。


 シャンプーを手に取り洗い出すけれど、力が入ってなくて、グニャグニャ。

「もう」

 両手を使い、洗っていく。


 流して、もうリンスは良い。パス。


 体は、ナイロンタオルが掛かっているからこれね。

 ボディシャンプーをとり、泡立てる。


 まずは、まあ背中ね。

 ごしごしと、洗う。

「いていていて。もう少しそっとして」

「何を贅沢を言っているのかな。こいつは」

 ちょっと控えめに、洗っていく。


「はい。腕を上げて。今度は反対」

 まるで、介護をしている気分。

「さて問題は、立てる?」

「うーんまあ」

 そう言って立ち上がるが、ふらつき、バスタブに両手をつく形になった。


「よしそのまま。足をちょっと開く」

 ガシガシと洗っていく。

 けど、なんて敏感な。

 ええい。洗う。


 足まで洗い終わると、私までびしょ濡れ。

「はい。良いわよ」

 そう言うと、また座り込む。

 バスタブにもたれかかったまま、眠り始める。

 気持ちが良かったのかしら?


 じゃない。

「寝ちゃ駄目」

 揺すってみるけれど、全然起きない。

「あーもう」


 ふと見ると、自身も水浸し。

「まずい。ポケットに入っていた、スマホや何かを取り出し。洗面台にひとまず置く」

 うーん。ジーンズもシャツも。それどころか下着までびしょ濡れ。

「悪いけど」

 寝ている彼に断り、タンスを物色する。


 なぜか、色々なものが引っ張り出されている。

「暴れたのね」

 着られそうな、短パンとTシャツを借りる。

 あー玄関鍵。開きっぱなし。


 私が来たときも、開いていた。

 あわてて、鍵を閉めに玄関へ行く。


 今私は、濡れた服を脱いだので、下着のみ。

 男の、一人暮らしのアパートで、私は一体。何をしているの。

 私の予想範疇を、完全にぶっちぎっているわ。


 デニムは先に。洗濯機で洗わせて貰おう。

 うーん彼の着ていた、チノやシャツは。別ね。都合3回か。

 洗濯機を回し、浴室をそっと覗く。


 うん寝てるけど、匂いが。私まで酔いそう。

 今のうちに、私も体を洗って。


 すぐ横に、男の人が全裸で眠っている。

 ひどくドキドキしながら、体を洗う。

 何もなし。彼は爆睡中。


「さて」

 外へ出て、バスタオルを借りる。

 拭き終わり。もう一枚持って。

 彼を包み込む。

 体を、順に拭いていき。

 浴室前に、さっきので悪いけれど、バスタオルを敷く。


 背中側からで、脇から手を入れ、自分の手首を持って引き上げる。だったわよね。

 救命の講習が、こんな所で役に立つとは、思わなかったわ。

 彼を寝かせ、足とかを拭いていくけれど、これってずっと元気で良いのかしら。

 まあ様子を見ながら、拭いていく。


「ふう。介護って大変」

 ちょっと寝かせたままで、何処に寝かすか考える。


 ワンルームだけど、ベッド。

「うんちょっと。テーブルを寄せて、布団を下ろそう。きっとそれが正解」

 何とか、テーブルなどは、台所へ寄せて。道を作る。


 布団はこれで良し。何か着せた方が良いのかな?

 うん無理。


 バスルーム側から、さっきと同じように、手を回し引っ張ってくる。

 何とか、寝かせる。

 ばふっと、毛布を掛け完成。

 頑張った私。


 さてと、洗濯機はまだ回っている。

 彼は凄く辛そうな顔をして寝ている。

 人があんなになるなんて、一体何があったのかしら?

 どう見ても、一般的に言う。緩やかなる自殺だよね。

 ここ数日、お酒しか飲んでいなかった。

 いや、2日かな? でも十分か。

 おかゆでも作ってみようか。

 冷蔵庫。


「ビールと、チューハイ。チーズ。ああこの裂けるの好き。お茶もないしチューハイ貰おう。お米はあるし。炊飯器。ご飯が黄色い。うーん。匂いは悪くなっていない。にんじんとタマネギ。卵もある。おなかが空いたし。お駄賃。オムライスを作ろう。どうせ、服が乾かないと帰れないし。本人はきっと起きないでしょうし」

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