第4話 おままごと

「わーなつかしい。これここにあったんだ」

 僕は引きつる。


 おもい出される、おままごとから読み解ける。赤裸々な大野家の事情。

「あら今日は早いのね。早くお掃除とお風呂を洗って頂戴。今日は乾燥しているから髪にダメージがあるわ」

 続く僕の台詞。

「エアコンが、効き過ぎじゃないのかい? こんなに温度を下げて」

 交互に交わされる、台詞という名のパパさんとママさんの会話。


 よもや、おままごとで、暴露されていたとは思わないだろう。

 しかも、こういうときには、事細かなことまで。慶子は覚えている。

「つけてすぐ冷えないから、温度を下げたのよ」

「それは、エアコンじゃなくなっている。スイッチを入れて、冷え始めるまで少し時間がかかる。冷媒がだな。ああいや、すまない。いじるなら、温度じゃなくて風量だ」

 諦めた顔をして、軽く顔を振りながら、言って頂戴。

 慶子から演技指導が入る。


「何でも良いわ。おふろ。一緒に入ってあげるから。よろしくね」

 軽く。けだるく、台詞が紡がれる。


「その後は、そういうときは、お風呂へ一緒に入ってくれないから、分からないの。でもね。その時は必ず。あんとか、うふっとか、ああって声が聞こえるの。お母さんは、喉の調子が悪いから。お風呂で喉のけあ?だっていうけど。あっそうだ。寝ているときにも、ときどき、喉のけあっていうのしてる」


 そんなのとか、お料理ってシチュエーションだと、僕が料理をしている役で、ざくざくマジックテープの野菜を切っていると、後ろから慶子が抱きつき、胸とお股を触ってきながら、首筋に舌を這わしてくる。

「あなた。今日は何かしら? ワインの白に、合うものだと良いけれど」

「君。今更そんなこと、ああ分かったよ。ヒラメが確かあったはず。あれをソテーしよう」

「あら。ありがとう。食べ物のお礼は、やはり口ね。サービスしてあげる。楽しみにしていてね」


 とまあ、その頃は意味が分からなかった。

 父さんたちに聞いたら、なぜか引きつっていた。


 まあ、学年が進むと、おませな友人達が、徐々に情報を暴露するわけだ。

 そして、覚えている内容が、とんでもない事に徐々に気がつく。


 学年が進むと、僕がやばそうと気がつけば、中断するため。おままごとは封印された。そう、慶子は見たもの、聞いたことを、リアルに再現する。おバカだからなのか、ママさんの教育か?


 でだ、今。それを見つけて、嬉しそうに笑っている。

「勉強をするんだろう。おバカ改善。改善は日本の力。ほら」

「えーじゃあ。お勉強したら。ご褒美」

「ばか。おまえの馬鹿を直すために、勉強をするんだ。自分のために勉強するのに、ご褒美をねだる奴がどこにいるんだ」

 当然慶子は、自身を指さす。


「うーん。そうだな。そういう奴だった。じゃあまあ。採点して。そうだな80点以上できれば、その都度。ご褒美にしよう」

 僕はつい折れてしまって、約束をしてしまった。

 この時、慶子の能力を見誤っていた。


 おままごとのときの、台詞。情景の描写。

 それらは、パッと一度見ただけで、記憶され。再現されたもの。

 つまり、勉強をしなくて良い。その言葉を、守ってきただけ。


 慶子は、やればできる子だった。とんでもなく。


「1年と2年は完璧。3年はもう少し」

「凄いわね。慶子ちゃん」

 夕ご飯のとき、進捗状態を両親に報告。


「しかし、1週間経っても。迎えに来ないね」

 お父さんが言うと。


 お父さんに近寄り、お母さんが、そっと耳打ちする。

「お向かいさん。なぜか、ずっと居ないの」

「えっ」

「携帯も通じないし、どうしちゃったのかしら?」

「ひょっとして、慶子ちゃんをうちに預けて、旅行でも行ったのか?」

「あー。あり得るかもね。奥さんあれだから」

「そうだな」


 だが、その様相が変わったのは、すぐだった。

 人相の悪い男達が、お向かいにやってくる。

「ちっ。いねえぜ。ばっくれやがったな。おい。手紙を入れとけ。昔と違って、張り紙すると相殺されるし、器物損壊罪や暴力行為にされるからな。こっちが引っ張られる」


 そう叫んだ奴が、こちらへやってくる。

 チャイムが鳴る。

「すみません。木村さん」

 表札を読んだのだろう。


 父さんが居たので出る。

「すみません。お向かいさん。いつから留守ですか?」

「はっきりは、分かりませんが。7月の22~23日くらいでしょうか?」

「そんなに早くから。ちっ。あっすいません。もし見かけたら、この名刺に連絡するようお願いしますね。夜分お邪魔しました」

 その男は、踵を返し玄関を出て行く。名前と電話番号だけの名刺。


 すぐに怒声が聞こえる。

「ばっくれやがった。探すぞ」

「「「へい」」」

 この静かな住宅街。それに見合わない、スキール音を残し。3台ほどの車が、出て行く。


 玄関から戻ったお父さんは、お母さんにそっと何かを耳打ちする。


「木村パパさんと、ママさんも仲いいね」

 のんきなのは慶子だけ。


 その後、一緒にお風呂へ入ったり、ちょっと問題をやって寝るようになる。


「わーいできた。じゃあ。良いと言うまでご褒美ね」

 約束した以上、僕はおままごとに付き合う。


 慶子が覚えていた、夫婦の寝室。

 無論その頃だから、本番はない。

 だが、満足するまで、まあ前戯だね。

 言われるとおり、させられる。

 これがお勉強の原動力のようだ。

 ママさんの遺伝子なのか。大好物らしい。


 そして、こちらを向き。僕に軽いキスをして、紡がれる台詞。

「うふ。裕樹。好きよ。愛しているわ」

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