病気(樹と楓)
第1話 楓
僕には、幼馴染みが居た。
今はお互い、どこに居るのかも知らない。
二人が、異性を意識したのは中学生の時。
無論、僕よりも楓の方が早かった。
多分ね。
ある日学校から帰り、宿題を始めるが、すぐに嫌気がさし寝転がったまま寝てしまった。
「うっくっ」
楓? 僕のすぐ横で、声がする。
僕の右手が?
目を開けると、また僕の手で遊んでいる。
少し眺めて、指に力を入れる。
「ああっっ」
そう言って、倒れ込んでくる。
「もうっ。起きているなら、相手をしてくれても良いじゃない」
理不尽な苦情が、僕の胸に乗った楓の口から降ってくる。
「いや、今起きたとこだよ。それよりも寝てる間に何をしているんだよ?」
「えっ。まあちょっと」
そう言って、顔を背ける。
「そんな事より、勉強。宿題まだできていないの? せっかく写しに来たのに」
僕は、そんなことを言う楓をじっと見る。
「言葉がおかしくないか? せっかく写しに来たって何だよ。一緒に高校へ行くんじゃないのか?」
「だってぇ。樹が行きたいのって高専でしょ。この前も先生に本気かって聞かれて、うん。って答えたら。受けられるが、お金の無駄って言われたのよ。ひどくない」
デコピンを一発決める。
「いたっ。もう。今ので、脳細胞が10万個は死んだわよ」
「どこの年寄りだよ。そんなにあるのか? なら勉強しろ。今ならまだ増えるし、このまえPubMedでペーパーが出てたやつだと、炭素14の濃度の結果から、海馬を中心にしてむっ。ふぐっ」
キスして来た楓を、ひっくり返し、うつぶせにして逆に抑え込む。
どうしてやろうかと考え、周りを探す。
ああ。良いものがあった。
さっき遊んでいたから、まだ敏感だろう。
マッサージ器を強にして押し当てる。
「ひゃああ。ちょだめ。それやめて。あああぁっ」
そう言って、動きが止まる。
「満足をしたら勉強」
「樹の鬼。悪魔」
そう言って起きようとするが、力が入らず起きられないようだ。
やりすぎたか。
「あースポーツなら、樹をいじめられるのに」
そう楓は、ソフトテニスなら、かなりの所にいるらしい。
学校の先生も、そっちで特待生枠があると言っていたが、楓が渋っているらしい。
「だけどなあ。成績が。夏休み明けには、決めないといけないんだろう?」
「うん」
相変わらず、うつむいたままで表情は見えない。
「よっ」
楓の足を寄せて、宿題を始める。
「もうすぐ、夏休み。その前に最後の大会か」
「うん。今度は勝つ」
楓は、いつも負ける他校の生徒がいるらしく、ライバル心を抱いているらしいが、相手は全国レベルらしく、僕が見た所相手にもされていない。
まあ、全然相手になっていないわけではないが、ストローク後に体勢が悪く、必然的に一歩目の反応遅れとか、たまに来る微妙なフェイク。そんなものに引っかかる。
そんなものに、一度引っかかるとずるずると負ける。
「足の速さと、力はあるのにな」
「うん」
「パンツ見えてるぞ」
「うん」
だめだ、意識がテニスに行っちゃった。
宿題を片付けていると、すうすうと寝息が聞こえ始める。
夏前とは言え、エアコンも効いているし、タオルケットをかぶせる。
「そういえば、テストの点が悪いと部活禁止じゃなかったか?」
またテスト用の予想テストを作るか。
宿題を済ませ、予想テストを作る。
各教科3回もやらせば、赤点は回避できるだろう。
地頭は悪くないんだけどな。
僕との付き合いと、エッチをかけてテストを受けたときは、全教科60点以上取っていたし。
あのときの、勝ち誇った顔を思い出す。
「ふふっ」
思わず笑いが出てしまった。
楓は十分睡眠を取り、宿題を写して、いやがりながらも対テスト用の模擬テストも持って帰った。
その後無事、赤点を回避できたらしく、部活で日に焼け赤い顔をして走り回っていた。
そして、中学校都道府県大会。
いつものように、団体はあっという間に2回戦で負けた。
個人では、次勝てば順々決勝と言う所で、前後の攻撃から左右への攻撃に切り替えられライン際のボールを拾いに行ったときに足首をひねる。
思いっきりひっくり返り、途中棄権。
楓の親と一緒に病院に行ったが、骨や筋に骨折や断裂はなく、捻挫ですんだ様だ。
ただし、 1~2週間は安静にしろと言われた。
楓はそう言って笑っていたが、勝っていれば次はライバルだったのが、かなり悔しいのだろう。あの笑い方はきっとそうだ。
学校の先生に連絡して家へと帰る。
その日は、僕もそのまま家へと帰った。
翌日、昼過ぎに電話がかかってくる。
いつもはメッセージアプリなのに珍しい。
電話を取ると、
「樹。助けて、私死んじゃう」
「どうしたんだ?」
「両親は仕事なんだけど、お昼ご飯がない。足が痛いから買い物にも行けない」
「……わかった。30分待ってろ」
軽くおにぎりだけ作って、楓の家に抱えていく。
「来たぞ」
インターフォンに向かって話しかける。
ドアの方で、ガシャッと音がする。
「待ってたよ」
顔が引きつった感じで楓が立っている。
「足が痛いんだろう無理をするな」
肩を貸して、勝手知ったるダイニングへ移動する。
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