第1話 15歳~高校一年生~

暖かな春の日差しに誘われて、桜の花も満開となり、こんな言葉を一時間後には聞いているのだろう。


俺―羽衣白はごろも はくはそんなくだらないことを考えながらまだ二三回しか歩いたことのない高校への道を歩がいるため


俺は中学二年の冬に吹奏楽部をやめてからは日々を無気力に生き、何事にも楽しみを感じなかった。


高校だって本来なら自分の住む地の強豪吹奏楽部のある学校に進学する予定だったが、入学するところは中々の進学校だ。


幸い元から自頭がよかったり、海外コンクールにも参加していたおかげで英語が話せ、部活もやめて時間はたくさんあった。


地下鉄から降りてから学校までは五分くらいで近いため、気づくと校門が目に入る。

学校周りの多くの人は校門の横に置いてある「県立安永高校入学式」と書かれた立て看板と写真を撮りたいのだろう。まぁ俺は取りたいとも思わないが。


正門の先には大きなメタセコイアの木と広場がある。


広場には多くの人がおり、その声によってかき消されてしまってはいるものの、音が聞こえる。トランペットのファンファーレが、フルートの連符が、ドラムの8ビートが、それにオーボエとクラリネットのsoliが聞こえてくる。


人の波に流され、特に焦っているわけでもなかったらその流れに身を任せると、幸か不幸か演奏している吹部の前にたどり着いた。楽器が吹けなくなったからといって、吹奏楽が嫌いになったわけではない、人ごみから離れ吹部の前で立ち止まり演奏を聴く。

「もしもし!新入生の方ですよね?」


「そうですけど......吹部には入るつもりはありませんよ。」


突然話しかけてきた人はバッチの色を見る限り二年生のようだ。


ちなみに安永高校は学年ごとに学年カラーが違い、今年の一年生は緑、二年生は赤、三年生は青と別れている。


先輩は制服となっているセーラー服に胸の位置に赤色のバッチがついている。控え目に言っても先輩はかわいい。俗にいう可愛い系というのだろうか、くっきりとした二重の瞼に小柄な顔、背も小さいため先輩であるが子猫のような先輩だ。


「私たち吹奏楽部は今年も多くの新入生に入ってほしいため、楽器体験や新歓コンサートもやります!少しでも吹奏楽に興味を持ってくれたなら、1回だけでも新歓に来て!!きっと楽しいから!」


先輩は腕を振りながら伝えてくる、かわいい


「わかりました、暇なら行きますね。」


「えっ、来てくれるの!やった~、私の名前は小鳥遊七夕たかなしなな、新二年生でクラリネットを吹いてますっ!君は何て名前なの?」


「俺は羽衣白っていいます。」


「白来君っていうんだね!うん、もう覚えたからね!新歓来てくれなかったら教室までいくからね!!逃げられると思わないよーに!また会えるの楽しみにしてるよっ。」


そう言って七夕先輩は別のところで見ている女子生徒のもとに走っていった。


はぁ、正直テキトーに行くって言ってほんとは行くつもりなんてなかったのに名前を憶えられてしまっては行かないことにはできない、それにあの先輩を悲しませたくないからな、と自分を納得させた。


そろそろ入学式が始まるのか吹部の人も演奏をやめて、自分たちの譜面台をかたずけ始めた。人数は20人くらいだろうか、高校の吹部全体にしては少ないな。


入学式が行われる体育館は広場の隣に立っているためそこまで時間をかけずに体育館までは来れた。新入生は特に順番などなく来た順に座っていくシステムのようだ。特に隣になりたいような人はいないためそのまま列に並んで体育館に入る。


この高校は普通科320人が一学年となっており、ちょうど体育館の前方の半分を新入生が占める形で新入生が座っている。後ろの半分には保護者であろう人が座っていて在校生はいないようだ。


隣に座ったのは右が男子で、左が女子だった。幅層と思っても女子のほうは前に座っている女子と話しているため話せそうにない。


とんとんと右肩をたたかれる。


「俺は八神冬やがみとう、よろしくな」


「ああ、俺は羽衣白 よろしく」


こっちが話しかけよと思ったはなから、話しかけられた。八神といった彼はThe 爽やか系といった感じだ、少し明るめの髪をワックスで固めて高校生というより大学生のような見た目をしている。少し焼けた顔は彼が運動部であるだろうことを物語っている。


「いやー、話せる人ができてよかった、俺の中学からここに来た人俺だけだからさ、友達出来るのか心配してたんだよ。」


「まだお互い名前聞いただけなのに話せる認定された。」


「なんだよ細かいことはいいだろ。クラスは違うかもしれないけどもう俺ら友達だろ。」


「まあそうっちゃそうだな、よろしく友達第一号。」


俺も同じ中学から友達といえる友達は1人しかいないため、八神のような存在がいてくれてうれしい気持ちがある。


「お前いいやつだな。」


「別に普通だよ。八神のほうが初対面の人にこんなに話しかけるのすごいな。」


「これでもっけこう頑張ってるんだよ。」


後頭部を手で書きながら八神は照れている。


「ところで八神は運動部はいるの?」


「普通にした呼びでいいよ、冬って呼んでくれ、おれはまぁバスケ部はいるかな、ずっとやってきたし、ほかにやりたいこともないし。つかなんでおれが運動部はいるってわかったんだ?」


「いや、ちょっと肌が焼けてるかなって思ったから。」


「そんなに焼けてるのか、半年くらいは受験勉強であんましてなかったのにな。」


「まあ、そんな気にするレベルではないんじゃない?」


「そうだよな、つーかお前は何部やってたんだ?」


「俺は吹部だったけど、高校で入るつもりはないかな。」


「そうなんだ、ならバスケ部来いよ、俺が」


―これより、第73回安永高校の入学式を始めます。

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