第6話 決着

 最終局面で残り少ない魔力を攻撃に使いだした静祢を加えて六人が魔人たちの魔力を削屠る。

 岬・さゆり、が香に手を当てて寄り添う、わずかに回復する魔力で苦手な回復魔法をかける、慈光じこうにもならないそれは手当と呼ばれる最終手段。魔力はほとんど使わないが生命力を削って渡す自滅技と言ってもいい魔法。


 魔人は十体と変わらないが手の数を七本は減らした。

 それでもこちらの総魔力量の方が分が悪いと感じた侑次郎が賭けに出た。

 「頼む」

 そう言って香の方に移動する。

 「おう」

 「はい」

 一樹と未在の答える仕草が似ていて侑次郎が思わず破顔した。


 一樹が右手をゆっくり動かして、左手を駆使しての連続斬撃を加える、魔人が幾らかでも止めようと剣を動かそうとするが未在が全て外しきる。

 一発の威力は並みになるが魔人には手数の方が効果がある。軌道が読まれやすいが未在がしっかり補助するので効率がいい。

 さっき吹き飛ばした単眼魔人が戻ってきたので今の牛魔人を二人の横なで斬りで吹き飛ばす。

 一度に囲まれるのだけは避ける作戦。

 巨人の一体は足を破壊し動きを遅くするのに昭が成功した、集中攻撃の成果だ。

 苦し紛れみたいに手を振りかざしたので昭が飛びついて空中で一本背負いを決める、魔力のごり押しと体術の限りを尽くすその技は巨人の巨体を十五間分投げ飛ばす。

 昭が助かるとばかりに焼けた地面を踏んで腰を落として牛魔人を睨みつける。

 その様子をチラチラ見るのはお年頃の彼女。

 「あきら、集中して」

 二人がさゆりを見た。

 「あっ」

 さゆりの口から声が漏れた。

 「あぶっ」

 昭が危うく牛魔人の棍棒を受ける所だった。

 「あたしは章子しょうこ!」

 「いや、それは本名・・」

 「章子っ!!!」

 「・はい」

 「ふふっ」

 今の集中を保ったまま香が微笑んだ、さゆりの手当てが聞いて鼻血は止まっていても、化け物かと気が付いた全員が思ったのは当たり前だ。

 実はさゆりの手当てには治療の上、回復系魔法、回生縛の一部が成されている、多少の無理は肩代わりしていたりする。


 「やるぞっ!」

 「はいっ」

 真面目に章子が答える。

 侑次郎が練り上げた魔力を拳に込める。

 侑次郎の拳は魔素体を殴る物、魔物相手には便利だが距離を取れない、だが今土縛帯どばくたいで繋がっている魔物だとどうか、杭を打つ様子を思って香に伝えてあった。


 「せええぇぇいっ!!」

 覇気を合図に香と章子が気を合わせる。


 どおおおぉぉぉんんんっっ!!。


 物理の音がして焦土が揺れる。魔人たちがあらぬ方向に攻撃をしだした。

 小刻みに足元が震える中で侑次郎は次の手を思いついた。


 香が魔力を送っている場所、今殴った地面を両手で鷲掴みにすると引っ張り始めた。

 「ぬううぅ、おおおおうおおうぅぅっ!」

 香が慌てふためいて魔力を調整する、章子がそれに食らいついて合わせる。


 魔人たちが出鱈目に攻撃をしだす、実はこれが一番危なかったりする、威力は無い、しかし思わぬ方向から飛んでくる攻撃は一定の確率で高威力の斬撃と同じ効果を生む。子供が振り回した木の枝で大人が昏倒する時もあるの例えが何かあった。


 しかしここには複数の達人がいる互いに補えば万が一もない。

 大樹が気が付いて侑次郎に駆け寄る、何が起きたか確認して侑次郎の両腕を掴む。


 「「どおっせえぇぇぇいい」」

 二人の掛け声が響くと土の帯が抜け出る。

 ぎゆうええぇぇぇぇ。

 土が揺れ何かの声が聞こえた。


 三尺ほど引き上げた土を放して根元を掴みなおすと上げた分の土は元の土くれに戻った。

 元々香一人で維持していたので行程は淡々と進む。


 昭がやりにくそうに剣戟を躱しながら徹甲の一撃を重ねる。出鱈目に動いてるので投げれないし必要も無い。

 中心の五人を守るべく四人が四方を守っている。

 未在と一樹が大技を出しては勢いをそのまま使い土を耕す、魔力を飛ばすのを忘れない。


 未在の元に拾った刀を持って岬が来た。

 「やったのか」

 「もうじき」

 単眼魔人の拳を未在が魔力を練って受ける、近くに岬が居るからだ。

 「炎弾」

 その魔人をさゆりが吹き飛ばす。

 一息ついてさゆりが聞く。

 「名前、憶えてる?」

 「さゆりだろ?どうした」

 「真滅瀑布を打つみたい」

 「代官の屋敷、飛ばしたあれ?」


 大眼球をせわしなく動かす巨人が回転する様に巨大な腕を振り回してきた。

 「でえいいいいぃぃ」

 「はいっ!!」

 神代一樹と山賀静祢の同時打ちに巨体が有り得ない動きをしながら弾き飛ばされる。


 「あんなもの蝋燭と同じ」

 彼女が言ったのは千の前では三も五十も変わりないという意味だろう。


 「あ、炎塊!」

 未在の横から来た牛魔人を吹き飛ばす。


 以前未在たちを取り込もうとした代官に注進した妃が追放された。静祢の幼馴染だった彼女はどうにか助かったが大樹が切れた。代官の屋敷に乗り込んで、成功しなければ許すつもりで使った魔法。


 十回に一度が成功してしまった、奴が魔物肉がらみで討伐隊に被害を出していなければ今頃は牢獄だ。

 敷地半分を溶岩に変えて人が近寄れたのは二日後だった。


 「あれは魔力に地力を絡めながら引っ張る魔法、自爆魔法だよね」

 少し離れたところにいる一樹が聞いてきた。

 「そう、だから前はあき・章子を外に置いといた」

 静祢が猪魔人の腕に薙刀を突き刺して叫ぶ。


 「まって、まって、地魔行路は使えないんでしょっ」

 「章子?」

 土縛帯の調整を続ける彼女はそれでもしっかりと首を横に振った。


 さゆりが未在、本名、未来の手を取った。


 其の時焦土の真ん中が大きく膨れ上がった、土くれを水のようにまき散らしながら現れたそれは、混ざっていた。

 体長は人二十人以上で本体はヤツメウナギか体表から弱毒を出し続けて魔物を酔わせ、大きな丸い口の中は小さな歯が密集している。

 無数の情緒を乱すように整列した足はムカデか、力なく落ちている触手はいったいなにか?。


 「きしゅええええぇぇぇぇぇっっ!!!」


 周りの魔人たちが触手に触れて正気を取り戻したように動き出す、まるで新しい命令を受けたかのように。

 大樹と侑次郎も前に出てきた。

 未来は左手をさゆりに預けて右手に魔力を集中させている。

 さゆりも魔力を練り上げる。

 其の時目の端でハッキリ見えた、香が自分を見ていた。今こそと精神を集中しているこの時に。


 「彼女が私を見た」

 左手を強く握りながらつぶやく言葉に未来は困惑する。

 「あの人が見たんだ!」

 牛魔人が走ってきた。

 「なんだ?、何がある?、何か有るんだ!!」


 牛魔人、猪魔人ししまじん、単眼魔人、熊魔人ゆうまじん全てが半円に勇者たちを取り囲もうと広がる、待てるのは此処までだった。

 「真滅瀑布しんめつばくふ


 焦土全体が上下に大きく振動して熱の波動が大地の中でうねるのが分かる。

 「あっ」

 力尽きて倒れる香りを抱きとめたとき章子が何か感じた。

 見たことがある、感じたことが無ければ絶対に見落とすような小さいもの。


 慌ててさゆりを見るとじっと自分を見ていて少し驚いたがすぐに理解してくれた。


 キュアー。


 天使の調べを聞いた気がした。


 「地魔行路っ!!!」


 湿地帯があった台地が震え辺りの空気を吸い込んで竜巻にして吹き上げる。

 暴風の中心で溶岩が飛び散り、弾けて、波打つ。

 断末魔の悲鳴を上げてのたうつ影がやがてゆっくり溶岩に沈んでいった。

 魔人単体であっても燃え続ける溶岩の中では幾らも持たないだろう。

 吹き上がった竜巻が触れた木々は抵抗が無駄とばかりに燃え上がる。


 湿地帯の近くに森は無いので燃え広がることは無いだろう。


 一人でも、いや、一羽でも欠けていたら達せなかった偉業と言える。


 大字峠の立札まで熱が飛んできている。

 そこに九人全員が座っていた。

 キアー。

 吹雪が未来の頭に捕まってつつく。

 「いた、痛いって、悪かったよ」

 揶揄やおどけた感じではなく本気で謝っているのをさゆりが抱き着いて見ている。

 「何で送書鳥がいるんです?」

 大樹がもっともな質問をする、送り先にずっといては役に立たない。

 「えーと何だ、怪我をしたら医者に?」

 「怪我の功名」

 胡坐をかいて香を抱きかかえた一樹がとぼけて、香が訂正しながら起き上がる。


 昭が吹雪を睨んでいう。

 「文が殆ど読めなくてさ、道案内をしてもらったんだ」

 「可哀そうですよ」

 キャアー、キアー。

 吹雪を預かって撫でながら章子が言う、何か昭に逃げなくていいのかと視線を送る侑次郎がいるが。


 「村長に聞いたけど何か見つかった?」

 「心臓と手、かなぁ」

 大樹はちらりと見ただけなのでハッキリとは知らない。

 「どうだ?」

 「心臓が有るのはより近づくわ、運がいい方よ」

 

 章子と昭と吹雪は魔力の相性がいい、なので昭は吹雪を揶揄う訳で、違う空間が出来たみたいになっている、皆そちらを見ないようにした。

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