第72話 自宅購入
さっきまで泣いてました的な
腫れぼったい目でアイリは挨拶にやってきた。
「これからもよろしく」
俺のその一言でまた泣き出してしまった。
泣きながらなので良く聞き取れなかったが
GHクラスのクエスト知識をキチンと
予習すると言っていたらしい。
そのまま支部長室を後にすると野次馬冒険者に囲まれた。
賞賛・質問・勧誘などなどもみくちゃにされたが
ちょっとオーラが漏れて道が開いた。
「後でゆっくりな」
俺はそう言って一度スイートに戻り
いくつかスクロールを持つ
お土産の武器を生成しと医務室に向かう。
ハンスの協力で作ったスクロールを
ストレガに渡して説明する。
魔法関係は彼女のイメージで定着させよう。
医務室ではクロードが意識を取り戻しただけで
ガウとソフィは麻痺状態が続いていた。
打合せ通り麻痺解除のスクロールを
ストレガは仰々しく使用し
二人を治療し、周りをあっと言わせた。
「申し訳なかったぜよ。」
クロードは俺達に頭を下げたが
俺達的には目標を達成出来たので
謝罪は必要ない、むしろ感謝している
お礼を言って返した。
微妙な表情でクロードも礼を返す。
「しかし、解せないぜよ」
クロードは現役G級だ。
ベレンだけでなく大陸のあちこちの情報に精通している。
俺達ほどの実力者が噂ゼロなど有り得ないとの事だ。
舐めた態度も自信過剰だけでなく
そういう裏付けがあっての事だ
同じ様にソフィも全く知らなかった。
この二人が知らない。
100%ハッタリだと判断しても無理は無かった。
「妹は実力こそあれ、経験が足りません
そのせいでやり過ぎてしまいました。
決して恨みなどでは無いのです。
これは、そのお詫びです。
遺恨を残さないでいてくれたら嬉しい。」
派手な赤いアフロヘア
俺は連続雷撃のせいで
最近見かけなくなったハンバーガー屋の
怪しいマスコットキャラのような髪型に
なってしまったソフィに先ほど拵えた
扇「猛虎斑」を差し出した。
柔軟性と硬度を併せ持ったカーボン。
腕力があれば剣撃だって受けられる。
中は中空構造で細い針が仕込んで有
手元のロックを解除してから
扇ぐ動作で射出可能だ。
お好きな毒を塗り分けてどうぞ。
扇の紙の部分は風の精霊の助力を
期待してプリプラに上げた
サークレットの余った材料を
細い鋼線状に加工し布と合わせて編み上げてある。
名づけは少し悩んだ
剣=祭 杖=錫 ナックル=拳で今の所来ている。
扇・・・ファン・・・班でいいか
荒ぶる虎のような攻撃力の扇
そんな意味を込めて「猛虎斑」と
デカデカと書いておいた。
うん、かっこいいぞう
射出口が目立たないように
鮮やかな鳥の羽を付けておいた
大昔の六本木に生息していたと
言われる女子が装備した奴に酷似して
しまったが、ソフィなら似合いそうだ。
・・・髪型が戻ればだが。
ソフィは俺の説明を聞いた後「猛虎斑」を色々調べ驚愕する。
横で水をガブ飲みしているガウに見せて素材を聞いていた。
ガウも調べている内に顔色が変わる。
「なんで出来ているのか見当もつかん」
さっきのミスリルに続いてカーボン
未知の素材が連続で現れた。
ドワーフとしてガウは思考が停止する程驚いていた。
日も落ちてきたので
家の購入は明日にして
そのままガウとクロードと食事をした。
ソフィはグロリアとスィートで摂るとの事で部屋に戻っていった。
俺はストレガも部屋に戻った方が良いかと思ったが
人目を忍ぶ練習で仮りの胃袋に貯める作業の
練習ついでにという事で一緒に食事した。
多分コレは半分嘘だな
完全人化して著しく能力の低下した俺を護衛する気だ。
俺がそれに気を使わない様に嘘をついてくれているのだ。
それに甘える事にして俺は完全人化した。
食事の最中もガウはミスリルと
カーボンの事を質問しまくって来た。
誤魔化すのが段々面倒になって来た。
そんな時クロードは壁の手配書を
指さして言って来た。
「そう言えば二人とも苗字はアモンなんだよな
あいつのも苗字で名前があるのか」
俺は半人化しセンサーフル稼働してから徐おもむろに語り出す。
もったいぶっていこう。
「そうですね。お二人になら話しておいて良いかな」
「お兄様」
分かって無いけど乗ってみよう的な
乗りでストレガは俺を制そうとする。
いいねー
「クロードは半分気が付いている様なモノだよ。
探られるより話して力になってもらった方が良い」
少し間を空けてから頷くストレガ
うまいな
さて
なんてでっち上げるか
「これは、内密に願いますよ。」
そう前置きしてから
俺は思いつくまま話し出した。
真剣な表情で聞き入るガウとクロード
見ると笑いそうになるので
俯きながらテーブルを眺め話す。
とある秘境の隠れ里
そこはアモンの一族のみの集落で
一族のみに伝承される数々の秘術があり
彼等の先祖は神か悪魔ではないかと言われている。
一人の若者が里抜けし
討伐の為に里一番の天才兄妹が
外の世界へと旅立った。
どうだ
言ってて恥ずかしい
もうすぐ30の男が何言ってんだろ
でもこれなら俺達の噂が無い理由
扇やミスリル所持も不思議じゃないだろ
反応を伺うべく俺は顔を上げると
恍惚とした表情になってるストレガ
ああ良かった君ならツボだと思っていた。
深く頷くガウとクロード
信じんなよ
仕方無いこのままこの設定で行こう。
「クロード・・・こいつはぁ」
「ああ、そうか・・・実在していたのか」
何ソレェ
噴き出すそうになるのを鉄の意志で抑え込む俺。
何、そんなのあるわけないじゃん
何と勘違いしているの
この人たちは
アドバン
人・亜人、人型の種族全ての
始まりの地でそこには全てがある。
争いの根源はその地へ帰ろうとする
人型全てが持つ帰巣本能という説もある。
歩いては行けない場所で
渡るための秘術を記録されている
アイテムがあるとされている。
だそうだ
すげぇなこの世界も負けてないね。
いつの世にも、どこの国にも中二はいるのだ。
「あの金属も扇もそれなら納得じゃわい」
納得するガウ
分からなくて当然という事になった。
「帰れるのか・・・お前たち」
そう聞いて来る。クロードに
俺は笑顔で答える。
「使命は討伐だ」
そう言った俺の肩に
うまいタイミングでそっと手を添えるストレガ。
クソ
笑わすなよ
ちょっと震えて来たじゃないか。
俺の震えを、うまい具合に
クロードとガウは勘違いしてくれた。
「済まない。悪い事聞いちまったぜよ」
「いいんだ。話は変わるんだが・・・」
俺は家の購入の希望を支部長に言ったのと
同じ内容で二人に話した。
二人とも答えは同じだった。
支部長以上には出来そうにないとやんわりと断られた。
そらそうだ不動産など専門外だろう
うん、いいんだよ
君たちじゃなくて、センサーが捉えた
二つ隣のテーブルの男に言ったのだから
明日、またパウルの所へ行くとしよう。
奴の事だから条件に合う物件を
用意してくれているに違いない。
食事の終わり頃に俺は
自分はアモンの一件で動くので
クエストにはストレガがメインで
担当するので面倒見てくれると
助かる旨を二人に頼んだ。
先程の家探しで断ったのも
手伝って、それなら任せろと
二人は快諾した。
本命の前に無理難題をふっかけて
断らせ罪悪感を植え付けた後
本命を頼み受領させる。
ちょっとズルい交渉術だ。
次の日、早速パウルの建物に赴く
案の定、二つ隣のテーブルにいた男が
パウルに何やら報告している様子が
デビルアイ望遠モードで見えた。
そいつが退室するタイミングに
合わせて窓から入る。
「悪いねノックも無しに」
そう言う俺にパウルは驚く様子も無く答える。
「いいですよ。私とあなたの仲だ」
パウルの手配でベレンに家を購入した。
身分は冒険者のプレートでOKだった。
兄:ゼータ・アモン
妹:ストレガ・アモン
これで公的な市民権を手に入れる事が出来た。
家と市民権を得る理由はいくつかある。
ベレンの地下に仕込みが必要なのだ。
郊外から掘っていくより
直に掘った方が速いし楽だ。
勝手に公園などに穴を掘れば
見つかった時に面倒だ。
なので一軒家の床下から掘る。
これなら見つからずに仕込みが可能だ。
後、ストレガは硬貨に使用される
金属では銅と銀のみが操作可能だった。
試しに銀貨を生成させてみたが
再現度が低く使いモノに成らなかった。
単純に銀の塊として素材売却したほうが良いだろう。
数倍の価値を持つ金は俺が居る内に作れるだけ
作っておいた方が良い。
その保管場所としても
一軒家は仮宿より良いだろう。
ストレガにとっても
安息の地とは言えないが
当面の安全を確保出来た。
世を欺く為の嘘だが
それでも俺の家族だ。
たった一人の兄妹なんだよー
例えストレガが空っぽの鎧になっても
お兄ちゃんガンバルからね。
そういえば声似てるな。
ストレガは穴掘りを手伝うと言って来たが
遠慮した、それよりも冒険者として
外で活躍ついでに諜報活動してこいと
言い、行ってもらっている。
クロードとガウのサポートがあれば
心配は要らないだろう。
最初は渋々だったストレガだが
直ぐに楽しそうに冒険にハマっていった。
穴掘りなんて女の子のやる仕事じゃない
男のやる事だ
稀に掘られる男子もアッーいるらしいが。
審判の日、その後も
ストレガは生きていかなければならない
心配だったが、帰って来て楽しそうに話す
冒険の話を聞いている限り
これは大丈夫だろう。
家を購入したのがウルラハ討伐の次の日
更に二日後にパウルが単身でやって来た。
来訪の理由は神を祝福する祭典の
日付を教えに来てくれたのだ。
5日後に決まったとの事だった。
それ以外にも色々教えてくれた。
東は今だ煙が立ち込める熱地獄
人はおろか獣もいない死地と化した。
バリエアの生存者はほとんど
一般市民で教会関係者も王族も居ないとの事だった。
「明日には勇者一行がベレンに戻って来る予定ですが・・・」
そう言うパウルに
俺の事は秘密にしておいてくれとお願いした。
「勇者はあなたの行方を捜している
様です。何と言えば良いですか」
「我々も捜索中だと言っておけ」
「ハンスにも?」
「そうだ」
「・・・・分かりました。そのように」
出ていく前、玄関の前でパウルは立ち止まり振り返って言った。
「あなたにこんな事言うのは、自分でも可笑しいと思うのですが・・・。」
俺はポーズで続きを促す。
「神の祝福のあらんことを」
パウルの出て行った玄関の扉を見つめて俺は呟いた。
「そいつは、もう間に合ってるんだ」
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