第73話 残る家族

パウルが訪れてから二日後俺に最後の客が来た。


俺の方も準備がほぼ終わり、今日は休むと

言っていたストレガとのんびりしていた昼下がりだった。

センサーの反応で来訪者は誰なのか直ぐに分かった。


「ストレガ」


「はい、お兄様」


俺はちょっと考えてから言った。


「真ん中のお兄ちゃんが来たぞ。」


ストレガは少しだけ考えて答えた。


「・・・ヨハン?!」


「大正解」


正解してから

考え込むストレガは心配そうに言った。


「私、会っただけで成仏とか」


ディスペル

僧侶などがアンデッドモンスターを

成仏・浄化させるスキルだ。

魔法の様に任意で発動させる場合と

パッシブスキルで自動で行われたりもする。


ヨハンは元9大司教の格闘家だ。

無いと思うが、有ったら洒落にならない。

俺はストレガに奥に引っ込んでもらい

事情の説明が終わったら出てきてもらう様にした。


さてヨハンなんだが

さっさと入ってくればイイのに

門の前でなにやら考え込んでいる様だ。

あ、そうかヨハンは冒険者ゼータ=俺とは知らないか


完全膝カックン耐性で周囲に他の人がいない事を

確認した俺はアモン顔になって迎えに出た。


「やっぱり・・・兄貴か」


ヨハンは少しやつれた。

元気も無い。

俺は家の中に案内する。

応接間のソファに座り込むヨハン。

デビルアイで走査してみると

疲労してはいるが問題になるレベルでは無い。

これはデビルアイでは見えない精神的な影響で

ヨハンはぐったりしているのだ。


それにストレガが居ても問題なさそうだ。

神力はまったく見受けられない。


念の為に釘を刺しておく事にした。


「ヨハン。後一人居るんだが、そいつは

アンデッドなんだデイスペルしない様に出来るか。」


「相変わらずカッ飛んでるな・・・分かった」


「ストレガ、出てくるついでに茶・・・いや酒の方がいいか」


しばらくするとトレイに酒セットを

搭載してストレガは恐る恐る出てきた。

丁寧に挨拶する。

ヨハンも立ち上がり挨拶を返した。


「兄貴・・・彼女がアンデッドなのか」


何かおつまみを作ると言って

再び奥のキッチンにストレガは引っ込んだ。

それを見計らって小声でヨハンは聞いて来た。


「そうだ・・・分からないか」


俺はヨハンなら初見で見抜くかと思っていた。

ヨハンはなんかそわそわして落ち着かない様子だ。


「アレか?!あの美しさ、まさか伝説の吸血鬼」


今の所、この世界には噂だけでバンパイアは居ない。

冒険者協会のデータも調べたが実在は確認されていない。


「いや・・・実はな」


俺はヨハンにストレガとの出会いから今までを説明した。


「言っておくが外見や年齢は本人の

希望に沿っているからな俺の趣味じゃ無いからな」


ロリコンのツッコミが入る前に

防衛線を張っておく


ただストレガの場合は

髪・眼球・肌の色は分からないが

年齢・性別・人相などは骨に忠実に再現してある。

生前の姿に酷似しているハズだ。


「あ・・・ああ、そうなのか」


ロリコンのツッコミが来る様子は無い

それどころかなんか見とれて無いかヨハン

キッチンの様子をしきりに気にしているヨハン。

おいおい

散々人をロリコン呼ばわりしておいて

それは無いんじゃあないかヨハンおい


「ディスペルなら心配ないぜ、なにせ初級の

治癒も今の俺には出来ねぇんだ」


気になっていた。

銀色のオーラ、非戦闘時でも

ヨハンの体内を駆け巡っていた。

それが今のヨハンには見受けられない。

ヨハンの信仰自体に変化があったと見るべきだろう。


「兄貴、顔と名前を変えたのはやっぱり手配のせいか・・・」


俺も人化して酒を飲み始める。

ストレガが家にいるなら

俺が警戒しなくても大丈夫なのだ。

本当に助かっている。


「いや、偶然だ。天使対策だよ」


疲れ切っていたヨハンに一瞬で精気が戻る。


「・・・怒らないで聞いてくれ。兄貴」



俺は頷いてみせて了承の意を表明した。


「手配書には人さらい・その他なっていたが

噂じゃあ東の大火・西の地震と津波の張本人と言われている。」


「ああ、突き出せば一攫千金だぜ」


飄々とした俺の様子に

肩透かしを食らいガクッとするヨハン。


「兄貴じゃねぇのは俺は知ってる。

じゃあ、あれは誰の仕業なんだ」


俺は返事に困った。


ヨハンは聖都を悪魔から救う為に自らの

魂を差し出してまで行動した。

聖職者・神側の人間だ。

なのに結局、聖都は滅び

しかもその張本人が神の使いだ。

酷いバッドエンドだ。

最適解が出てこない。


俺の様子を察したのかヨハンも

酒のグラスに手を出し飲み始める。


「ずいぶんイイ酒のんでるな・・・。」


そうなのか

ストレガ任せなので値段を知らない。


「勇者の様子もおかしい。ハンスのやつも

気が付いているみたいだが口には

出そうとしない。みんな目の前の

救助に逃げる様に必死で作業したよ」


ヨハンは一気に酒を流し込んだ。

ここは俺は聞き専の方が良いだろう。


「自然災害だ。仕方が無い。

みんなそう納得しようとしていたが

兄貴の手配を聞いてそれが出来なくなった」


ヨハンは一度神を捨てているが

それは人を助ける為の決断だ。

ヨハンが捨てても神はヨハンを捨てなかった。

それが今回は違う

ヨハンが根本的に神を疑ってしまった。

降臨とほぼ同時に四大天使はチャージに入ったと思われる。

ミカのセリフから想像するに

ターゲットは最初からバリエアでは無く

魔神の居る場所と信仰をしていない地域だろう

バリエアがこうなってしまったのは

魔神側の聖都侵攻の結果だ。

不幸な成り行きだ。


でも、だからって納得など出来るものか

なぜ、救わないんだ。


「済まねぇ兄貴、俺はもう戦えない」


絞り出す様にヨハンはそう言った。

理由は知らないが

ヨハンはバリエアを救う為に立ち上がった。

故郷なのか知らないが愛した土地を守る為にだ。


それが無くなったのだ。


「後、怖いんだ・・・俺はいつ死ぬ

寿命はどの位残っているんだ」


正直だ。

守るものを失った。

次に来るのは自分の命だろう。


悪魔の契約で得たのは

全盛期を超える肉体だ。

寿命を延長してくれではない。

秘術を使い老人化したヨハン

あそこから寿命はどの位残っているのだろう。

肉体こそ若者だが

残された存在の力はそのままだったとすれば

いつ死んでもおかしくないレベルの老人

せいぜい何年ってところだろう。


いかにも


いかにも悪魔の所業だ。


「俺にも分からない。嘘じゃなく

デビルアイで健康状態は判別できても

未来は見えない。寿命なんて表示されないんだ」


時空系に精通したババァルの上位版なら

見えたのだろうか。


しばらく沈黙が続く

奥のキッチンでストレガが調理する音だけが

リビングに聞こえていた。


「そうかーじゃあ、どうすっかな」


テーブルについていた両手を後頭部に回し

ソファにふんぞり返るヨハン。


吹っ切れてないないだろうが

考えても仕方が無いのも事実だ。


俺は提案した。


「なぁ、良かったらココで余生過ごさないか」


ストレガ一人じゃ広いし

なにより寂しいだろう。

メイド・バイ・アモンの

真ん中のお兄ちゃんなんだしな。

クエストには行かなくても

登録だけで身分は新たに何とかなる

・・・・自分が食う分位は稼げ。


丁度、つまみが出来た。

そのまま酒盛りになった。

俺は提案を二人に説明した。

自分が居なくなる事は明言を避けたが

二人ともそこは察しているようだった。


ストレガは俺がそう言うならと

納得してくれた。

ヨハンの寿命の件も説明してあるので

そこも気を使ってくれたのかもしれない。


ヨハンは申し訳無さそうだった。

「何から何まで済まねぇ」と恐縮するが

「兄だから当然だ」と言っておいた。

と言うか、この二人の運命を

変えてしまったのは俺なのだ。

二人とも望み

俺はそれを叶えた格好ではあるが一切責任を取れない。

それが俺の心に引っかかったままだ。


贖罪のようなものなのかも知れない。

身勝手だ。

俺はどこまでも身勝手だ。

そしてこれから行う決戦も

俺の身勝手ゆえだ。


いつ死ぬか分からない改造人間と

いつまで生きるか分からないアンデッド

その二人が暮らす家。

俺がこの世界に残すモノとしては

どうなんだろう

力に見合わない粗末なものなのか

時間的にみれば大した偉業なのか


ただ

二人の笑顔はイイものだ。


三人兄弟で少しの間

人間の暮らしをしてみたかったが

その時間は残念ながら無い。


戦いで始まり

その場にヨハンがいた。

そして最後の戦いの前に

ヨハンと話しが出来た。

なんか運命めいたモノを感じずには居られない。


そして最終決戦の日を迎えた。

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