第71話 G級相手の模擬戦
「クロード分かってると思うが・・・。」
「分かってるよ。殺しやしないって
ただ腕前だけはちゃーんと見させてもらうぜ」
前を歩く二人、ガウとクロードの
ひそひそ話を俺の悪魔耳が捉えた。
ソフィは二人から遅れて俺達と並んで歩いている。
ストレガの装備、特に余裕綽錫に大注目していた。
「あげませんよ」
視線に気が付いたストレガは余裕綽錫を
ソフィから遠ざける様に持ち替えた。
「あなたその」
「ストレガです」
「失礼、ストレガ。その杖は誰の作品なのかしら」
ストレガは判断を俺に仰ぐ様にこっちを見た。
「俺達に勝ったら紹介しよう」
俺はそう言ってソフィを見た。
赤毛に近いブロンド、背も近いせいかババァルを思い出す。
装備のせいで体格は分かりにくい
金属は使用していないが異なる素材の皮や布を
幾重にも重ねた構造だ。
デビルアイで見たら
アリャー
こいつアサシンだ。
夜に死んでもアサシンだ。
もう隠し武器だらけ
肝心の体格は細マッチョ女性版だ。
瞬発力より持久力に向いた筋肉だ。
「本当!お願いね」
クールな顔が明るく輝く
この女、道具マンだな。
同じ実力なら使っている得物の差がモノ言う
その発想がスタート地点で
新商品を購入せずにいられなくなるタイプだ。
ゴルフを趣味の人に良く見受けられる。
アサシン
なるほど要人の護衛には向いている。
皇女であるグロリアを狙う者を事前に
刈り取っているのだろう。
ハンスなども話題にしなかったのも
彼女の隠密性を損なわない為の
気遣いか。
或いは本当に知らない可能性もある。
クロードと親しげに話していた事から
元冒険者なのかもしれない。
叩き上げの実力者そんなところだろう。
しかしこれは
笑いが止まらん
血肉を持たない俺達には
アサシンの最大の武器
毒は全く効果が無い。
協会の地下は訓練兼闘技場になっていた。
俺達は左右に分かれる。
ガウがルールの説明をしている間に
周囲の観覧席がどんどん埋まっていく。
ルールは殺さない事
参ったと言うか。
動けなくなったら負けだそうだ。
「お兄様」
「ストレガはソフィを相手しろ」
ソフィがアサシンである事と隠し持っている
武器を解説し予想される攻撃を教えた。
「雷撃で適当にいたぶれば参った
してくれるんじゃないかな」
「はい。後ですね、色々試したい呪文が」
ストレガちゃんウキウキだ。
魔王図鑑をヒントに劣化版を習得出来た様子だ。
俺は「殺すなよ」と念を押しておいた。
自分の得物を外して訓練用の刃を入れてない
ロングソードに持ち替えようとしているクロードに
俺は気が付き、そのままでいいと声を掛けたが
クロードは余裕で答えた。
「いや、それじゃあ殺しちまうぜよ」
まぁいいか
それならこっちも対応を変えるだけだ。
両サイドに分かれ対峙する。
ガウが「始め」と声を掛けた。
それと同時にソフィは腕を振り下ろす。
五寸釘程度の先の尖った金属棒が
2本、そして寸分たがわぬ同じ位置に
続けて2本投げられた。
着弾地点はストレガの右肩と左太ももだ。
最初の2本を弾いても、次の奴が刺さる。
上手だな。
デビルアイで先端に麻痺毒が
塗布されているのも確認出来た。
優しい人だ。
これならかすり傷程度で動けなくなってお終いだ。
致命傷には間違ってもならないだろう。
俺が全部叩き落としても良いが
ストレガがどうするのか気になった。
見ててみよう。
ストレガは左手をかざしアルミ粉を射出した。
同時に右手内部の短杖で雷撃で着火する。
惜しいのは呪文の掛け声の方が遅かった点だ。
派手な光と音で爆発というより
閃光弾のような炸裂だった。
防御と目くらましを一手で済ませた。
爆風でソフィの棘はどっかに飛んだ。
「うおぉっと!」
ソフィの投擲に合わせてストレガ目掛けて
飛び込んだクロードはモロ爆発に巻き込まれた格好だ。
格下相手なのに
一対一づつ二組じゃあ無く
二体一を二回で確実に仕留めにくるなんて
気に入ったぞ。
完全膝カックン耐性でクロードの動きを
補足していた俺はストレガの直前で
弾き飛ばすつもりでわざと出遅れた。
それが功を奏した。
閃光の爆発に巻き込まれないで済んだ。
俺はクロードの前に躍り出るとワザと
音がする様に感謝祭を水平斬りで振る。
視力を奪われたにも関わらず
音だけで攻撃の位置を読み取った
クロードはロングソードを
軌跡の間に入れ防御を試みた。
それを確認した俺は検速を上げロングソードを切断
刀身は落ちないように左手でキャッチ
感謝祭はクロードの喉元で止める。
喉元の刃を悟ったクロードを
確認すると俺は左手の切断した
訓練用のロングソードの刀身を振りかぶって
クロードの頭に叩きつける。
力加減は脳震盪程度で押さえた。
「本当だ。死なないや」
崩れ落ちるクロード。
その間にも横では連続して雷撃の放電音がずっとしていた。
恐る恐る見てみるとストレガが発狂していた。
「参ったって言わない。まだ動いている
参ったって言わない。まだ動いている
参ったって言わない。まだ動いている」
倒れたソフィは雷撃の度にビックンビックンしている。
ソフィは自発的に動いているのではなく
雷撃の電気ショックで筋肉が収縮して
「お前が動かしているんだよ」
俺はストレガの右手を掴んで雷撃を止めさせた。
「ガウ!何で止めない」
俺はガウの方を向いて
制止しなかった事を責めたが
それは酷というものだった。
ガウは弾け飛んだソフィの棘が刺さって麻痺していた。
あちゃあ
開始から数秒で決着だった。
三人は闘技場すぐ横の医務室に運び込まれた。
俺達はスィート階下の協会事務室
そこのベレン支部長の部屋に呼ばれた。
ここのボスだな。
「すまないがGへの昇格はできない」
「約束が違います。」
いきり立つストレガを制止し椅子に
戻させると俺は口を開き理由を尋ねた。
「G級への昇格には複数の支部の
承認が必要になる。推薦状はもちろん
用意するが・・・」
「やらせておいて、負けたら出来ませんそんなズルい」
また、いきり立つストレガちゃん。
俺は再びストレガを席に戻してなだめる。
「現役G3が駆け出しE3に敗北など
万が一にも考えていなかったんだ。
この場合、悪いのは権限も無いのに
賞品を提示したクロードと知っていながら
止めなかったガウだ。
支部長はむしろ被害者だ。」
「そう言ってもらえると助かる」
支部長は長いため息をついた。
「本当にあいつらはには昔っから」
そこから支部長の愚痴が始まった。
ガウも数年前までは現役のG2冒険者で
引退後、協会幹部になったそうだ。
現役時代のパーティメンバーの中に
クロードとソフィが居て
ベレン支部唯一のGパーティだったそうだ。
そのせいでその頃から我儘放題。
ガウの引退に合わせてソフィは以前から
スカウトされていたベレン政治執行部の
誘いを受け、冒険者を引退。
今に至る。
「で、現実問題として俺達のランクはどうなるんですか」
放っておくといつまでも愚痴が
続きそうだったので、適当なタイミングで
俺は支部長に聞いた。
「一支部の権限、最大のH1の位、
G3までの評価値と推薦状をつける。
ここからは他の支部に赴いてもらう
しかない。クロードとガウにも
罰として君たちがG3になれるまで
無償でサポートさせる」
「それで了承です。ただサポートは遠慮します。
それより自由の方がいい。ストレガも
それでいいかい」
「お兄様がそれでいいなら私は何も」
あっさりしている。
自分の地位云々ではなく俺の扱い
これに怒っていたのか、お前良い
嫁になりそうだな。
・・・・人間だったらだけど
「話の分かる人達で助かったよ」
支部長は立ち上がり握手を求めてきた。
俺もそれに習い同じように立ち上がり
握手に答える。体温を36度にする事も忘れない。
「ついで、と言ってはなんですが
アドバイスが欲しいんですが」
このタイミングなら断れないだろう。
「ん、内容は」
俺はベレン内に住居が欲しい事を伝えた。
「H1の冒険者なら身元の保証は
問題無い。場所は一般に開放されている
所なら選び放題だ。」
俺は条件を伝えた。
教会から離れていて
協会と領主邸には近く
治安は良いに越したことは無く
可能なら要人の居る内壁内の一軒屋だ。
「引っかかる条件は無い、可能だ
ただウチも不動産屋じゃあないんでな
業者に私名義で丸投げに」
俺は手でそれを制して言った。
「条件的に問題無い事が分かれば
後は知り合いに当たります。
その時こちらに戻らなければならない
そういう行ったり来たりを避けたかったのです」
「そうか。もし資金の問題があれば
協会でもある程度低金利で都合がつく
内壁内はケタが二つ違う」
「その時はお願いします」
無いけどね。
金の在庫は豊富だ。
丁度その時受付嬢が俺達の
プレートを持って入って来た
なんだH1でもう作ってあるんじゃないか
この支部長、交渉とは押し切る交渉だったな。
俺達は銀のプレートを受け取る。
名前その他の確認もした。
運んできた受付嬢はアイリと
同じデザインだが装飾が凝ったVerだった。
「こちらがこれから君たちを担当する」
新しい受付嬢を紹介しようとする支部長。
俺は言葉を切るように強めに言った。
「俺達の担当はアイリでお願いします」
「いや、しかし彼女はEクラス担当の」
「そのEクラスの俺達が昇進したのなら
担当のアイリも同様にして欲しい。
駄目なら全て白紙。他の支部で一からやり直します」
支部長は天を仰いだ
どうしてG級の連中はどいつもこいつも
ハンコを押した様に問題児なんだ。
そんな心の声が聞こえてきそうだ。
「わかりました。彼女の制服の
用意が間に合いませんがそれは
ご容赦してください。」
「なんなら裸でも構いません・・・ゴクッ」
「そうか特例には特例で・・・ゴクッ」
「お兄様」
「支部長」
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