第70話 冒険者ランク

抱き上げていた児童をヤングママに

丁寧に渡すと奥歯のスイッチを入れ

超加速で衛兵とヤングママから逃亡した。


ぐるっと周回しながら冒険者ゼータにチェンジし

服装も変えた。

同じじゃ変だ。

そして

何食わぬ顔でその場に合流した。


「お兄様!」


衛兵とヤングママに気を使ってストレガが

若干大袈裟に近づく俺の身分を保証する発言をしてくれた。

本当に有能だわこの子。


「ストレガ何かあったのか」


ゆっくり歩み寄りながらペンダント形式に

加工した冒険者プレートを衛兵に見せる様にした。

ストレガは俺に頭を下げる。


「申し訳ありません。賞金首を逃しました」


この発言も暗に衛兵の追跡を止める効果がある。

猟犬である冒険者が諦めたのに

自分達が捜索しても意味無いと発想させるのだ。


「良い。発見出来ただけでも大したものだ。

なにせ相手は、あのアモンなのだから」


衛兵がハッと何かに気づいた様な顔をする。

分かってなかったのか。


「一攫千金を狙うのは結構だが

身の丈にあった依頼にしておけよ」


そう言い残して衛兵はヤングママを連れて去った。

丁寧にお辞儀をして見送るストレガは

俺の様子の変化に気が付く。


「どうかしましたかお兄様」


「なんだ身の丈って・・・」


「仕方ありません。二人とも最下級の冒険者ですから」


「金貨何枚使ったと思ってるんだ」


「・・・・お兄様。」


ものすごく呆れた顔になったストレガ。

それでも冒険者のランクの説明をしれくれた。

親切丁寧に教えてくれるストレガに

俺は今更ギャグだったとは言えなくなり

知らない振りをして聞いた。


仕組みはよくあるゲームと全く同じだ。


ランクによって受注出来るクエストに

制限があり、達成したクエストでランクは上がる。


「よし、ストレガ。一攫千金で一気にランク上げるぞ」


「いやです。お兄様を差し出すなんて」


なんで俺がターゲットのクエ限定なんだ。


「あ、背格好の近い他人の顔を改造して

成程・・・さすおに」


駄目だよ。

何てこと思いつくの、この子は

ストレガちゃんマジキチわろえない


「しかし、天使の方は・・・。」


クエストなどやっているヒマは無い

そう言いたいのであろう。

そこは説明してた。


「残り二人を含めて天使達は

審判の日まで行動起こさない。」


首を傾げるストレガ


「どうしてそう言えるのですか」


「女神に言わせると一番偉い天使は俺に似ているそうだ」


俺は続けて根拠を説明した。


「俺ならここは守り一択だ。既に二人やられている

俺を捜索する為に戦力を分散して各個撃破されてみろ

戦力は下がり、民は怯え、信仰は下がるし良い事は何もない。」


出てくるなら俺が消耗した今だ。

なのに出てこないという事は

守りを選択したという事だ。


「教会に居る限りは絶対安全で有利だ。

全戦力をそこに集結で迎え撃つ構え

来なければ来ないで審判の日が来て

それで勝ちだ。倒しに行くメリットが無いんだ」


長文が珍しいのか

ストレガは目をまんまるくして

聞いていた。


「だから絶対に出てこないよ」


「はい。」


残りの天使には、こちらも準備が必要だ。

丁度いい。

それに、冒険者のランクは

俺が居る内に上げておいた方が

後々ストレガの為になるだろう。


「時間はそんなには無いが手っ取り早く

少しは上げられる」


準備は公園で済ませて

俺はそのまま冒険者協会にストレガと戻る。

サンタクロースのようにでっかい布袋を

背負って教会に入った。


「これだ」


クエストが張り出されたボード。

その隅っこの方に大分昔に張られた

羊皮紙を指さす。


「納品?」


受注ランクの指定はおろか

受注すらない納品クエストだ。


通常では入手しづらい薬草や鉱石などを

協会はいつでも引き取る。

前人未踏の地まで足を踏み入れる冒険者は

希少な素材、その需要を満たす貴重な人材だ。


羊皮紙には買い取り価格が個別に書かれている。

価格はそのまま冒険者の評価値になり

ランクに反映される仕組みだ。


ある程度まではコレで勝手に上がるが

ある一定のランクではテストをクリアしないと

上がらないランクが待っている。


一定の腕前の保証になるワケだ。


上から

G1(グレート)金

G2

G3

H1(ハイ)銀

H2

H3

S1(スタンダード)銅

S2

S3

E1(エントリー)木

E2

E3


となっていて、まだなんの実績も無い

俺達は当然E3だ。

戦闘が想定される依頼はSからなので

そこまでは地味な依頼しかない

それこそ迷子の猫探しとかまである。


末尾の金属はプレートの種類で

そこに数字と名前、裏には認定した都市が掘られる。


本当はアルファベットじゃないのだが

分かりにくいので俺の世界に当てはめた。


「お願いしまーす。」


丁度、宿の話をした受付が空いていたので

袋をドサっゴゴゴゴロミシミシっとカウンターに置いた。


「の・・・納品は」


場所が違うと言われた。

受付はわざわざカウンターから出てきて案内してくれた。

袋も持とうとしてくれたのだがビクともしない。


だろうな1トン近くあるのだから


やんわりと自分で持ちますと受付嬢を下がらせ背負う。

受付嬢はお礼を言いながら俺達を案内してくれた。


「なんか随分親切だな」


その疑問にはストレガが小声で答えてくれた。

受付にもランクがあり担当の冒険者が

決まっていて冒険者の活躍に合わせて自分の

格付も上がっていく仕組みだそうだ。


成程、いい仕組みだ。

駆け出し受付は当然、駆け出し冒険者しか

担当させてもらえない。

彼等を育てなければ自分も這い上がれない。


というか一緒に育つのだ。

難易度の高いクエストの説明や

助言などいきなりは無理だ。

ベテラン冒険者も何も分かっていない

新人を当てられても困る。


つまり彼等にしてみれば将来有望な

新人冒険者にうまく巡り合えるかどうかで

人生が変わって来るのだ。


納品の受付はなんと外だった。

納品の中には魔物の部位なども

あるので室内だと問題が多いのだそうだ。

受付嬢に言われるままにプレートと納品を済ませる。

鑑定終了後に呼ばれるので

それまでは中でくつろぐことにした。


俺もストレガも食事は必要ないのだが

何も飲まず食わずも変なので茶だけ注文した。


結構待たされた。

もしかして忘れられている

いや、受付詐欺で品物もって

トンズラされたんじゃあと不安になる位の時間だ。


「お兄様。時間かかり過ぎでは」


やはりストレガはそう考えた様だ。

だが、俺はセンサーで納品した鉱石が

まだ元の場所辺りから動いていない事が

分かっているのでくつろいでいる。

ストレガにもその説明をした。

そんな時、俺達のテーブルに

近づいてくる大男・・・って人間じゃないな

2m位あるし、なんか顔も人の倍くらいある

遠近感が狂う、何族だ?


「この鉱石はどこで手に入れたぁ」


声もでかい


ドタドタと大男の後を受付嬢が追ってきた。


「ガウさん。ダメですよ規約違反になります」


なんでも情報にも価格が付くそうだ。

それはそうだな。

苦労してみつけたスポットを

発見者は独り占めにしたいだろうし

他の人はあやかりたいだろう。


受付嬢はペコペコ謝りガウと

呼んだ大男を引っ張って戻そうとしている。


ガウが何族か聞いた

受付嬢はガウはドワーフだと教えてくれた。

この世界では小人じゃないのね。


鑑定に時間が掛かったのは

納品物の中にミスリルがあったせいだ。

担当したドワーフでは判定出来ず上司

また上司と呼び出して遂に幹部の

一人であるガウのお出ましになったが

初めて見る金属としか言えないそうだ。


「じゃあ、それは返して」


「いややややや、是非納品してくれんか」


ガウは興奮している。

鉱石好きの設定はドワーフそのままなんだな。


「だって値段が付かないんでしょ」


「付かん。個人的に欲しい

交渉じゃ金貨10枚でどうじゃ」


俺は受付嬢の方を向いた。


「えーっと・・・。」


「アイリです。」


アイリは名札のプレートを見せる様に

ちょっと胸を突き出す。

結構胸大きくないか

揉みたい

頼むババァル俺に時間停止を


『お断りですわ』


ですよねー。


「お兄様」


ストレガからも突っ込みが入った。

鋭いな

俺が分かりやすいのか


「んんっこれ違反にならないの」


俺は咳払いをしてから聞いた。


「そうなんですけど。それを判定する幹部自ら・・・。」


「っじゃあ取引だ。金より地位が欲しい」


「・・・わしの一存では」


「手っ取り早い試験とか都合出来ないか」


要は他の幹部も、これなら

相応しいと判断出来ればいいハズだ。


「クロード!」


ガウは振り向き、別のテーブルに

腰掛けている男女にいきなり声を掛けた。


「地下で一発、試合を頼めるかぁ」


クロードと呼ばれた男は席から

立ち上がりこっちにやって来た。

俺と同じようにペンダント状に加工した

冒険者プレートは金で3の文字が見えた。


「ガウには色々借りもあるし、いいぜよ」


女の方も立ち上がりこっちにやってくる。

こっちはプレートが見当たらない。


「私もよろしいかしら」


この声は聞き覚えがある。

グロリアと同部屋のもう一人だ。

セドリックとガバガバの関係から

察すると、この人も勇者パーティか


「あなた、魔法使いなんですって興味あるわ」


女性はストレガを見ながらそう言った。


「プッ・・・ソフィ止めろって」


クロードが魔法使いのキーワードで噴いた。

なんで受けたのか

俺はそっとアイリに聞いた。


「そのジョブを名乗る人は100%詐欺師だからです」


小声で言いづらそうにアイリは教えてくれた。

確かに登録の時も周りが変な目で見てたっけな。


「丁度良い」


本当に丁度良い。

この世界初の魔法使い

それを公に認めさせるいい機会だ。


「で、この二人に勝ったら何ランクにしてくれるのかな」


クロードとソフィに殺気が走る。


「勝つのは無理だぞ。クロードは

この協会の一番の戦士だし・・・

そっちの姉ちゃんは勇者のパーティメンバーだ」


ガウは俺をなだめる様に言った。


「私もそう思います。お兄様」


ありゃ

ストレガちゃんも殊勝だ

と思って見てみると

超怒ってる

ヤバい


「確かに殺さない様に勝つのは少し

難しいかと、威力の弱い呪文は苦手ですので」


ギラッ

そんな音が女子二人から聞こえた気がした。


イヤッハー面白い。

もっとやれ


「ハーハッハ面白いぜ。そうだな

勝てたら同じG3にしてやるぜよ」


クロードは拍手をして大声を出す。

にわかに冒険者の酒場がざわつき出し

俺達の周りに人垣が出来始めた。


「G3・・・まぁ最初だしそれでもいいか」


ギラッ

そんな音がクロードと俺の間に聞こえる。


「アワワワワ」


慌てふためきオロオロしているアイリを

俺は捕まえて鑑定額を聞いた。

こんな分かり切った勝負よりそっちの方が気になる。


「そんな事よりミ・・謎の鉱石を除いた

鑑定額はいくらになったの」


金額を即答するアイリ。

俺はその額に該当するランクを聞いた

S2までいける評価値だった。


「じゃあ、負けたらS2で」


「じゃあ行くか。アイリ、S2のプレートを

作って待ってるぜよ」


クロードとソフィは踵を返して

地下に通じる階段に向かった


「アイリ、S2のプレートを準備して

いたら、ぶっ殺すからなぜよ」


俺がそう言うと

アイリは泣きそうな顔になった。

ふふ

良い恐怖だ。


俺の後頭部に余裕綽錫の一撃が入る。


「お兄様。相手が違います。

ごめんなさいね」


ストレガはアイリに謝ると席を立つ。


俺達も地下に向かった。

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