第61話 魔王とデート です

夜にベレンに戻る。

教会にも俺の部屋が用意してあるらしいのだが

ハッキリって休めない。

完全人化なら問題無いのだが

悪魔の力が使えないので夜なべも出来ない。

更に戦闘力の低下から常に不安が

付きまとい落ち着かないのだ。


門の通過も面倒なので

夜の闇に紛れてベレンに侵入すると繁華街に足を向けた。


適当に宿を取ろう。

どうせなら酒も飲みたい

元々飲む方では無かったが最近の忙しさ

まるで休みが無い事で人としての精神が

参ってるのではないのだろうか

堅苦しい事も多かったしな

今夜は一人で自堕落な人間で行こう

明日も一日休んでしまえ

夜に飛べば俺なら

ガバガバにも追いつける。


ベレンの北側の繁華街に足を運んだ。

噂では北側は冒険者が多く滞在しているらしい。

そういえばストレガの居た怪しい森も

ベレンから見て来たに位置する。


魔物が多く出るのだろうか

悪魔のアバターでINしてしまい

こんな事に巻き込まれてしまったが

通常の冒険者でINしていれば

お世話になる場所かもしれない。


もし

もし俺がNPCで無く

なんらかの理由でまだログインしていて

ログアウトして現実世界に帰還して

そしていつか製品版をプレイして

また、ここに来れるなら

先に知っておいても良さそうだ。


そうでなくても興味はある。

噂などで情報もあるだろう

俺は冒険者のたまり場を探す事にした。


ご丁寧に町の地図が看板であったので

冒険者協会、冒険者の元締めの建物を

見つけたので、そこを目指す。

その周囲には宿屋や武器屋なども集まっているハズだ。


すれ違う人の服装が中央とは明らかに変わって来た。

鎧を着たままの奴も多い。

それぞれ装備はバラバラだ。


「尾行されてるな。」


半人化なので各種センサーは生きている。

同じ人間がずっとついてきているのが分かる。

俺は念のため角を右折を繰り返した。

ぐっると一周回る形だ。

これでもついて来るなら間違い無い。


「気のせいか・・・。」


そいつは付けて来なかった。

それとも俺が気が付いたのを察知したのか

いや、考え過ぎだな。

自意識過剰だ。

バイオレンスな事が多すぎなのがいけない


「やっぱり息抜きが必要だな」


程なくして目的付近に到達した。

なんと協会の建物そのものが酒場と宿屋だった。


入ると中はすごいバカ騒ぎだ。

何かあったのかと近くの人に聞くと

いつもこうらしい

通常の職業と違い死亡率が高い仕事だ。

そのせいか金払いのイイ人が多いそうで

稼いだら使う、楽しめる時に大いに楽しむらしい。


空いている席を探したが見当たらない。

どうしたものかと思っていたら

近くの3人組が空いている席に座れと言って来た。


気さくだな。


俺は礼を言うと。

何言ってんだと言われた。


「お前すごい剣背負ってるな」


3人組はパーティらしい

そのリーダーと思われる男が

なれなれしく言って来た。


そいつは腰からショートソードを

ぶら下げている。


移動や洞窟内での行動を考えたら

大剣より断然使い勝手が良い。

空いた片手に盾を持てるのも強みだ。


注文をしようとしたら冒険者のプレートを

出せとウェイトレスに言われ

無い、冒険者じゃないと言ったら驚かれた。


「もしかして専用なのか」


そう言うワケでは無いらしいが

支払いはプレートで個別にツケで

基本現金でやり取りしていないそうだ。

クエスト報酬から引かれるらしい。

仕方が無いので取り合えず金貨を渡し

こういう時はアレだ。


「店自慢一人前、酒と宿も」


と言ったが「多すぎる」と

ウェイトレスが困ってしまった。

面倒なので俺は$袋ごと置いて

客全員分奢りでいいと言った。


金の力はすごい

どいつもこいつも皆、親切になって

聞いた事をなんでも答えてくれた。


お陰で大体の情報は集まった。

食事と酒を楽しみたかったので

人化した俺は久々のアルコールに

すっかりやられ、程なくして

ベッドに倒れ込んだ。

部屋までどうやって案内されたのか

覚えていない。


朝、日差しで俺は自然に目が覚めた。

元の世界でも会社の飲み会などで

潰れたことはあったが

不思議と二日酔い状態では無かった。

酒そのものが違うというのもあるのかも知れない。

途中から全く覚えていない。

なので

なんでババァルが一緒に寝ているのか分からない。

ババァルは素っ裸だが

俺は下着姿なので

間違いは起こしていない

と、思う。


なるたけ見ない様にベットを抜け出て

そのまま毛布をグルグル巻いておいた

でっかい春巻きみたいになった。


喉の渇きがハンパでは無かったが

備え付けの水差しは空だった。

使った後があるので

多分、自分で夜飲み切ったのだろう


俺は空の水差しを持つと

空いた手の方で冷却結露で

水を注ぐ、200cc位溜まっては

一気に飲む、それを数回繰り返して

喉の渇きを癒す。


だいぶ目が覚めてきた。

そこで気が付く

俺は完全人化状態だった。

それなのに冷却結露が出来た。


「お、生身でも魔法が使える様に俺も成長したのか」


これは嬉しいぞ。

これなら教会内でも少しはマシになる。


小躍りして喜ぶ俺に

春巻きが否定してきた。


「残念ながら違いますわ」


起きたのか

俺は春巻きの上にのしかかり

あっちゃこっちゃ揉みしだく


「何が違うんだ」


しばらくキャッキャした後

着替えているババァルにそう聞いた。

見ない様に背を向けている。


「人化が衰えているのですわ

そのうち完全には出来なると

思われますわよ。」


「なんで・・・だ」


上位版デビルアイで見られているのを感じる。


「最初に比べると・・・適当ですわよ

意識と体が人間だった頃を忘れてきているのではなくて」


今も視覚外からのデビルアイを認識できた。


「確かに最近は人でいるより

悪魔でいる時間の方が圧倒的に長い」


疲れない、腹も減らない、などなど

圧倒的に便利なのだ。


最近では人でいるのは

教会内に居る時ぐらいだろう


「まぁ仕方が無いか・・。」


あまり人の身体に未練は無い。


「それよりいつ来たんだ」


着替え終わったババァルが横に来る。

俺はそっち向きながら

そう言って、ババァルの姿に声を失う程驚いた。


ババァルはいつもの妖艶な魔王服ではなく

そこいらによくいる町娘の恰好だ。

化粧も夜用では無く控え目だった。

でも隠し切れないナイスバディ

アンバランスな柔和な顔。


ヤバいどストライクだ。

メチャクチャにしたい。


「まぁ酷いですわ。あんなに熱い夜を」


ババァルのセリフをカットするように

俺は否定する。


「過ごしてないから。俺は酔うとダメだから」


元の世界での話なので多分だが

ババァルの様子は完全に俺をからかうモードなので

間違いないだろう。


ババァルの話によると

来たのは完全に俺が酔っぱらって

騒いでいる最中だったそうだ。

昨夜の尾行も勘違いでは無くババァルの手配だった。

出来るだけ人目に付かず更にハンスや

ヴィータの居ない時を狙って転移してくる気だったようだ。


腹が減ったのでババァルを朝食に誘う。

ババァルは処刑未遂の時の事を懸念して

人前に出たくないと言ってきたが

その心配は要らないと説明した。

服装や化粧で、もう同一人物とは

知り合いしか分からないレベルだ。


本当に女は化ける。


夜にバカ騒ぎした一階は別の場所の様に静かだった

人もまばらだ。

朝食は昨日の$袋のお陰で

二人分サービスしてくれた。

あまりうまくは無いが暖かいパンとスープを

それぞれ頂きながら俺は話しの続きを促した。


「ふふ、今日はおヒマでしょうか」


丁度、休むつもりだったので

俺は肯定した。


「で、では私をデートに誘っていただけませんか」


どうせ休むつもりだったので

俺はババァルの申し出を快諾した。

ただ


「ただ?」


「順番がおかしい。男のベッドに裸で

潜り込むのがデートより先なのは変だ。」


ババァルはカワイイ笑顔で

時空系を使うので通常の時系列は

通用しないと答えてきた。


ババァルに限っては結果が先にあっても良いのか。

ゲイボルグみたいな女だ

恐ろしい。


「では、参りますわよ」


部屋をチェックアウトした後ババァルは

そう言って転移を発動させた。

例の時の歯車が空転する感覚が

自分の周りで起こる。

目の前で何度か見ているが

自分が転移するのは初めてだ。

俺は本気で焦った

対処しようの無い現象だ。

視界は白一色に変わる。


歯車が空転を止め

それぞれギアが噛み合わさる。

転移が終了する様だ。


視界が戻ると

そこは

そこは


「ここはどこだ?」


見た事もも無い場所だ。

町の中なのだが行き交う人々が多種多様の種族だ。

人型が多いが人間が居ない。

トカゲっぽかったり

犬っぽかたっり

虫っぽい奴もいれば

元ネタが何だか分からない

カンブリア紀の生き物みたいなのも居る。

ここの創造主は相当酔っていたな。

俺は葉巻があれば、咥えてそう言いたかった。


キョロキョロ見回す俺を

何やら嬉しそうに見ているババァルは

俺の質問に答えてくれた。


「魔都、デスデバレイズですわ」


建物は平屋が多い

というか建築技術が発達していないのだ

文明レベルはバリエアはもちろん

ベレンにも遠く及ばない。


「東の魔都・・・ここが」


来たかったので素直に嬉しかった。


「ご案内致しますわ」


その後、俺はババァルに案内されて

魔都をあちこち案内された。

転移を多用したので

もうホントあっちこっちだ。

山だったり、川だったり

海辺だったり、などなど

全部紹介する気か・・・。

転移酔いしそうだ。


「感想はいかがでしょうか」


牧場でいいんだよな

なんか牛サイズの羊みたいなのが

大量にいる草原で昼メシを頂き、休憩中に

ババァルはそう聞いて来た。


「なんか思っていたのと違う

随分と平和なんだな・・・。」


魔都

その言葉の響きから

血で血を洗う修羅の国みたいなのを

勝手に想像していた。


「中央は平穏ですの、国境付近は・・・。」


人族の侵攻を食い止める戦場だそうだ。

この大陸は降臨の有った山脈を中心に

東西で人族とそれ以外に分かれている。


人と仲良く出来ないのか

俺はそんな愚問がつい出そうになり

慌てて飲み込んだ。


人、彼等の信仰する神は

自らの姿を写した人全ての父であり

人以外の存在を許さない。

身体的に圧倒的に劣等な人族は

魔物の良い獲物だ。


手先の器用さで爪や牙の替わりに武器を持ち

鱗や頑丈な毛皮の替わりに鎧を着て

一人では敵わない相手に結束して立ち向かい。

恐怖に飲まれない様に神の加護を信じ祈ってきた。


魔都の文明レベルの低さは

逆に言うと彼等の身体能力の高さであり

人の文明は人の弱さを補なって来た

知恵がもたらしたものだ。


「・・・・アモン。」


しまった

デート中なのに考え込んでしまった。


慌ててババァルを見るが

ババァルも何やら考えに耽ふけっていた様だ。


「・・・何」


俺はババァルにそう返事をした。

ババァルはテンション低目で言った。


「考えてしまいます。私は魔王などでは

無くただの女で、あなたが魔神でなく

ただの男で出会っていたら・・・なんて」


いやー

つまんねェぞ

サラリーマンの俺は

そう言いそうになったが

ここはロマンチックに行けと

脳内アラームが鳴った。


「そうだな、ババァルは魔王じゃ無かったら何してた」


乳牛?


これも脳内アラームに止められた

優秀だな。


「うーん、そうですわねー

介護とか看護とか弱い人の

世話がしたいですわ」


俺は笑った。

ババァルは不満そうにふくれっ面になる。


「おかしいですか」


「だってそれじゃ今と変わらんよ」


意味が分からないと首を傾げるババァル。


「王は弱き民を全て守るためにある

規模は違えど出発点は同じじゃないかな」


ふくれっ面が治まるババァルは

今度は俺の番だと言って来た。


「俺か?そうだなー・・・。」


脳内アラームが鳴り響く

おい、まだ考えていないぞ

NG出し早くないですか


脳内アラームが鳴り響く

響き続ける。


え?


俺はふと上空を見上げる

脳内アラームが警告を発している

方角は西からだった。


平和な青空を切り裂いて

二つの光が急速に接近してくる

一つは炎のように赤く

一つは緑色で風を巻き上げるながら

それぞれが12枚の白き猛禽類の

翼をはためかせ

神を祝福する歌を歌いながら


猛禽類、もれなく狂暴な肉食だ。

四大天使


天と炎の天使長ミカと才と風のラハだ。


デビルアイで補足した二人は

ヤバイ

許容量以上の神力をギリギリで保っている。

まるで表面張力によって容量以上の

水を蓄えたコップの様だ。

あれ程の力を長く保持出来るハズが無い

彼等の身体が爆発してしまう。

一時的なオーバーブーストだ。


何に使う気だって

おいおいおいおいおいおいおい


「はい、お終い」


ミカがそう言っているのが認識出来た。


放たれる狂暴な力の塊

赤い光と緑の光は

それぞれ炎と風になり

魔都・デスデバレイズに襲い掛かる。


「姫様ーーーー!」


影から飛び出したダークは自らの影に

俺達二人を強引に引きずり込み

一瞬で蒸発して消えた


ババァルは影に放り込まれながら転移を発動させる。


俺はデビルバリアを展開する。


時の歯車が空転する感触と

俺の体表温度が瞬間で1000度に達したのを感じた。


義体の俺

金属粒子の集合体である俺は

こんな温度くらいなんでも無い

俺はな

だけど


人の形をした

真っ黒な炭を俺は抱きかかえて

俺は立っていた。


どことも分からない森の中だ。


東の空が赤く燃え上がる

急なコントラストの変化で山脈は

シルエットを黒く浮かび上がらせる。

暴風と合わさった炎は

山脈よりも高く

文字通り天を焦がす勢いだ。

でも

そんな事今はどうでも良かった。


デビルアイで走査する

魔核が崩壊を始めているのが確認できた。


俺は崩壊を阻止するために

ありたっけの魔力を注ぎ込もうと

気を高めるが

ババァルの制止する声が聞こえた。


「もう、間に合いませんわ」


抱えている炭では無く

正面に透けて見える影がそう言った。

魔核から漏れた魔王の本体だ。

以前ヴィータから教わった

振動数の違いから

体無しでは長時間存在できない本体。


「ババァル。」


「こうなる前にお返事するべきでしたわね

ごめんなさい。婚姻の申し出は

お断りさせて頂きます」


影は丁寧にお辞儀をした。


「そうか。」


俺はそう返事をした。


「こんな体ではもう殿方に愛しては頂けませんもの」


影はさみしそうに言った。


「分かった。」


頷く影に俺は続けて言った。


「じゃあ改めて言うよ

二回目だ。

結婚してくれババァル」


返事は聞けなかった。

抱きかかえている炭は粉々に砕け

腕から零れ落ちた。



正面の影はゆっくり消えた。


出展






ここの創造主は相当酔っていたな。 コブラのセリフ

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