第59話 きになるき
夜は良い。
太陽光でダメージが入るワケでは無いし
月光で魔力が増大するワケでも無いのだが
この暗い世界と星空が俺には合ってる。
飛んでいても目撃されにくいしな。
捜索隊の捜索方法だが
良い方法を考え着いていた
プリプラを探す。
厳密にいうと彼女に渡したサークレット
これがミスリルを大量に含んでいるので
それを探す、あれだけの量があの純度で
存在しているのは現時点で
あのサークレットだけだろう。
俺は金属探知を最大にして
エッダの故郷の村方面をゆっくり飛行する。
反応は意外とすぐにあった。
反応を頼りに加速して飛行した。
すぐに辿り着いたが
俺は声を上げる。
「なんで?」
俺のあげたプリプラのサークレットは
一本の木
その頭頂部にハマっていた。
なんでこうなる
物理的におかしい
輪っか状のサークレットを
この位置にハメるにも
これより上の枝が邪魔になるハズなのだ。
ふと足元の地上を見ると
ぼんやりと輝く光が見える。
回りの木々のせいで気が付かなかった。
デビルアイで見てみたらなんと
いた
太郎だ。
天使カルエル状態で座り込んでいる。
「おい、太郎」
俺は降下して太郎の前に着陸した。
文句を言おうと思ったが
太郎の様子は普通じゃない
疲れ切って精気が抜けた顔。
「何があった。小梅とかはどこだ」
力無さげにゆっくりと腕を上げ
目の前の木を指さす太郎は
信じられない事を言った。
「小梅、木になっちゃった」
「ハァ?お前大丈夫か」
ここでサークレットの不自然さに合点がいく。
頭に被った状態で木に変化したのなら
サークレットより上の部分から枝が生えれば今の状態になる。
こんな誰も居ない場所でわざわざドッキリの
仕掛けをするはずも無い。
太郎の様子からも、この話は本当なのだろう。
そういえばエルフの長は
人型の寿命がくると樹木化が訪れると言っていた。
しかし、プリプラは長でも無いし寿命だって
迫っていたとは思えない。
「いつ、なんでこうなった」
俺の質問に太郎はボソボソとだが答えてくれた。
エッダを迎えに行く途中に「ここだわ」と言って
突然こうなったそうだ。
その以前からも、様子がおかしく
やたら独り言を言っていたと言う事だ。
「それはサークレットのせいだな・・・。」
俺は太郎にプリプラにあげた
サークレットについて説明した。
小梅にした説明と同じなのだが
太郎は小梅から聞いていなかった。
ミスリルを多用したサークレットで
精霊との密接な交信が可能になるように作った。
俺自信が精霊と交信が全く出来ないので
どの程度効果があるのかはテストできなかった。
独り言の正体がコレだと思われる。
「どうして・・・こんな事に」
項垂れる太郎。
恋人が突然樹木化したのだ
心中は俺には想像がつかない
やる気ゼロになっても
これは仕方が無いな。
それよりも
もしかして
これ俺のせいか・・・・。
俺は樹木に近づき
その幹に手を当てる。
「・・・俺のせいなのか」
『違うよ。たけし』
「うわぁ」
頭の中に小梅、プリプラでは無く
小梅の声が響いた。
接触で交信が可能?!
こんなオカルト自分だけじゃ嫌だ
俺は太郎を巻き込む事にした。
「おい太郎!手の平で触っていれば話せるみたいだぞ」
再び座り込み膝を抱えていた
太郎は顔を上げる。
「えぇ?」
「小梅の声が聞こえたんだ
お前は木に触らなかったのか」
「なんか怖くて」
ちょっと分かる
でも色々試せよ
「やってみろって」
俺にそう促されて太郎は立ち上がる。
この立ち上がり方が
天使なので羽を展開して
ふわっと浮くような立ち上がり方だ。
楽そうだな。
こんな時なのにそんな事を思った。
俺と太郎は顔を見合わせ
せーのでお互い手の平を木に当てる。
『もーいくら話しかけても全然通じないだもん』
「樹木には音声を出す器官は無いだろ」
俺は当たり前の事を言った。
太郎は目を見開き言った。
「小梅の声だ」
「だろ」
『だってあたしだし』
「「なんでこんな事に」」
被った。
『えーとぉ・・・』
小梅の梅の梅の説明は時系列がしっちゃかめっちゃかで
取り留めが無かったが纏めるとこういう事らしい。
サークレットの効果は絶大で
今までは何となくそんな気がする程度だった
精霊の気持ちがはっきりと言葉で認識でき
意志疎通が可能になったそうだ。
で、その精霊が必死にプリプラに
樹木化を懇願したそうだ。
長で無いプリプラが樹木化するには
精霊の力が交差し、より濃くなっている
場所でないとダメだそうで
それがこの場所だったそうだ。
『で、いいよー言っちゃったんだ』
「良くねぇだろ」
「そうだよ。元に戻れないのかい」
『ごめーん。戻れないっぽい』
「なんで樹木化する必要があったんだ」
『んーなんかーとにかく必死で急いでいたの。
これでももう間に合わないかもだって』
このセリフの意味を
俺は深く考えるべきだった
後で後悔した。
「いや、知りたいのは
いつかじゃなくて何でかなんだが」
『それがーもう木になると精霊と
合体しちゃうみたいでーもう
あの子と話せないの』
だめだこりゃ
しばらく三人で話をした。
最初は気持ちが高ぶっていた太郎も
小梅が予想外に落ち着いていたので
安心したのか、だんだんと冷静になっていった。
「木にチェンジとか新しいな。さすが太郎の会社」
「いや、こんな仕様は無いよ」
『ねー木ってクラスになるのそれともジョブ?』
「ジョブじゃねーの。ジョブツリーってあるじゃん」
「いやソレ実際の木は関係無いでしょ」
「なぁ、やっぱり梅の木なのか?」
「小梅だけに」
『えーわかんなーい』
ここに来てやっと普通に話せた気がした。
大学時代の事件の前様に
サークレットの件に関して
小梅は俺を恨んでいなかった
むしろ感謝された。
自分が何をするべきか
それが分かって、頼りにされて
答えられて、嬉しかったそうだ。
『太郎ちゃんにはゴメンねだけど・・・。』
「いいよ。小梅がそうしたかったのならそれでいいよ」
「あーそれでゲームの進捗状況なんだが・・・。」
俺は別れてからの経緯を二人に説明した。
「ゴメン。俺、全然役に立っていないよね」
太郎は謝罪するが責める気は無い
「いや、ゲームより彼女が大事だろ」
これを見誤ったゲーマーの私生活リアルは
百パーセント破綻するのだ。
その後の方針だが
太郎はここで電源の落ちるその時まで
小梅と一緒にいるそうだ。
俺は「そうか」と言っておいた。
たまに報告に来るとも言っておいた。
深い森の中
新たに誕生したエルフの木
それは上位天使に守られている。
俺はその場を後にし、飛び立った。
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