第58話 専用装備
「この間は珍しく何も拾って
帰って来なかったと思いきや」
だるそうにヴィータは言った。
「今回はその分、大物じゃのぅ、しかも二匹も・・・。」
ベレンに到着した俺・ハンス・勇者ガバガバ・そして
バルバリス帝国・王位第二継承権を持つ
王子セドリック君は護衛兼御者を馬車に残し
教会の女神に謁見したのだが。
こいつストレスマッハだな。
こんな重要人物を二匹とか犬猫扱いかよ
何様のつもりだって
神様だ。
じゃあしょうがないな。
そんな扱いにもめげず
二人は恭うやうやうしく自己紹介をする。
「ん?なんじゃ、エッダを美人に
したようなのが勇者なんじゃな」
俺はキレた。
それは言ってはいけない。
「エッダちゃんだって美人だろうが
こういうのは好みの問題だぞ」
そう言ってバリエアのお土産である
甘味菓子を袋のまま投げつける。
ゲカイちゃんお墨付きのお菓子だ。
ヴィータは片手で器用にキャッチすると
一瞥しただけで構造を把握し
器用に梱包を解いてパクつき始める。
こいつ頭も良いんだよな。
「なんじゃ・・・ヌシはエッダの方が好みなんじゃな」
お菓子を咥えながら何やらメモを取るヴィータ
おい、何書いてる。
「大体、体だってエッダちゃんの方が
女の子女の子しててカワイイだろ
あの、槍を構えた時の腰の具合とか
イイ感じにへっぴりだし、それに比べて
コイツなんて腹筋割れてそうだし
・・・その辺どうなんだセドリック」
「えぇ?」
突然振られて素になるセドリック。
「それは割れてますね。確かに」
答えるハンス。
なんでお前が知ってんの
もしかして突いてはいけない
ポイントだったのか
このまままた昼の一時に
やってるドラマみたくなるのか。
面白いじゃないか
「え?」
ちょっと違う「え」になるセドリック。
お構いなしにヴィータは言った。
「身体を観たいわ!
その子の裸をみせてちょうだい!」
お前、女子なのに渋いの読んでるな。
て
ガバガバが服を脱ぎ始めたぞー
俺はすかさずガバガバを制止するとヴィータに言った。
「まぁ掴みはこの位で真面目に話をしようじゃないか。」
その後ヴィータも混ざって領主の館に赴き
ローベルト・ベレン6世と9大司教「流」のパウルに会う手筈になった。
「なぁパウルって教会にいないのか」
何回か、ここにきているが思えば
パウルを見かけたことが無いのだ。
「はい、あのお方は特別な仕事を
なされていますので別の建物に
居る事が多いですよ」
情報・物流・人、それぞれの流れを把握している仕事だ。
意図的に操作も可能というか
やってるんだろうな。
綺麗な面ばかりでは無いのであろう
確かに敬謙な信者の集う場所では
何かと不都合が予想される。
女神のお召し替えの間に俺達は馬車まで移動する。
今日は元々俺が二人に面会するアポを取ってあるので
そこに便乗して王子と勇者を連れて行く
何か言われても、最初からこの予定だと
強気に押し切れば良い。
と、言うかとても袖には出来ない
権力と影響力を持った二人だ。
格としても領主と司教より
上なんじゃないかな。
「アモン殿は女神様と随分親しいのですね。」
セドリックは俺がお菓子を投げつけたのに
かなり驚いている様子だ。
なんか態度も下の方に降りてきている
「ん、ただの犬だよ。ワン」
俺はそうふざけておいた。
それよりもセドリック君。
「君の姉はどこだ。いつ俺にくれるんだ」
「えぇ?あげるとは言ってないですよ」
「おいおい、あの場でああ言われて
他にどんな意味がるって言うんだ。」
挙動不審になるセドリック
「いえ、単純に質問に答えただけなのですが」
素直な青年だな。
俺も環境によってはこうなれたのだろうか
汚れるなよ俺みたいに
「じゃあ、こっちでもいいや」
俺はセドリックの横の勇者に向かってそう言ったが
「だだだだめですよ」
「アモンさん。おふざけはその辺で」
「・・・あら、妹の方が好みだったのでは」
ジェットストリーム否定されてしまった。
美人に踏まれたい。
外に出て見てたまげる
何、戦争でも始まるんですか
キラキラした鎧を纏った騎士達が
同じ様な鎧を着せられた馬に乗って
俺達が乗る予定の馬車を二列になって護衛している。
「待たせましたね」
後ろから余所行きヴィータが侍女を伴って登場する。
なんか黄金のオーラも出してる。
気合入ってんな
「「おぉ」」
あまりの美しさと神々しさに
騎士達も歓声を上げ
すぐさま馬から降りて膝をついて頭を垂れる
なんかみんなそうして
突っ立てるのが俺だけになった。
慌てて俺も同じようにした。
これは肩が凝りそうだ。
バルタん爺さんが出迎えてくれる。
馬車は領主の館専用機だ。
これ板バネついてるだよね。
乗り心地が段違いだ。
最後にヴィータが乗り込むと
大名行列の出発だ。
うわーすれ違う人がみんな跪いてる。
席に座る際、背中の創業祭を外して
手に持つ、横に括りつけたモノをみて
次期領主ロディとの事を思い出した。
褒美として領主に授ける用に夜なべで作った物だ。
「そうだ、ヴィータこいつを・・・」
丁度俺の正面に座ったヴィータに包みごと渡す。
「なんじ・・・なんですかコレは」
ヴィータは包んでいる布を解くと中からは
煌びやかな輝きを放つ金属の錫杖が出てきた。
先端部には大きなクリスタルをはめ込んである。
「・・・素晴らしい」
貴金属なんて見慣れている王子が感嘆の声を漏らす。
その反応に俺は大満足だ。
どの程度の出来なのか自分では判断がつかない
王子の反応からこれは高価な一品と言えるレベルなのだろう。
「こここれは我にくれるのか」
「違うぞバカ、なんでお前にやるんだ。
領主に授ける用だ。」
おい、演技しろ
地が出てるぞ。
プルプル震え出すヴィータ。
「ううううううなんでじゃあああ」
「おい!どうした?!」
そう吠える女神。
車内の誰もが唖然とした。
「なんであんな領主にこんなキレイものを」
「そこは今回の女神に対する労を労って褒美を授けるっていう」
俺の説明を聞いていないのか
ヴィータはドレスのスカートの中に
手を突っ込んでゴソゴソし始める。
お前、何でそこに何でもしまうの。
「我にはサンダルだけかや」
「!?」
取り出したのはサンダルだ
エルフの里前まで履いていた。
そこらの木と蔦で拵えたやつだ。
「まだ、持っていたのか。」
「捨てるなど有りえん・・・。」
「ハンスには槍とかプリプラには
テイアラとか・・・我だって・・。」
ダーク良かったなタゲ外れてるぞ。
「ちゃーんとお前用のが有る」
拗ねる女神を前に
そう言うしかなかった。
「本当かや!!」
スゲー嬉しそうだ。
もうやるしかないな。
「審判の日用にと思っていたんだがな
まぁ普段から持ち歩いた方がいいか」
高速思考スタート。
ヴィータは豊穣の神だろ
武器とかは合わない
何を持つのが相応しい
鍬!絵的にダメだ。
鎌!それじゃ死神みたいだ。ダメ
旗の棒・・・革命がしたいワケじゃない
ここで不思議な事が起きた。
解析不可能だった。
あの勇者の剣と槍の心臓部
まるで友人が助け船を出してくれた様な
そんな感じで解析不能のデータの塊から
設計図が流れ込んでくる。
俺はそのまま創製した。
材料は俺の身体もしくは貯め込んでいた
金属粒子では無くそのデーターの塊から
流れ込んできた粒子だ。
「っこ・・・これは?」
俺が創製したモノそれは
じょうろ
だった。
それも黄金に輝く・・・
ここまではまぁイイ許そう。
ただデザインが幼稚園などでお馴染みの
ぞうさん だ
ぞうさん の じょうろ 成金Ver だ。
なんだこりゃ・・・・。
趣味悪いにも程があるだろ
ヤバい殺される
あんなキラキラした目で期待してたのに
俺が作ったのがこれじゃ
悪ふざけもイイ所じゃないか
違うんだ
これは俺が作ったんだけど
俺じゃないんだ。
ダメだ
自分でも何言ってるのか分からない。
冷や汗を垂らし小刻みに震えながら
恐る恐る顔を上げ
見たくないんだけどヴィータを見る。
激怒に準備しなければ
しかし、俺の心配とは真逆に
ヴィータは黄金のぞうさんじょうろを
奪う様に俺から取り上げると
涙を流して抱きしめた。
その際に持っていた錫杖を床に捨てる。
おいコラそれも大事に扱えよ。
取り合えず俺は錫杖を拾い上げるが
何と声を掛ければ良いのか判断が付かない。
それは他のみんなも同じだったようで
ただ、涙を流すヴィータを見守る恰好になった。
「なぜヌシがコレを知っておる」
ようやく落ち着いたヴィータは上機嫌になって言って来た。
「すまん、知らない。ひらめき任せに作った」
俺は正直に言った。
ヴィータは嬉しそうなまま表情を崩し
じょうろの説明をしてくれた。
このじょうろは神器だ。
ヴィータ専用の神器で
今回のゲートの開き具合の狭さゆえに
持ち出しを諦め、天界に置いて来た物だ。
「アモンさんはそれを
そっくり同じもの作ったというのですか」
珍しく目を見開きハンスが言って来た。
「なんだハンスも欲しいのか」
俺の問いに「滅相も無い」と否定するハンス
・・・・似合いそうだけどな。
「我にも分からんがこれはオリジナルじゃ
置いてきたじょうろ、そのものじゃ
作ったのでは無く神界から取り寄せてくれたのじゃ」
俺は創製した時の感覚を説明した。
解析不可能だった勇者シリーズの
データーに導かれるようなあの感覚。
「仕組みは分からんが・・・合点はなんとなくいったの」
勇者の剣を見せてもらったヴィータは推論を言ってくれた。
じょうろと勇者シリーズの製作者は同一人物だった。
それも炎と鍛冶の神ハルバイストが直に鍛え上げた逸品だ。
成程、俺より上位だ。
解析できないワケだ。
勇者の剣のバカげた切れ味を思い出す。
だとすると
この一見ふざけたじょうろは
一体どんな力を持っているんだ。
俺は素直にヴィータに聞いた。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれたの」
ヴィータの説明によると
ヴィータの豊穣の力を何倍にも引き上げるブースターだそうだ。
「戦力にならねぇ・・。」
俺がそう漏らすと
ヴィータはキーキー怒った。
素直に謝る。
いや、でもこれは間接的に戦力だ。
食い物が足りなくてどれだけの命が
失われているのか。
逆に戦時・平常時関係無しに強力な力といえる。
兵糧攻めという戦法だってあるのだ。
腹が減っては戦はできぬ
でもヴィータが味方なら
これで味方の腹が減る事は無いのだ。
「使い方は普通のじょうろと同じでいいのか」
全く同じで、入れる水もなんでもいいそうだ。
要は使用者がヴィータで有る事だ。
俺は車外、前方で御者の隣に座っている
バルタん爺さんの寂しくなった頭髪を見つめて言った。
「なぁヴィータ。髪の毛にも効くのか」
「・・・・やってみるかの」
俺とヴィータは顔を見合わせ
いやらしい含み笑いをしながら
いそいそと準備を始める。
冷却で大気中の水分を集めじょうろに注ぐと
窓を開けヴィータはそーっとバルタん爺さんの頭に
「実りよ。」
と良い声でじょうろの中身を掛ける。
神の奇跡すげぇ
髪に奇跡が起きた。
ニョロンリョと艶の良いブロンドの
髪が死地だった頭皮から蘇る蘇る
俺達は小声で狂喜乱舞した。
「どうじゃー」
「すげぇ!すげぇぞヴィータ
文字通り不毛の大地に命が芽吹いた」
「お二人とも・・・」
ハンスが自重を促す。
なんか情けない顔になってるハンス君。
勇者と王子は
何か信じられないと言った顔だ。
奇跡が信じられないのか
魔勇者と女神がふざけて遊んでいるのが
信じられないのか
確認する勇気は無かった。
程なくして馬車は領主の館に到着した。
俺達は降りて、バルタん爺さんの後に続く。
メイドや執事達にテキパキと指示を
出すバルタん爺さん。
いつもの光景のハズなのだが一部いつもと違う。
指示を出された部下達は一様に一瞬フリーズする。
俺とヴィータはそれが可笑しくて仕方が無い。
おい、誰か何か言えよ
誰も突っ込まないまま
とうとう領主ローベルト・ベレン6世が
館の玄関から登場してしまった。
やはりバルタん爺さんを一目見て一瞬、固まる。
が、そこは流石に雇い主
黙っては居なかった。
「・・・・バルタよ。」
「はい。旦那様」
「その髪の毛はどうした」
「はい?」
俺は気を使い鏡を生成すると
バルタん爺さんに向けてやる。
あの驚いた顔は当分、俺の頭から離れそうも無い。
館の大広間で例の錫杖の授与と
ハンスの「武」就任が簡易的ではあるが執り行われた。
その後は昼食兼、重大会議だ。
パウルは近くで見ると意外と若い
流石に若者とは言えないが
まだ中年が始まったばかり
と言った印象だ。
額が広く、眼鏡を掛けている。
当然ながら頭脳派なのだろう
絵的にもドンピシャだ。
「情報が錯綜している千変万化だ。
精査が追いついていないのが
正直な現状です。」
パウルの声は何か鼻から話してる様な声だ。
美しい=ふつくしい
と聞こえそうな。
壺に拘りを持っていそうな声だった。
一通り食事が終わり茶や甘味が並べられた時点で
パウルがそう切り出した。
それに答えるようにハンスが
例の低い声で現状を説明した。
内容はパウルが持っていた情報と一致する。
ベレンからバリエアまでの距離を考えると
早馬でも間に合わないハズ
通信技術があるとは思えないが
何か魔法的な手段でもあるのかパウルの情報は早い。
「流」伊達じゃないな。
「信じがたい・・・。」
精査が追いつかないのではなく
パウル自身が現実を信じたくないのだろう
「うむ、そんなに酷い状況だとは」
領主も本気で心配している。
こちらとしては野心を起こして欲しいのだが
なんとか助けられないかと言い出した。
もし、腹に黒いモノがあって
こんな演技をしているなら大した役者である。
取り込み甲斐がありそうだ。
「私は直ぐにバリエアに向かいます話はみなさんで」
そう言ってガバガバは席を立つ
勇者がそう言うのを予想していたのだろう
バルタん爺さんがガバガを促す。
馬と旅支度、随行する騎士も準備済みだ。
相変わらず有能だ。
私も行くと逸はやるセドリックを
領主とパウルが諫める。
俺はさっきも言ったので黙っていた。
ハンスも勇者について行く事になった。
女神には信頼できる侍女、
これが同郷の知り合いだそうだ。
が付いているので任せると言っていた。
俺はこっそり夜にでも
領主に奇襲を掛けて釘を刺そうと
思っていたが、これはヴィータに止められた。
領主に野心は無いとヴィータは言っていた。
もし、バリエアが首都・聖都として機能しなくなるのなら
話はそれからで良い。
なので、俺は夜に単独で捜索隊の捜索を行う事にした。
太郎ーお前ふざけんなよ
何やってんの
出展
身体を観たいわ! 拳闘暗黒伝セスタスのセリフ
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