第56話 大悪魔会議

別室で仕切り直す悪魔軍団達。


「まず、なんでアモンに怒られるって思ったの」


お前が言ったんだろとでも言いたげな

表情をしながらダッソは言った。


「早急に聖都を掌握し人口の100分の1を

悪魔にすり替えろとのご命令でしたが・・・」


続きはジュノが言った。


「教会幹部は想定外に堅く、未だ

悪魔を送り込めておりません。」


流石は9大司教と言ったところか

でも、守りだけで攻勢に出られてない

向こうも打つ手が無いようだ

市民の不安の増大っぷりはヤバいレベルだ。


「帝王関係は」


この質問にも不思議な顔をされた。

これもダッソが答える。


「は・・ハァ、言われた通り手を着けて

おりません。ちなみに王以外は

バリエアを脱出しております」


「そうか・・・魔王殺害計画に

ついては知っているのか」


これは失敗だった。

魔王の目の前だ。


「なっ?」


絶句する二人。

このリアクションだと知らない様だ。

それもそうか

言ってみれば反乱・クーデター並みの事だ。

必要最小限の人数で行うだろう。


ゲカイの解除能力は必須だったが

それも人間界に来てからオーベルに言われた。

受肉を選択するように言ったシンアモンは

知っていたのか判断が難しい。

暗殺計画関係無しにゲカイの能力を

最大限生かすなら受肉だ。


もしかしたらオーベル単独の発案で

シンアモンはスケープゴートに利用されたのかも知れない。

成功すればシンアモンに公に取り入り

失敗すればシンアモンのせいにして

魔王保護に裏で動いていたとか

そんな証拠も用意してそうだ。

自らは動かず、利だけは得ていく

ローリスク・ハイリターンを狙ったのかも知れない


「それはアモンさんの活躍で未遂に終わりましてよ」


ババァルがフォローしてきた。

さり気無く俺を立てているトコロが

ヴィータとは偉い違いだ。


「まだ、安全になっていないがな」


俺は浮かれない様にそう言った。

今のやり取りを聞いたダッソは

やっと納得がいった様子だ。


「そういう事でしたか。成程」


まだ納得がいってない様子のジュノが質問をしてきた。


「裏切りの噂の真偽は・・・・

ベネットはどうなったんですか」


ああ、この二人は降臨の際の情報のままで

派閥はどっちでもない浮動層って事かな。 

 一応ババァルにも確認しておこう。


「この二人は姫様の騎士とかでは」


首を横に振るババァル。


「残念ながら、ダッソもジュノも

私個人では無く最高権力者の下僕ですわ」


畏まる二人。


「どうかご容赦下さい」


「私共も個人の自由が許されるならば

是非、姫様個人にお仕えいたしたいのですが」


悪魔のお家も色々事情がありそうだ。


「で、裏切りの件なんだが・・・。」


俺は腕の聖刻と胸の魔核を見せながら

アモン中身交代・ベネット返り討ちを説明した。


「何と人間風情が」


ダッソが態度を180度変え怒りを露わにした。

俺はダッソの魔核に巻き付けた指に力を込めてやる。


「グッ!!」


立ち上がったのと同じ勢いで膝を着くダッソ。

相当苦しそうだ。


「私の恩人ですわよ。アモンさんも止めてくださいな」


今のやり取りで急速に敵意を消失させるジュノ。

当然、彼女の魔核にも俺の指は巻き付いたままだ。


「確かに俺の命令を聞く義理は無い

ゲカイはそれでも構わないと本人が言ったから

連れている。」


俺は席から立ち上がるとゆっくり歩く


「ババァルは俺が悪魔側に戻ってきて

くれる事を期待してのご厚意による協力だ」


ダッソの前まで行くと視線を同じ高さにする様にしゃがみ込む。


「お前らどうする?まぁ俺の邪魔になるなら

ここでお終いなんだけどさ」


呻くだけになったダッソの代わりにジュノが言って来た。


「あなたの目的を知らない。我々の行動の

何が邪魔になるのか、こちらでは分からない」


ババァルは苦しむダッソが心配なのかオロオロしている。

ここで終始、黙っていたゲカイがその少女の

外見に似つかわしくない程ドスの利いた声で言った。


「バカなの、アモン様の目的なんて

決まっているじゃない」


大き目だった瞳が収束して赤く輝いている

ああ

折角のかわいい顔が禍々しくなってる。



「三界の覇者。神も悪魔も人間も

全てアモン様にひれ伏すの・・・です」


最後の「です」の時だけいつもの

かわいいゲカイちゃんに戻った良かった

でも本性は怖い方だよね多分。


「だそうだ。」


俺は自分の事なのに他人事ように言った。

なんかカッコよくない


「はい?・・な・・んですか」


苦しみながらもダッソは返事をする。


「ダッソだって言ったんじゃねぇ

だそうだって言ったんだバカにしてんのか」


恥ずかしさも相まって

今なら勢いでこいつを殺せる。


「ダッソ謝ってくださいな。この方は

つまらない理由でも取り返しのつかない事を

平気で実行出来る方ですわよ」


何だって?

そんなに後先考えないのか俺って

やだー

とりあえずダッソの謝罪を受ける。

そんなに悪くないのにかわいそうに


ババァルがダッソとジュノに

何やら話をし始めた。

どうやら

ダッソとジュノは現在の最高権力者に

従うとの事なのでババァルの命令待ちだ。


「では、アモンさん。どうしたら良いですか」


優雅に聞いて来るババァル。


「俺が決めて良いのか」


「いいえ、決めるのは私ですわ

良い案を提案して下さりますよね」


真っすぐ俺を見つめるババァル

まぁ、提案ならな

いくらでも


「攻めはもう十分だ。審判の日まで魔王保護を最優先だ」


「魔王、最優先は私も賛成だ

だが攻めが十分だとはどうして言える。」


ナナイの声だ

やっぱり居るのか


「発言するなら出てこいダークと・・・他一名」


「ほ・か・い・ち・め・い・だと貴様!」


ババァルの影から飛び出すナナイ

すぐ後にダークも出てくる。


「隠れ家の方はどうだダーク」


俺の足元に控えるダークは即答する。


「はっ場所は確保済みでござる」


「コラァ私を無視するなぁ」


「ただ姫様の所望される甘味の手配が・・・」


斜め上辺りをキョロキョロ見やるババァル。

この餡子食う魔王め

命狙われてるってのに


「甘味はエルフの里のタムラを頼れ

俺からの頼みと言えば都合してくれる」


「はっ仰せのままにでござる」


「無視しないで・・・。」


ダークと俺のやり取りにナナイは涙ぐみ始めた。

大事な要件を優先してるだけだろうに


「あ・・・あの二人は」


ダークと俺のやり取りにポカーンと

しているダッソは説明を求めた。


「魔神13将、10位のダークと・・・・ナナイは何位だっけ」


「ふっ七位だ」


「名前じゃなくて」


「序列も七位だー貴様わざとやってるだろ」


はい、忘れようが無いセットですよね。


「つか13将同士、顔合わせとかしてないのか」


ダークの説明によると

なんと無いそうだ。

人間界への突入もバラバラ

下手をすると誰が選出されたか

知らないまま先行もあるそうだ。


更に魔界での姿そのままではなく

見た目を人間形態に模写しての

出発、(この時受肉も選択可能)になるので

隠れられると分からない。

ゲカイを目視してもダッソとジュノが

またその逆もそう

ゲカイがダッソとジュノを見ても

魔神だと分からない。

おいおい・・・。


作戦の立案を担当する参謀と

統括とその補佐は事前に知っているそうだ。

今回のケースで言うと

参謀オーベル、統括アモン、補佐ベネット

と、言う事になる。

アモンサイクロペディアに記載されていたのは

そういう理由からだ。


「魔王は全員知ってるんだろう」


知らないハズは無いのだが

初めてゲカイを見たとき

悪魔だとすら判別出来てなかったけな


「ベネットさんがー」


はいはい任せっぱなしですね。


パンパン

俺は両手を二回叩いて音をだしたつもりだが

停止空間なので発言の意志以外は聞こえなかった。

強引に続ける。


「はいはい各自席について丁度いい下から自己紹介ね」


言われた通り各自適当な椅子に座る

実は停止空間だと重力も微力なので

浮いていても問題ない

逆に椅子に座る事に苦労する。

なのに皆、素直に従った

なんかおかしい

魔王と魔神だよね君たち


こうして各自の紹介と挨拶が終わった。

俺もワケ分からなくなってきたので

纏めておこう


魔王:ババァル        メス  

一位:ゼータ・アモン(フリー)オス

三位:ダッソ    (浮遊層)オス

四位:ジュノ    (浮遊層)メス

五位:オーベル   (偽保守)オス

六位:ゲカイ    (革新 )メス

七位:ナナイ    (超保守)メス

十位:ダーク    (超保守)オス


こんな部屋にすげぇメンツだな

何故か俺はシンアモンとの差別化の為に

ババァルが勝手にゼータとつけてしまった。

なんでゼータなんだ

ちなみに退場者は1位シンアモン(革新)と

二位ベネット(保守)だ。

8・9・11・12・13は

まぁまた出てきた時にでも

出てこれないかもだが


「で、攻めは十分の理由だが・・・。」


ナナイの質問に俺はバゼル事件を例に挙げ

バリエアの市民の心情を解説した。

もう、悪魔が撤退しても疑心暗鬼は消えない。

今、隣にいる人が悪魔でないと自信を持てる

一般市民などいないのだ。

恐怖が消え去るには大きなイベントが必要になる。

まぁその為に勇者を探しているワケだが


「アモン様、恐れながら申し上げます」


ダッソが撤退した場合の問題を提示してきた。

まず全員撤退は不可能。

とにかく下に行くほど自分勝手な悪魔だ

仲間が撤退したとなれば、

残れば美味しい餌独り占めだ。

多くの悪魔が上の目を逃れ聖都に潜伏する

と予想されると言ってきた。


「その件は心配無い」


俺はその対策チームがゲカイを含む

先程の人間達だと説明した。

命令違反で居残って人間に始末される様な

輩の身の安全など知った事ではないだろう。


「知った事では無ーいですわ」


俺のセリフの最後を繰り返すように

ババァルが偉そうに言った。

いや・・・滑稽だぞ。

と、思ったのだが

俺とゲカイ以外の魔神は「ハハァ」とひれ伏す。

大丈夫かよこの組織。


「もう一つございます。アモン様」


今度は有能女史ジュノだ。

現在、偽女神に掛けている幻と磔が

二人が撤退した場合自然に解けてしまうとの事だ。


「それは放置でいい」


教会本部に手厚く保護された偽女神だが

今更、間違ってましたと教会本部が

言えるかどうか見物だ。

白状した場合でも

隠しきれなくなって露見した場合でも

どちらでも、もう教会本部の信頼は失墜する。

疑心暗鬼と教会の失墜


もうバリエア詰んでいるのだ。


だから放置でいい。

その件も含めてベレンに遷都を提案しているのだ。

帝王が手つかずなら首都はバリエアのまま

聖都だけベレンでもいい。 


「つまり聖都侵攻は成功した。

過去形だぞ、成功したんだ。

これ以上はあまり意味が無い

だから守りを固める。

これでいいかいナナイ」


俺はナナイにそう言ったのだが

なんか

ナナイは真っ赤になってそっぽ向いて返事をした。


「そ、そうか、理解した。いいだろう」


お前、生体反応いらんだろ

何してんの 


「そうだ、俺の方から聞きたいことがある」


つか

その為に連行してきたんですけど

ジュノとダッソが畏まる。

なんか態度が変わったかな


「偽ヨハン大司教はどうなったんだ

9大司教のパウルがヨハンの武は

空位だと言っていた。」


空位、つまりヨハンの死亡を確認しているのだ。


「はぁ・・・それなんですが」


ダッソは言いづらそうに説明した。

ヨハンに化けさせた悪魔は

教会への入場を断る事がどうしても出来ず

教会の入り口で灰になったそうだ。

あちゃーかわいそうに

そら死ぬわな一位のおれでも

悪魔状態では入れないんだ

下級悪魔なんてひとたまりも無いだろう


「おっほっほほ」


ババァル、ここ笑うトコじゃないから・・・。

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