第55話 落書きは本能か
「店員達に聞かれるとマズいか
場所変えよう。ついてきてくれるか」
俺は席を立つ
店員への引き継ぎと移動は店の馬車をと
二人は申し出てきた。
変な気は無い様なので任せた。
ジュリエットは奥に引っ込み店員達に引き継ぎを
ダリルは裏に回り、店用の馬車を引っ張り出してきた。
「アモン様・・・この二人って」
「うん、魔神13将の3位と4位だ」
俺とゲカイのやり取りを聞いて驚くチャッキー
「マジっすか」
「マジっすよ」
「どっちがどっちすか」
「・・・・さぁ」
こうして俺達はゲカイちゃんのオニューの服と
これを売ってくれた魔神二人を
連れてヨハンの隠れ家まで戻った。
「おーい、戻ったぞー」
俺が扉にそう声を掛けると扉の
向こうからやけにバタバタと音が聞こえてくる。
何やってんだ?
その疑問は扉が開いた瞬間解決した。
「ぃょぉぁ兄貴ぃ速かったな」
ヨハンの息にゲカイちゃんが鼻を塞ぐ
「やっ酒くさーい」
「ぃゃさ、飲むのぉれとヘンスだけだからさ
ん何かみんなぃるとさぇ遠慮しちゃってた
からさ。久々だしめでてぇしつぃさ」
「ゲカイちゃん」
「ハイ」
「酔いって解除できる」
「出来ます。」
「お願いしていい」
「ぇ待って折角気持ちぃぃ状態なのに」
パシュ
「あああああああああーってはぁ済まねぇ」
ヨハンの酔いが解除された。
「いや、これからちょっとハードに
なるかもしれない話し合いだ。
終わったらゆっくり飲んでくれ」
チャッキーが連行している二人を
チラ見したヨハンが聞いて来る。
「兄貴、後ろの二人は」
「魔神だよ」
「何だって?!酔いが醒めちまうぜ」
いや、もう醒めてるから
俺達は家の中に入りリビングまでいくと
そこには、もっとスゴイのがいた。
「うああああああああ私はああ
絶対に彼を救うんだああああああ」
ハンスが号泣してる。
こいつ泣き上戸だったのか。
「あれ、こいつ以前飲まないって俺に」
ベレンで魔王との会食時に断っていたのだ。
「ああ、こいつ自分が我慢すれば済む時は
そう言う嘘付くクセがあるぜ」
ハンスとは旧知の仲のヨハンがそう言った。
多分、最初の時の出身地の嘘も
勇者を伏せたかったのが理由だろう
それにしても
「どうしてこうなったの」
俺の質問にしどろもどろなヨハン。
「いや何か良く分かんねぇんだけどよ」
覚えてないんだろ
お前も酔っぱらってたんだし
「何もかも失ってなおおおおおお
他人を助けるばかりいで何故
何故誰も彼を救わないいいい」
いや、まずはお前を救おう。
「ゲカイちゃんお願いしていいかな」
「ハイ」
「神が彼を救わないならああああ」
パシュ
「わっ私ぃー・・・お帰りなさい」
「ただいま」
「ワケ分かんねぇっすよ!」
うん俺もだよ。
後ろで殊勝な態度を取っている
二人組にハンスはようやく気が付く。
「アモンさん。そちらの二人は」
「魔神だよ」
「そうですかってええええええ」
はぁー進まないなぁ。
外では人目があるので止めていたが
隠れ家では、もう遠慮は要らない。
俺はゲカイに、この二人に掛かっている
幻の解除をお願いした。
パシュ
見た目には何の変化も無いが
デビルアイで捉えた二人の内部構造は
義体だったので俺は指を延長して
二人の魔核を拘束する。
「変な気を起こせば即つぶす」
そう念を押し、二人を席に着かせる。
「えー、ではいつくつか質問を
二人は魔神13将で間違いないかな」
二人は神妙に頷く
「どっちがどっちだ」
俺の質問に二人は顔を見合わせる。
ん
何か意外だったか。
「わ私が幻のダッソです。」
ダリルと名乗った店長がそう言った。
「私は磔のジュノです。」
有能セカンドのジュリエットはそう言った
後、恐る恐る俺に尋ねてきた。
「あの、アモン様、最初から私たちの
事を見抜いていたのでは・・・・。」
ん
質問するのはこっちなんだが
まぁいいか
「いや、対応が変だったから疑った
ゲカイの名前で反応したろ、それで確信した」
また二人は顔を見合わせる。
今度はダッソが聞いて来る。
「では、入店してきた時の威嚇は」
「威嚇?」
そんな事したか?
その疑問には横からチャッキー君が答えてくれた。
「アレっすよ。俺が世界を~の時
漏れ漏れだったじゃないすか」
そのオーラがなんでも
威嚇的でしかもアモンだぞーって
すごい主張しているオーラだったらしく
魔神二人は、その時点で見つかったと思ったそうだ。
それで小刻みに震えていたのか
まてよ
なぜ、この二人は俺に見つかると
ヤバいのだ。
アモンの中身交代は知らないハズ
シンアモンと敵対している魔神なら
魔王保護の為、ダークやナナイの
様に行動を起こすハズ。
シンアモンの派閥なら魔王殺害失敗は
こいつらには何の責任も無い。
むしろ遅っせえな何やってんだと
怒ってもいい立場だ。
ベネットの説明からでは
どっちの派閥なのか特定出来ない。
どちらも有りうる。
先に俺がカミングアウトしてから
話すべきか。
いや
折角優位な立場にいるのに
相手を優位にさせても勿体ない
高速思考中なのでここまで0.1秒も
掛かっていないが、どう話を持っていくべきか
馬車の中で決めて置けば良かった。
失敗だったな。
もう一つ失敗がある
ヨハンを含む神側の面々だ。
悪魔だけで内緒で話をした後に
彼等と話したかった。
俺は場合によっては聖都を放棄して
ベレンに権力を集中できればと
考えている。
そうなればヨハンは黙っていないだろう
彼は聖都の危機を救う為に
悪魔と契約も辞さない男だ。
一番良いのは
ここで時間停止して悪魔だけで
口裏を合わせた後、人間達と
何食わぬ顔で答えの決まった様式美な
やりとりをする事だ。
それが最適解だが
当然、俺には時間停止は出来ない。
実は出来る可能性はあるのだ
解析は上手く言ったが実行しよとすると
脳内アラームが鳴り響くのだ。
これは実行に当たって消費される力が
俺の存在を脅かす程使用されてしまうからに違いない。
魔界に直結して無制限に向こうの
力を使える魔王ならではの術ということだ。
出来るかもしれないが
やった瞬間消滅では
恐ろしくて試すワケには行かない。
ババァル、今来てくれないかな・・・。
『うふふ、仕方ありませんわね』
そんな声が聞こえた気がした。
その瞬間、例の時の歯車が
部分的に空転する感覚を感知した。
「どっぎゃあーん!ご機嫌いかが、うふふ」
「「「「うわぁ!」」」」
突然、部屋に出現したババァルに
俺以外の全員が声を上げる。
そうか、魔神3人もこの転移の予兆を
感知出来ないのか
それにしても
どっぎゃあーんって何だ
『今お止めしましょうか』
また声が聞こえた気がした
ってコレ本当に聞こえているんだよね
何、テレパシーなの
そんなの魔王図鑑にあったっけ
まぁいいいや
今、お願いしまーす。
『ナァーフォーザッワアアア!!!』
パキン
停止解除の時は口フニフニでいいのに
止める時は絶叫なんですね。
俺は意味を成さないと分かっていながらも両手で耳を塞いだ。
チャッキー、ヨハン、ハンスの三人は
驚いて大口開けた状態で固まっている。
それぞれ良い表情だ。
あまりに良い表情だったので
たまらなくなった俺は
夜なべで作ったエンチャントインキの
マジック・マジックペンを取り出すと
ヨハンの額に「肉」
ハンスの額に「犬」
と落書きした。
爆笑しながら俺はゲカイちゃんに
ペンを渡し残るチャッキーを指さす。
ゲカイちゃんは即座に察してくれたようで
チャッキーの額にかわいい字で
「バカ」と書いてくれた。
「まさか、この為に呼んだですの」
腹を抱えて爆笑し涙を流しながら
ババァルはそう言って来た。
空気は振動しないので音はしないのだが
そう認識出来る。
この声は先程のテレパシーと違い
ここに居る悪魔全員に聞こえた様だ。
「おおお久しぶりひーご機嫌いか
はははっは痛たたった」
脇腹を押えながらも魔王への挨拶をするダッソ。
「・・・・・。」
プルプル震えながら、ひたすら堪えるジュノ。
泣いてる。
ゲカイちゃんも笑っている。
普段は表情をあまり変えない子だが
やっぱり笑顔は良い。
「いやいや、こんな事の為には
呼んだりしないよ。いくら俺でも」
俺も笑いのツボからまだ出て行かない
笑いながらババァルに答えた。
やめろ人間ども
その顔でこっちを見るんじゃねえ
「では、なんですの」
「なんだったけかな」
悪魔軍団はたまらず別室に移動した。
笑いが治まっても、またあの顔が
目に入れば笑いだしてしまうのだ。
そして一人が笑い出すと残りも
連鎖的に笑いだしてしまい
とても話合いにならない。
「やりますわね人類。侮れませんわ」
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