第54話 聖都でお買い物

「でだ、9大司教の武の座なんだが

なんでもハンスは力づくで奪うと」


食後の片づけが終わった所で俺はそう切り出した。


「ほーぅ、言うじゃねぇか」


ニヤニヤするヨハン。

物凄い速度で手と顔を横に振るハンス。


「ヨハン様、いつものアモンさんの

悪いクセですよ。そんな事私は一言も」


「分かーってるって」


なんだ二人とも

いつものとか、分かってるとか

俺はそんなに嘘ばっかり言ってるのか


「大体、武の証は渡したじゃねぇか

アレはそういう意味だぞ」


その後はハンスの治癒魔法の話になり

俺の新たに持ってきた資料を

広げ二人は熱心に談義になった。


この時点で追いてけなくなった俺は

チャッキーとゲカイを連れ、聖都内の

パトロールに出かけた。


「あの二人、何言ってるのか全然分かんねぇっすよ」


純粋な格闘家であるチャッキーには

神の加護だ、聖属性だ

その言葉だけで理解しようとする

気力が出てこないそうだ。


「分かんないモンは考えても分かんないっすよ」


うーん

彼はこれでいいと思う。


「お、ちょっとこの店に入ろう」


スラムを抜け繁華街に入った辺りちょっと

高級そうな洋服店を見つけた俺はそう提案する。


「え、何でっすか」


「ゲカイの服装はここいらの様式

じゃないだろ、目立つ

それにくたびれてきてるし」


受肉の面々は服装も人間同様だ。

ヴィータも人里に辿り着くまで結構苦労した。

幼いヴィータに合わせて作ったサンダル。

あれ、どうしたのかな

いつ捨てたのかな

まぁいいけど


俺の言葉に身だしなみを

チェックする仕草を始めるゲカイ。

うん、いいよ

かわいいよ


「確かに黒とか赤とかが主体で鋭角な

デザインが多いっすね攻撃性をモチーフに

したっぽい感じすね

調和をモチーフにするバエリアじゃ

確かに見ないファッションっす」


なんだって

俺には

露出の少ないババァルの仲間っぽい衣装

としか表現できないんだが


この世界では珍しいと思われる

黒の皮ジャケットに金属鋲

何つけて形を保ってるのか分からない

ツンツンした髪型

チャッキー君はもしかしてオサレ人間なのか

バイザーの一件もデザインしか気にしていなかったし


「この服は・・・」


ゲカイちゃんの話によると

魔都では、ごく一般的な衣装だそうだ。


「じゃ、益々マズいじゃないか

魔都の人間がウロウロしていたら」


「解除していれば、裸でも同じです」


それを聞いた俺は獣になり

ゲカイちゃんの服を脱がしにかかったそうだ

なぜか記憶が飛んでいて思い出せない。

思い出せるのはチャッキーの踵遅しが

決まった辺りからだ。


「解除にも力を使用するだろ肝心な時に

燃料切れじゃ困る

ここで目立たない服に変えよう」


俺はそう言ったのだがゲカイちゃんは

乗り気ではない。

理由を聞いて見たら


「お・・お金は持っていないのです」


なんだそんな理由か


「それなら心配無い」


俺は懐から布袋を取り出す。

わざわざ手書きで$マークを描いたのだが

残念ながら、誰も分かってくれなかった。

中身をチラ見せすると

二人とも叫び出さない様に手で自分の口を塞いだ。


「ささ、行こう行こう」


俺はズカズカと店の前まで歩いた。


「失礼ですが、お客様。紹介状はお持ちですか」


店に入ろうとしたら

入り口のガードマン二人に止められた。

彼等は衛兵とは違い鎧こそ来ていないものの

腰には豪華な装飾の入ったレイピアを下げている。


うーん、金持ちや要人御用達の店なのか

丁度良い、バルタん爺さんがお詫びついでに

くれた物を試して見るか。

俺は返事の変わりに懐から指輪を出し

はめてガードマンに見せる。


「失礼、これでいいかい」


ガードマン二人は怪訝な表情をしながらも

指輪を確認すると物凄い速度で左右に分かれ

ご丁寧に扉も開けてくれた。


「大変失礼をいたしました。」

「お許しください」


180度態度変更だ。



「君たちの仕事は完璧だったよ

こちらのミスだ。

安心して買い物ができそうで良かったよ」


俺は酔っぱらいAから教わった

頷き挨拶で優雅に中に入る。

優雅になってないかもだが・・・。


チャッキーとゲカイの二人は

遅れて小走りになって入って来た。


「何すかその指輪」


なんでそんな小声になるチャッキー君。


「いやな、なんでもな・・・」


俺は指輪の説明をした。

ベレン領・領主ローベルト・ベレンの

庇護下になる貴族や要人に与える身分証で

手紙を蝋で封印する時にも使える便利なグッズだ。


爵位はもらっていないので

友人とか重要人物みたいな事が

書いてあるらしい。


ハンスは教会からの地位があるので無理だが

俺はこれで取り込めないかとの考えなのだろう。


「人間風情が13将に対して・・・。」


話を聞いたゲカイは怒りだしそうになるが

俺はすかさず諭す。

どんなに偉くても、それは自分の領地内だけだ

人間の食事をし

人間の衣服を着る

人の世界で活動するのだから

それに便利に越した事はない。


「ですが・・・」


納得いってないようなので

俺は嘘でゴリ押す事にした。


「どうせ俺が世界を支配するまでの

つかの間の余興だ」


「はいっ」


キラキラした目で答えるゲカイちゃん

うん、かわいいよ


「アモンさん店の中でそのオーラ出しちゃマズいっすよ」


チャッキーが小声で言って来た。


「うん?出てないだろ」


完全人化だぞ。

しかし、チャッキーは否定する

見間違うハズは無いと

彼曰く漏れ出ていたそうだ。


うーん

そんなハズは無いんだが・・・。


「いらっしゃいませ。お客様は当店は

初めてでございますね。」


いきなり俺達の前に現れた男は

膝をついて畏まった。

ガードマンの情報が行ったのか

この男の服装は他の店員とは異なって

上質な物を着ている。


よく観察してみた。

頭を垂れているので表情は分からないが

体型はチャッキー君よりもっと痩せた

痩身で・・・ん

隠そうとしているが小刻みに震えているな

そんなにベレン侯はおっかない存在なのか


「んー君は」


俺はなるたけ偉そうにならない様

かつ舐められない様に気を使いながら話した。


「ここの店長をしております。はい」


顔を上げた店長。

色白で頬がこけているが貧相な印象では無い。

鼻の下に細く手入れされたヒゲ

オールバックの髪型

今はいいが

なんかキレたら怖そうな感じだ。


「店長、今日はこの娘の服一式を

つま先から頭のてっぺんまで

全て揃える。今だ」


俺はオサレなテーブルに無造作に

$袋を置いた。

店長は一礼すると中身を確認した。


「ここここんなには御必要ないかと」


中身の金貨軍団を見た店長は慌てた。

俺は冷静に言いのける。


「いちいち持って来るのはおっくうだ

余った分は今後の買い物用に頼むよ」


「仰せのままに。」


その後店長は小さな声で「おい」と後ろを向いて言った。


店長の後方に控えていた店員が

慌てて袋を受け取りにやってくる。

あー中身、金だから見た目の

大きさに反して重いよ気を付けてね。


「アッ」


言わんこっちゃない

想像以上の重さに袋を落っことしてしまう店員。

派手な音と輝きで金貨軍団は散らばった。


「このバカ」


失態を犯した店員に平手打ちを

入れようとした店長の腕を俺は

後ろから掴んで止める。


「ははは、ベレン侯もよくそうやる

こっちでも流行っているのかね」


大きな声でそう言った後

店長の手を放しながら

小声で店長にだけ言った。


「客の目の前で怒るな」


元の世界の会社でも良く見た光景だ。

これで満足するのは怒ってる上司だけだ

怒られている下っ端も

一番大事なお客様も不愉快極まりない。

更に言うと

ヘマはこいつです。私はちゃんとやってまーす

って言う、更に上司へのアピールだ。

ヘドが出る。


空気を替える様に新たな店員が現れた。


「色々、お持ちいたします。

こちらにお掛けになってお待ちください」


横から女性の店員、こちらも隊長機なのか

他の女性店員より似ているが

凝ったデザインの服を着ていた。


出てくるのに時間が掛かったのは

お茶を用意していたからだろう

押してきたワゴンにはお茶セットが準備されていた。


手下が手際よく椅子を引いて俺達を促す、

腰掛ける動作に入っている間、視線が外れた

タイミングで床の金貨軍団を数人で片づける。

ああ

ここもだ、この世界にも居るのか

この人がトップだったらなーって言う

有能なセカンドだ。

これが困ったモンで

有能が故にトップがミスっても

見事にフォローしちゃうせいで

トップがいつまでも失脚しないんだよね。

もう少し野心を持って欲しい。



俺は感心したので

つい名前を聞いてしまった。


「ジュ・・・・ジュリエットと申します。」


まさか店長ロミオじゃないよね。


「まずは採寸をさせて頂きたいのですが」


ジュリエットはそう申し出てきた。

が、俺は返事の変わりに手近にあった

紙にスラスラとゲカイのサイズを書き込む

そんな当然の事は測るまでもない

俺のデビルアイでゲカイちゃんの外寸は全て

完全3D化出来る程チェック済みなのだ。

身長・B・W・Hは言うに及ばず各関節までの

長さや太さ可動範囲までキッチリ書いてやった。

俺は自慢気にジュリエットに手渡す。


「これで。」


受け取ったジュリエットは紙の内容を

把握するやいなや青白い顔になっていく


「か・・・畏まりました」


ふふ、どうだ

俺のデビルアイはすごいんだぞう。

ジュリエットの様子を不審に感じた

チャッキーとゲカイは横から紙を覗き込む。


「・・・・うそ」

「・・・やべぇっすよ」


かつてないドン引きだった。

なぜだ


変な空気を再度入れ替える様に

ジュリエットの指示で豪華なドレス軍団が

次々と運び込まれてくる。


「アモン様・・・こういう服装では・・・」


「うん、違うね。でもそういう場所に

潜入しなきゃならない任務もあるかもだから」


「・・・はい」


「1着ぐらいは選んでおきなさいね」


最初は嫌々な感じだったゲカイも

次々着替えてはジャーンって披露し

俺とチャッキーがおぉ!ってのが

楽しくなってきた様子だ。

夢中になって選んでいる。


「髪が金だから同系統より対抗色で、

年齢が若いから落ち着いた色よりライトな」


チャッキーまで夢中だ。

何なら、お前も着るか


ドレスを選んだ後は、普段着を選ぶ

こちらも相場の十倍もするが

生地はもちろん縫製の精度が段違いだ。

考えてみれば当たり前だが

貴族だって年柄年中正装でいる訳では無い

貴族用の普段着だってあるのだ。

こちらはゲカイの趣味とチャッキーの

アドバイスで何枚か選ぶ。

お気に入りがあったようでもう着込んでいる。

靴を含め、見事なバリエア市民のお嬢さん状態になった。


ドレスは寸法の調整があるので後日渡しだ。

予備の服と着ていた服は店のロゴの入った

これもちょっと高そうな紙袋に入れてもらった。

この紙袋だけ欲しがる娘もいるんじゃないかな


用事が済んだのに席を立とうとしない俺を

不思議に感じたチャッキーが聞いて来た。


「まだ、何か買うんすか」


「うーん、店長」


俺は店長を呼ぶ。

仕事をジュリエットに任せ

終始見ているだけだった店長は

何を言われるのか不安な様子でやってくる。


「はい。何でございましょう」


「君、名前は」


瞬間、ホント一瞬だけ顔が強張る店長


「ダリルと申します。以後もよしなに」


挨拶は優雅だ

先程の緊張が嘘のようだ。


「ダリル、人払いを・・・

あジュリエットさんは残って」


そそくさと退室しようとする店員の中から

彼女だけは残ってもらった。

ちょっと黙って様子をみると

俺以外のメンツも不審な様子に勘付いたようだ。


「あの・・・何か」


「ゲカイちゃん」


俺がゲカイを呼んだ瞬間

二人は素人目にみても分かるほど狼狽える

これはもう間違いないな。


俺は半人化する。

チャッキーも両肩に手を回して臨戦態勢だ。

戦闘関係に関してはチャッキーに

何も言う事は無いな

場数は踏んでいる様だ。


俺はゲカイに命令した。


「この二人ちょっと解除してみてくれる」


「それには及びませんアモン様」

「申し訳ございませんでしたアモン様」


ゲカイが行動を起こすまでも無く

二人は膝をついて謝罪を始めた。

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