第53話 いいぜ
まぁ俺がいないと無理なんだが魔王が
転移出来る程聖都の結界は機能していない。
この事実は二人には衝撃だった。
バルバリス帝国の首都でもあり
教会の本拠地、聖都でもあるバリエアは
これから戦場になるだろう。
「逃げ惑う人々の受け皿に
ベレンがなれないかと思うんだ」
そう言った俺の意見に対して
ハンスが言う。
「それは分かります。しかし
ベレンを聖都にしてしまうなんて」
気持ちは分かる。
「最初から表立っては言わない
自然にそういう話が持ち上がる方向で
領主も大司教も動いてもらう
それにこれは
領主の協力のエサとしては十分だと
思わないか。」
どの位の数の難民が出るか予想は難しい。
少なければ問題は無いが、ん万人規模に
膨れ上がった場合は教会だけでは対処出来なくなる。
「領主が付け上がるのは面白くないのぉ」
腕を組んで考え込んでいるヴィータがそう言った。
なんで少女化したままなんだ。
「そこは俺が特別に釘を刺すよ」
考え込む二人
話がいきなり過ぎたか
その静寂を破る様に扉の向こうが
慌ただしくなる
そして扉が強めにノックされた。
「女神様。よろしいでしょうか」
声の主はさっきの表にいた
お姉ーさんの内の誰かだ
「おい子供のままでいいのか?」
俺はヴィータにそう言うと
ヴィータは、しまったと言う顔になる。
「ぬおっ、ま待たせるのじゃ」
ハンスが素早く扉の方に近づき
扉越しにあの魅惑の低音ボイスで言う。
「女神様はお休みだ。何事ですか」
そこからは声が小さくなり
何を言ってるのか聞き取れなくなった。
振り返ったハンスは軽い声で言った。
「急患だそうです。私がいってきます」
柱付ベットのカーテンを降ろして
なにやら変身中のヴィータは答える。
「おぉ、任せたぞ」
その後、俺も行けと言われた。
ハンスと俺は侍女に導かれながら
教会の外の庭に出た。
何とそこには、バルタん爺さんが倒れている。
俺の荷物を抱えていた。
傍には部下の執事達が囲んでいる。
ハンスは素早くバルタん爺さんの元に
膝を着くと、手をかざす。
何とハンスの手は銀色に輝きだす。
ハンスは目を閉じ小声でなにやら呟いている。
呪文なのか?
バルタん爺さんは急に咳き込むと意識を取り戻した。
「心臓発作でしょうね。戻って
しばらくは安静にしてください。」
帰る頃にはすっかり元通りの元気な
バルタん爺さんになっていたが
ハンスは先程の注意を再度繰り返し言った。
一同はハンスに深々と礼をして
馬車は出て行った。
馬車が遠くに去ったのを確認すると
ハンスは、ガッツポーズを取って吠える。
「どうですか!アモンさん」
「おい、今の治癒魔法なのか」
俺にそう言われたハンスは懐を探り
魔法陣のコピー版を取り出す。
「はい、これを元にヴィータ様から
指導を頂き、私は私は」
興奮しているハンス。
呆気にとられる俺
ヨハンもそうだがハンスもスゴイ。
「やっと私も役にたてますね」
嬉し涙を浮かべているハンス。
手伝いはしていたがハンスずっと傍で
戦う俺と人々を癒すヴィータを見て来た。
誰もハンスを役立たずなどとは思っていない
が、他の誰でも無いハンス自身が
無力感に苛まれ続けていたのだ。
全く気が付いていなかった。
いや、考えようともしていなかったな俺は
「後ですね、これは解毒でえーとこれは」
そう言うとハンスはあちこちから
羊皮紙のメモを次々と取り出して説明してきた。
「ハンス、お前はスゴイ奴だよ」
俺は素直にハンスを賞賛する。
それを聞いたハンスはポロポロと
泣き出し、声を絞り出すように呻いた。
「ずっと、あなたに、そう言われたかったんです」
穏やかで、いつも笑顔を絶やさなかった男だった。
でも心中はそうじゃ無かったんだな
デビルアイでは見えない大事な事だった。
明日は休日という事なので
領主とパウルの件は休み明けに回し
俺はヴィータの許可を貰って
ハンスをヨハンの隠れ家に連れて行く事にした。
二人に治癒魔法のすり合わせをしてもらう為だ。
「こ、こんなに高く飛ぶ必要は」
次の日、俺は背中にハンスを乗せバリエアまで飛んだ。
もう、バリエア上空に居る。
背中のハンス君はくしゃみと一緒に
飛行の喜びの感想を発言中だ。
「低空じゃ目撃されるだろ」
ハンスは何か答えようとしているみたいだが
くしゃみを連発しているので
何を言っているのか分からん。
「もしかして寒いのか」
震えているのは恐怖だけでは無かったようだ。
高度を上げ過ぎたか
悪魔化した俺は温度変化とか気にした事が無い。
「直ぐ降りるからな・・・って丁度」
俺のデビルアイ望遠モードが戦闘中の場所を捉えた。
「丁度?」
「ヨハンが戦闘中だ。加勢するぞ」
ハンスの返事を聞かずに降下
この時点で半人化する
着地は最近習得した足の裏での重力操作だ。
翼に比べれば出力も精度も酷く劣るが
軟着陸位なら出来る。
なにより見た目が人間のままという
替え難いメリットがあるのだ。
降下中に状況を把握する。
敵は20人程の下級悪魔で
既に半数は紫色の煙を上げ
チリ化していっている。
ヨハンとチャッキーが奇声を上げながら奮闘中だ。
ゲカイちゃんは存在の認識を解除して隠れてるのだろう
捕捉出来ない。
二人から離れた位置に居る
悪魔目掛けて、空中から悪魔光線を
2~3度照射、瞬間で真っ赤に
ただれた金属の塊化する下級悪魔達。
俺もチャッキーを見習って
派手に名乗りを揚げてみるか
「天が呼ぶ!地がよ」
「へーっくしょん」
「人が呼ぶ!悪を倒せと」
「へーっくしょん」
「俺を」
「へーっくしょん畜生め」
ハンスお前は凄いよ。
着地した俺はハンスを降ろして
背中の創業祭を引き抜く。
是非、剣技を試したい。
魔王から伝授された大量のデータ。
これは歴代の魔王達によって蓄積された情報だ。
かつて剣を使う魔王がいたのだろう
剣技もあった。
時間停止や転移など再現不可能な術が
ほとんどだったが体を動かす
体術関係なら、完璧でなくても
俺の身体なりに再現できそうだ。
結局の所、近接物理攻撃とは
状況に応じてどう体を動かすのか
そう言う事だ。
それに必要な筋力・持久力
瞬発力・などなど
これらをイメージ通り忠実に
再現出来るかだ。
再現可能にするための鍛錬だが
この生物では無いこの体には必要無い。
手近な悪魔に切りかかる為ダッシュする。
瞬間襲う違和感。
これは友達の自転車を借りた時の
感覚に近い。
再現を試みようとしている
俺の肉体と情報元の肉体との誤差によるものだ
さすが力のアモン、速すぎた
剣を振りかぶるタイミングを逸した。
やり直すのも格好悪いので
そのままタックルで弾く
飛ばされる悪魔の速度をよく把握して
再度ダッシュ。
魔核の位置を良く把握して・・・って
小さいな、俺のが野球のボール(170cm時)
ならビー玉くらいしかないぞ。
まあ斬ってみよう。
ベネットのをそのままコピーしただけの
大剣、アモン製創業祭を振る。
やばい
大気が抵抗なく切れていく手ごたえが
俺の手から伝わって来る。
いや
握っている先の剣自体が
まるで血の通った俺の身体みたいだ。
弧を描くスイングの最中
最も切断力の高いポイントが
刃の上を滑るように光って見える。
斬りたい物がその光が最大に輝く
瞬間とポイントに合わせるように
動く、自分はもちろん
相手だって動いている。
刹那
まさにその瞬間にしか
存在しない最大の切れ味の世界だ。
まるで精密な時計の歯車の様に
全て速度や大きさの違う歯車達が
その瞬間に合わさるような感覚。
刃が対象を通過する
自分の刃の速度、角度は当然
対象の固さや材質、
今どのくらい切れているかまで
その刹那の瞬間に全て俺に流れ込んで来る。
切った後のスイングも雑にはしない。
家に帰るまでが遠足であるように
用が済んだら終わりではないのだ。
音は出なかった。
振動させる事無く刃は通過した。
絶命した悪魔は飛ばされながら
分断された体、それぞれの質量
空気抵抗の差から分離を始め地面に転がった。
「キッタネエ・・・。」
悪魔耳が、ヨハンの呟きを捉えた。
えー上手行ったつもりだったんだが
後で聞いたところ
このセリフの意味はズルい
という意味だったそうだ。
武術に関しては俺よりヨハンの方に
数年では埋められない技術の差があると
自負していたそうだ。
現にそうだった。
組手の時、俺は動きは本気だった。
でも、結果はサンドバックだ。
それがたった数日の内に
本人がなんの鍛錬も無しに逆転した。
うん
キタネェな
斬り終わった姿勢、そこから繰り出せる
剣撃と最適な敵の位置を連続で解析していく
4体葬る頃には、最初に感じた違和感は
消え失せていた。
残りはチャッキーとヨハンが片づけていた。
「ハァ・・・ハァ、怪我人を」
息がまだ整わないというのに
ヨハンは治療に移ろうとした。
俺はヨハンの肩を掴んで止め
「見てみな」と言った。
俺に言われてヨハンは
周囲の人だかりを見る。
そこにはハンスが既に治療を
開始している姿があった。
「なっ・・・ええ・・・アレ?」
気が付いた様だ。
同じ魔法なのに治療のペースがヨハンとは
段違いに速いのだ。
「兄貴・・・あれっておかしくないか」
俺はほくそ笑む
おかしくないのだ。
昨日の晩、俺は構想中だった
圧縮言語のレクチャーをハンスにした。
圧縮言語
長い文章を短い単語で同じ意味にする造語だ。
良く使用される文節などで分けることで
色々な呪文に対応できる。
ハンスは呪文の圧縮に成功したのだ。
ちなみに完全人化した俺は
圧縮はおろか、全文読み上げても
一度も成功しなかった。
いいもん
エンチャントインキとスクロールがあるもん。
「アモン様!」
いきなり目の前にゲカイちゃんが現れた。
「うぉッ」
この認識の解除は怖い。
見えているのに気が付けない。
なんて例えるか
マネキンだらけの部屋で
一体だけそっくりマネをした
人間がいきなりバァってやった時の
ビックリ
が、近い感覚かな
「今の魔法の件も含めて打合せがしたい隠れ家にいけないか」
ゲカイちゃんを褒め頭を撫でながら
俺はヨハンにそう言った。
「いいぜ、じゃあ回収してくるわ」
ヨハンは踵を返して
治療とは別の人だかりに向かう。
「バリエアの平和はぁぉ俺がまもっ!!」
勝どきを上げているチャッキーを
捕まえるとヨハンは戻ってくる。
ハンスの治療が終了するのを待って
俺達はヨハンの隠れ家に移動した。
途中、昼飯用の食材を購入したが
ヒドイ
しなびた根菜が堂々と売っている。
ベレンなら新鮮なのが
もっと安く売ってるのにーやだー
散々文句垂れた俺を見たヨハンは
主婦みたいだと揶揄した。
料理はヨハンとハンスがやってくれる事になった。
俺は必要無いのだが、このメンツだと
俺だけがお預けになってしまうので
食いづらいから一緒に食ってくれと言われた。
それもそうだ。
完全人化して頂くことにした。
堅い話は食後という事になり
普通の会話でにぎやかな食事になった。
食後に俺はゲカイちゃんに解除の
際のセリフとポーズの指導をする。
いいぜ ヘ(^o^)ヘ
|∧
/
てめえが
何でも思い通りに
出来るってなら
/
(^o^)/
/( )
/ / >
(^o^) 三
(\\ 三
< \ 三
`\
(/o^)
( / まずは
/く そのふざけた
幻想をぶち殺す
「・・・・ポーズとセリフに意味は」
「無いよ。でもカッコいいでしょ」
「くっーーいいなぁ俺もやりてぇ」
喜んでくれたのはチャッキーだけだった。
何でも命令してくれって言ってたわりに
ゲカイちゃんにあっさり拒否された。
何か怒らせたっぽいし
女の子は難しいなぁ。
出展
いいぜ:掲示板で流行ったAA。誰が作ったんだろう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます